No Surprises
冬の終わりの晴れた日、ハウステンボスの港から200メートルから300メートル程離れた洋上に船がとまった。
船から5人ほどゴムボートに乗り降りてくる。
ハウステンボスの幾つも並ぶ桟橋にゴムボートを付けて海上自衛隊の人間がやってくる、警戒した様子で銃を肩からかけヘルメットや防具のようなプロテクター等も装着し周囲を確認している。
タケハラさんとカワカミさんが出迎えると1人が前にでて話し始める。
ハーバーゲートの方を指差し相談しているようだ。
港の周りには探索班やアムステルダムの人間が集まり荷物の搬出準備が続いている。
軽トラックを2台使い、集めた資材や一週間分程の食料や水等を縛ったりダンボールやプラスチックのコンテナに整理して運んだりとおおわらわだ。
オレとイチゴは建物の前にCB223を停めシートにもたれ掛かりながら待機している。
「船きたね!」
そうイチゴが目を輝かせながら指差す。
「3往復くらいの予定かな?」
「うん、分からないけど大きいよ?」
「大きいけど?フェリーとか見たことある?」
「あー確かに比べると少し小さいかな?」
「あの船25メートルプールよりちょっと大きいくらいだよな?」
話しているうちに向こうの話しもすんだのかタケハラさん達と話していた海上自衛隊の人達の1人がトランシーバーで連絡する。
しばらくすると船が洋上から桟橋の外縁部にある場所に横付けするように動き始める。
タケハラさんが大きな声で指示を出した。
「資材の15番までとアムステルダムの避難者50人は船まで行ってくれ!」
しばらくすると船は外縁部に横付けされ幅広なタラップを港に下ろす。
船にかけられたタラップから人の手であらかじめ予定されていた資材等が運ばれていく。
積み込みが終わると静かに船はハウステンボスから離れていった。
タケハラさんが指示を出す。
「30分ほどで次の船がくるぞ!大きさは今の2倍ほどらしい!次のに避難者は全員と資材は全部積み込む!準備をしていてくれ!」
タケハラさんは少し離れた場所にいた人達に何事か指示を始める。
ぼんやりと慌ただしく動く人達を見ていたらシブヤさんがメグミちゃんを連れて通りかかった。
「ん?ヤマダとイチゴちゃんは暇なのか?」
「はい」「はーい」
「ああ、資材探索が皆勤賞だったからほぼ休みか」
「そうみたいです」
「探索班は最後の便にまとまるみたいだ、まだまだ時間あるみたいだぞ、次が30分後で積み込みが単純に倍だから1時間半から2時間くらいで、その次の船が30分後だから足して3時間後くらいか?」
「けっこうかかりますねー」
「わーまだけっこうかかるー」
「まあ港から離れるわけにもいかねーからな、向こうにアサコと座ってるんだがくるか?」
「いこーいこー!ねーいこー」
ぐいぐい行くイチゴを落ち着けながらシブヤさんに尋ねる。
「お邪魔して大丈夫ですか?」
「ああ、こっちも暇になったんでブラッとしてたしな」
「ならお邪魔します」「わーい」
オレはそう言うとCB223のスタンドを上げてシブヤさんについていく。
集まって慌ただしく荷物を動かす人の後ろの拓けた場所に腰掛けるのにちょうど良い高さの箱や椅子を置いてペール缶に薪を突っ込んでミヤザキさんが暖を取っている。
「あれ?飲み物は?」
ミヤザキさんがシブヤさんに気付いて声をかける。
「ほら飲み物を持ってそうな2人を連れてきたぜ」
「なるほどー」「ええ?」
シブヤさんから雑な紹介をされて空いた椅子にイチゴと座りながらザックからケトルを出し水を入れながら尋ねる。
「マグカップ持ってますか?」
「ああホームセンターにあったやつをもってるぜ」
そう言うとシブヤさんメグミちゃんアサコさんはゴソゴソとリュックの中から鹿番長のステンレスマグを取り出す。
ケトルも水も足りそうに見えなくなったのでチタンクッカーに水を入れ替え、ペール缶の上に適当にロストルになりそうな鉄の網、たぶんメタルラックの天板を載せてお湯を沸かす。
「イチゴそういやトランプ拾ってなかったっけ?」
「あーあるよ?メグミちゃんトランプやる?」
恥ずかしそうにメグミちゃんは「うん」と頷きシブヤさんも「おーいいなーローテクな遊びとか久しぶりだ」なんて言っている。
「しかたないわね私が配ってあげるわよ」そう言ってミヤザキさんがトランプをイチゴから受け取り混ぜながら尋ねてくる。
「ところでなにしよっか?」
「大富豪」「大富豪!」
「ババ抜き」
「ババ抜き?」
「七並べ!」
「おう時間はあるし、一つずつやってみようぜ」
そうシブヤさんがまとめ大富豪から始めた、メグミちゃんがルールを知らなかったのでシブヤさんとミヤザキさんが教えながらゆっくりと遊ぶ。
しばらくするとお湯が沸いたので緑茶のティーパックを2つ入れて5人分のお茶を作り、それぞれのマグに注ぐ。
そうしていると2便目の船がきて荷物の積み込みをして、その後にたくさんの人が乗り込んでいく、途端にハウステンボスから人の気配や雑多な物音等が無くなり静寂だけが辺りを支配する。
「また30分もしたら出発だな準備するか」シブヤさんがそう言いトランプやマグカップを片付ける。
メグミちゃんはまだ遊んでいたかったみたいで「また遊んでね!」っと何度も言っていた。
シブヤさんとミヤザキさんも「向こうで落ち着いたら、また集まって飯でも食おう」と言われ別れた。
イチゴと2人でCB223を押してガランとしたハウステンボスを見渡しつい口から言葉が漏れる。
「人いないと寂しく感じるな」
「ねーまだ時間あるかな?」
イチゴが尋ねてくる。
「20分くらいあるんじゃないか?」
「ねーねーわたし達のおうちだったとこ、最後にもっかい見に行かない?」
「うん、行ってみようか」
CB223を置いて2人でアトラクションタウンに歩く、途中でカワカミさんと腕を組んで歩くナカムラさんと軽く会釈してすれ違う。
「もう船がくるから早めにな」
カワカミさんはそう言うとアムステルダムシティに歩いていく。
「そう言えばカワカミさん達も2人で暮らしてたんだよな」
「うん、そうだったね」
そう話してると1ヶ月近くイチゴと暮らした建物が見える。
中は朝に出てきた時そのままだ。
灯油が少しだけ残ったストーブ。
棚として使ってた何かの箱に2人分のお皿にイチゴがどこかから拾ってくる猫の置物やらが乱雑に並べられた場所。
2人で隠れてご飯を食べる時に使った椅子とテーブル代わりの箱。
壁際のソファーには毛布が一つ畳まれて置いてある。
イチゴと手をつなぎ中を見渡しながら2階も見に行く。
ベッドが2つくっついて並べられ、上には畳んだシーツと毛布に布団が置かれ、角には持っていけないがイチゴが使っていた大きめの鏡がある。
窓はしっかりと閉じられ3月の少し春めいた陽がレースのカーテン越しに部屋を温めていた。
「ここに戻ってくること無いんだよね?」
そうイチゴが話し出す。
「そうだな、もしもゾンビが居なくなったらわからないけど、たぶん戻ってこれないかな」
「うん、そうだよね」
鼻をぐすぐすさせながらイチゴが強く手を握ってくる。
「オレはいるからな」
イチゴは横から抱きつき顔を腕にうずめると「ちょっとだけ待ってね」そう言う。
イチゴの頭を撫でていると急に顔を上げて話し出す。
「ねぇ!表札かけとこう!」
「ん?表札?」
「うん、表札」
そう言うと1階に下りて蒲鉾板みたいな小さな板をイチゴがどこからか取ってくる。
その板とマジックをこちらに向けて「名前書いて!」っと言うのでフルネームで【ヤマダマサシ】と書くとイチゴに渡す。
イチゴは名前を書くのに何回か悩んでマジックを持って「ううん」とか言っていた。
しばらくすると船がきたのかアムステルダムシティの方が騒がしくなる。
「イチゴ船が着いたみたいだ行くか」
そう声をかけるが「ちょっとこっち見ないで」と言ってくる。
外に出て待ってると、板を持って建物の前にちょこんと座り大事そうに立てかけた。
「よしいこー!」
イチゴは慌てているのかオレの腕を取り、走り出そうとする。
急かされて後ろを振り向くと表札にはオレの名前とイチゴの下の名前だけが書かれていた。
目ざとくイチゴが気づき頬を赤くしながら「見なくていいから!」なんて言いながら腕を引かれ港に戻った。




