Blow Out
時刻は22時過ぎ頃、廊下を歩くが6階に人気は無い。
5階から7階まで吹き抜けになったエントランスホールの階段を降りながら7階の方を見上げると確認の為か大勢の人が集まっているようだ。
少し波があるのか船はゆっくりと揺れている。
手すりに掴まる必要は感じないが揺れる足下に言い知れぬ不安感を感じているとイチゴが後ろから話しかけてくる。
「わわっ!揺れてるね!」
「やっぱり海の上なんだよな」
「ねっ!海、荒れたりしないよね」
「どうだろうな?天気予報とかも無いはずだけど?」
「ええっ?怖いこと言わないでよ!」
「ははっ、でも船に気象情報とか見えるやつはついてるんじゃないか?」
話しているうちに5階に下りる。
大浴場の方にも人気はなく極々少人数の人が利用しているようだ。
コインランドリーのスペースに入り洗濯物を洗濯機に入れ硬貨を入れるとイチゴが思い出したように言った。
「久しぶりにお金使ったかも!」
「そういやそうだな」
「自動販売機とかも使えるのかな?」
「商品が入ってれば使えるよな?」
辺りを見ると小さなテーブルにカゴが置かれ油性の黒マジックで「ご自由にお使い下さい」と書かれてる。
見るとカゴの中程まで100円玉が詰められていた。
「イチゴ100円用意してくれてたみたいだぞ」
「あ!ホントだっ!ご自由にお使い下さいって・・・」
「よく考えたらすごいよな」
「100円玉の掴み取りだねっ!」
「自販機に行こうか!奢るよ?」
「いやいや私が奢ってあげるからね?」
そんな事を話しながらカゴから100円玉を何枚か貰う。
洗濯が終わるまで30分程、自販機に飲み物を買いにエントランスの方に連れだって歩く。
不意に上から怒声と悲鳴が聞こえ始めた、
「こいつっ!感染してるぞっ!」
「ちょっ!やめてっ!やめて下さいっ!彼は船に弱くて体調を崩してっ」
エントランスの吹き抜けを見上げる。 手すりの近くに感染したらしい人と、その知り合いの女性がいて、それを男性が見咎めたらしい状況だった。
だが感染したらしい人はすぐにゾンビ特有の呻き声を上げながら、それまで自身を庇っていた女性に後ろからしがみつき首元に噛みついた。
「ぃぃいいぅぅえぇぇぃぃいい」
「いやぁぁぁっ!やめてっやめっ!」
イチゴと顔を見合わせる。
部屋に武器を取りに戻ろうと走り出そうとするが、7階からゾンビに噛みつかれた女が足をフラフラとさせ手すりを越えて落ちてきた。
足は折れ曲がり頭蓋をぶつけた女は膝立ちに起きあがると濁った白目を剥いてこちらに唸り始める。
「う゛ぁぁぁおぉぅぅぇぇぃぃい」
足の骨は折れた拍子に肉を突き破り膝で歩くような姿で、後ろに歪んだ足先を引きずりながら近付いてくる。
「イチゴやるぞっ!」
「うんっ!」
俺はそう言うとステンレス刀を引き抜き腰だめに構えると右手に柄を持ち左手で峰に左手を添わせ、鈍重に床を進みくるゾンビの眼窩に向けて刀を突き入れる。
狙い違わず刀は目玉を突き破り頭蓋まで貫通する。
「切れ味が鋭すぎるっ!」
素早く引き抜いて首に向けて打ち付ける。
一振りで首骨に刃が届き、首を落とす事は出来なかったがゾンビを仕留める事は出来た。
首を皮一枚でぶら下げたゾンビは身体を痙攣させながら床に倒れ、動かなくなった。
「マサシっ!まだくるよっ!」
イチゴが叫び7階を指さすと上では何人かの人間が噛まれゾンビかしたのか戦いが続いていた。
探索や保安の人間もきているらしく一部では制圧出来ているようだが一部ではゾンビ化した人間を必死に階下に向けて落とそうとしていた。
━━━ドンッ━━━
━━━ドンッ━━━
━━━ドンッ━━━
死神の足音とともに複数体のゾンビが落ちてくる。
周りを見渡すが探索保安の人間はいないのか大浴場か出てきた人等は状況に気付くと悲鳴を上げ逃げ出していく。
「数が多すぎるよっ!」
イチゴが焦ったように叫ぶが援軍はこない。
ゾンビも頭から落ちた奴は動かず痙攣して動きを止めている。
足から落ちた奴も動きが鈍く脅威では無い。
ただ一部のゾンビは水泳の飛び込みで腹から飛び込んだように落ちている。
「ぁああぉおう゛ぁんんぃぃいおお」
「ぇぇええうぉぉおおお」
「う゛ぁがっぁあぇんぃぅう」
「ぃぃおおおぅぅぇえええ」
風邪もひかなそうな元気なゾンビが4体、すぐにでもこちらに向かって走り出してくるだろう。
「イチゴっ!部屋から武器を取ってきてくれ!」
「わかった!」
俺とイチゴは急いでエントランスの階段を目指して走り出す。
ゾンビは立ち上がりフラフラとしていたが、こちらを向くと一斉に走り出してくる。
先頭のゾンビはショートカットの女ゾンビ、ぴったりとしたスキニーなデニム穿いて黒色のニットを被っているが落下の衝撃か頭からズレ落ちそうになっている。
そして首元をやられたのか白系のロングTシャツの首元が真っ赤に染まり白目を剥いて両手を振り乱している。
イチゴが階段を上り始めるのを確認しゾンビ達の先頭の首めがけて刀を両手で握り込み叩きつけざま脇を通り過ぎる。
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