Over the Hills and Far Away
昼飯も食べて現在13時過ぎ、階下の確認とバイクの確認をしていく。
三階と二階は一通りノックしたが反応は無く二階の部屋で一カ所鍵のかかっていない部屋も見つけた。
一階は申し訳程度のエントランスだがオートロック完備なので駐車場確認中にゾンビがくるとセーフエリアだった建物内にゾンビを引き込むことになってしまう。
「二階の部屋から避難梯子を使って確認が良いかな?」
鍵のかかっていなかった部屋のドアを少し開け中に入っていく。
人気は無くテーブルの上には鏡と化粧品が置かれている。
どうやら部屋主は女性だったようだ。
テラスに出て下の様子を見ようと手すりから顔を出すと隣のテラスとの避難壁に人の手が生える。
━━━ドンッ━━━
「う゛ぁぁう゛ぁぁぶぁぁぁ」
すでに避難壁は半分程壊され壁の奥からは血走った眼と、こちらを捕まえようとのばされた手が鼻先までのばされていた。
振り向いて部屋に入ろうとするとロフト上から人が落ちてくる。
━━━ズンッ━━━
「ぁぁぁぁあああっ あっ あっ」
気付いていなかったがロフト上に部屋主はいたようだ、そしてさらにロフト上に男性のゾンビがまだいるようだ。
「ゾンビのカップルかよっ!」
彼氏さんが先にゾンビ化したのか彼女さんの損傷が激しい、どうやら起き上がれないようだ。
後ろを振り返りまだ距離がある事を確認して彼女さんゾンビの頭を蹴飛ばしながら玄関へ急ぐ。
三体を一度に相手にするのは無理だ。
特にメンタルがヤバい、急ぎすぎて冷静に動けない、そこまで考えたところで彼氏ゾンビがロフトから落ちてきた。
━━━ズンッ━━━
その音を後ろに聞きながら身体ごと急いでドアを閉める。
━━━ドンッドンドンドン━━━
中からドアを叩く思ったより力が強い、もう一体ゾンビが来たらドアが破られる。
大きく息をしながら考える。
「落ち着くんだ素数を数えて落ち着くんだ・・・素数は自分の数と1でしか割れない孤独な数字・・・1・・・2・・・3・・・5・・・7・・・11・・・13・・・私に勇気をぉぉ」
━━━ドンドンドンドンッドンドンドン━━━
「あっヤバいっおまえらを怒らせたのは確かにオレだ」
目の前でドアの上の蝶番がはずれ始める。
時間がない、走って三階に向かう階段を上り切るとバンっとドアが外れ床を叩く音がする。
廊下に設置してある消火器を手にとる。
階段の上から下を見るとすでにゾンビさんは踊場まで迫ってきている。
彼氏ゾンビが先に迫ってきた消火器を両手で振り上げ思い切り頭に投げつける、顔の真ん中にぶつかり良い音が鳴る。
未使用消火器は鈍い金属音をたてながら踊場の隅に転がっていく。
彼氏ゾンビさんはバランスを崩し階段を滑り落ちたがもう一体の女ゾンビがすぐ目の前に迫る。
ランタンハンガーを構えて頭を狙ったつもりが首元に刺さる。
ゾンビさんは身体に刺さったランタンハンガーなど気にも留めずにそのままの勢いで迫ってくる。
「ぁぁああいぃぃう゛ぁぁう゛ぁぁ」
左手で服の袖を持ってゾンビさんの口元に肘を突き入れる、運良く前歯を折ったらしく想像したような痛みは無い。
彼女ゾンビさんは焚き火をしても穴の空かない丈夫な上着を噛み切ろうと激しく頭を振りながら頭を押しつけてくる。
押し負けないように腰を落として足を踏ん張り腰からナタを取り出しゾンビさんの首に叩きつける。
一回、二回、三回・・・ゾンビさんの血でナタがすっぽ抜けそうになりながらナタの柄に付けた紐を指に絡めながら四回、ここで骨にあたる感触がした、そのまま五回、骨と骨の間に刃が食い込む、六回、七回、魚の頭を捌いて落とす音を何倍も不快にしたような音を最後にゾンビさんは動かなくなった。
急いで彼女ゾンビさんから離れ下を見ると彼氏ゾンビさんは後頭部から踊場に落ちたらしくビクビクと痙攣しながら事切れていた。
「へっタラコ唇めっ」
彼氏ゾンビさんは唇を口の下に垂れ下がらせ顎に明太子をくっつけて歯茎を剥き出していた。
いまだに首から赤黒い血液を垂れ流し床を染める、胸を齧られ赤黒い肉の間から肋骨が見える女からランタンハンガーを引き抜き座り込む。
「あぁ、あと一体部屋にいたな・・・くそっ」
正直、何もしたく無かったがドアのはじけた部屋に戻り玄関付近まで這っていた彼女さんゾンビの頭にランタンハンガーを打ちつける。
「燕三条万歳っ!ぁぁーくそっ」
鈍い音と共に赤黒い血液と脳漿を散らばらせて動かなくなった彼女の服で槍とナタを拭い彼と彼女達をテラスから放り投げる。
「ちょっとくるなぁ」
主に腰にくるのである。
一旦、自分の部屋に戻り槍とナタを水洗いして油を塗り手入れをする。
自分も浴室でシャワーを浴び傷が無いか確認をした。
左肘に歪な歯形があるだけで傷は無いようだ。
時刻は16時、もう一時間程ですぐに日は沈む。