Immigrant Song
再度二階のゾンビさんがいた部屋に戻り一階の様子を確認する。
一階の駐車場に一体いるようだ。
白のダウンジャケットをまだらに赤黒く染めた茶髪の、生前はパリピな雰囲気のゾンビさんが一体。
避難梯子の蓋を開いて梯子を落とすとパリピゾンビさんが迫ってきたがどうやら梯子は苦手らしくこちらを見上げ両手を振り回しながら一段昇っては落ち一段昇っては落ちを繰り返している。
パリピゾンビさんが一段昇って落ちたところで梯子に足をかけ顔を蹴りつけると上を見上げてバランスの悪い姿勢だったからか、そのままつんのめって転倒する。
起き上がらないうちにランタンハンガーをつむじに向けて振り下ろす。
「燕三条万歳!雪印万歳っ!」
槍とアスファルトに潰されパリピゾンビさんは脳漿と赤黒い血液をぶちまける。
指を反り返らせてビクビクと二、三度痙攣すると動きを止める。
そのまま白いダウンジャケットで槍を拭いながら周辺を警戒する。
「周りにはゾンビさんなーし」
パリピゾンビさんを引きずって裏手の方に放り投げ彼の葬儀とした。
「なむあみだ・・・なむあみだ・・・」
そのまま駐輪場を覗くとカバーがかかったバイクが一台あり、カバーを外すと確かにガソリンタンクにCB223と刻印がある。
鍵を差し込みセルスイッチを押すとすぐにエンジンはかかり新聞配達や郵便局のバイクが少しだけ格好良くなった音をだす。
ガソリンはタンクに半分程入ってるらしい、タイヤなどの確認も行い鍵を抜く。
「コイツのエンジンかなり調子良いな」
辺りを見回すがゾンビさんは見えない。避難梯子を昇って梯子を引き上げた。
時間は17時過ぎ、夕闇が街を覆い始めている。
二階の冷蔵庫を漁り豚肉と生姜の練りチューブを発見する。
「豚肉の生姜焼き一択だな。」
巌のように堅く心に誓い練り生姜のチューブと豚肉を冷蔵庫から取り出す。
自分の部屋に戻りドアの前に棚を置き簡易にバリケードを設置する。
必要そうな道具類をロフトに上げて、念入りにカーテンを閉めてガムテープとダンボールで光の漏れを塞ぐ。
テレビをつけて生姜焼きを作る、ご飯は昼の残りが炊飯器に入っている。
玉ねぎを薄めにスライスして先に塩をふった豚肉をフライパンに並べて炒め、肉の色が変わったら取り出し玉ねぎをしんなりの一歩手前まで炒めて肉を戻し砂糖、醤油、酒、みりんを適当に入れて火が通ったら生姜チューブを入れる。
生の生姜だと先に入れるが生姜チューブだと香りがとびすぎて分からなくなるので最後に入れるようにしている。
「生姜焼きも食べ納めかもな・・・あっ!キャベツが無い!」
しばらく探したが千切りキャベツなんて都合よく見つかるわけもなく、かわりにレタスを添えて食べた、美味しかった。
一応、皿等も洗いシャワーで身体を清め傷跡の確認などをした。
テレビでは二日後に自衛隊の大型避難作戦が始まる事を繰り返し告知している。
ロフトに昇り梯子を引き上げ電気を消し、ロフトに置いているスタンドを灯す。
いつも使っている登山用の80リットルザックに必要そうな道具を積めていく。
電気がいつまで使えるかが不安なのでランタンもガスが良いけどCB缶の方が手には入りやすい。
「うーん、お?そういやアダプターがあったな」
OD缶にCB缶をつなげるアダプターを詰めてガス関係はOD缶に使える物を入れていく。
テントはザックに入れずにバイクに括っとくか。
ランタン、バーナー、マットにシュラフ、カトラリーにチタン製の鍋セット。
もちろん雪印のKIWAMEだ。
「燕三条万歳!雪印万歳っ!」
炊飯にも運搬にも特化したアルミの方が優れていることはよくわかっている、だがしかし耐久性を加味するとどうしてもチタンに軍配が上がってしまう。
「あっ某MSAのチタンフライパンも入れとこう」
他は充電が出来るか分からないから充電式のランタンは無しだな、電池詰め替え式のヘッドライトだけ入れるか。
小型ラジオも持ち運びを考えて単4で揃える。
あとは食料にテールウエストな会社のお湯を注ぐだけで食べられる乾燥米と缶詰めをザックに入るだけ詰める。
肌着やパンツ、ナイフ等も選んで準備を終える。
ザックが膨らみ過ぎたので泣く泣く食料を少し外した。
準備も粗方終わってベッドに横になる。
「このベッドもけっこう使ったな」
そんな事を考えながら目をつぶるとすぐに意識は暗い闇に溶けてしまった。
夜半に突然けたたましくサイレンが鳴り響く。
━━━ウゥゥゥーーーウゥゥゥーーー━━━
━━━こちらは久留米市です大分側から大量の感染者の移動が確認されました━━━
━━━ウゥゥゥーーーウゥゥゥーーー━━━
━━━こちらは久留米市です大分側から大量の感染者の移動が確認されました━━━
━━━ウゥゥゥーーーウゥゥゥーーー━━━
━━━国分駐屯地より避難誘導に参ります━━━
━━━ウゥゥゥーーーウゥゥゥーーー━━━
━━━こちらは久留米市です大分側から大量の感染者の移動が確認されました━━━
━━━ウゥゥゥーーーウゥゥゥーーー━━━
音が反響してうまく聞き取れないが東側、逃げようと思っていた山側がダメになったという事だけは分かった。
テラスから外を見ると山側からポツポツと人影がフラフラと歩いてこちらに向かってきている。
またその奥の方、浮羽や善導寺の方向には赤く燃える火柱と黒煙が上がっていた。






