It’s A Beautiful Day
間借りしてる建物にバイクを入れてソファーにもたれるように座るとイチゴもちょこんとソファーに座る。
「つかれたなー」
「ねぇー」
「お茶のティーバッグあったっけ?」
「たしかねー緑茶があった気がするけど飲む?」
「うん」
そう言うとイチゴは甲斐甲斐しくお湯を沸かしてくれる。
お湯が沸くのを待ちながら、また2人でソファーに沈み込む。
登山用の小さなケトルから柔らかな湯気が染み出してカタカタと蓋が暴れ出す。
イチゴが火を止め金属製のマグにティーバッグ入れてお湯をゆっくりと注ぐ。
少し肌寒くなってきたのでオレは2階から毛布を取ってくる。
一つの毛布に2人でくるまりマグカップを両手で持ち息を吹きかけながらお互いに言葉もなく1日の疲れを労う。
こんな時間がいつもあって、明日も明後日も続けば良いなと思った。
日が落ち暗くなってくるとどちらからともなく「夕飯を食べに行こうかと」言い、連れ立ってアムステルダムシティに歩く。
イチゴの歩幅は狭い、なるべく気付かれないようにゆっくりと歩く。
気を使ってるわけじゃないし理由なんて詮索する方が野暮だ。
「もう橋は下ろしたかな?」
「昨日はまだだったしもう少ししたらおろすんじゃないかな?」
「そういやそうだったな」
「ふふっ変なのー」
どうでもいい事を聞くときは声を聞きたいからなんだって簡単な話しだろ。
そんな事を話しながら歩いてると後ろからシブヤさんが歩いてくる。
「よぉお前ら仲良いな」
そう言いながら横に並ぶと続けて言った。
「そういや寒いだろうと思って石油ストーブお前らの部屋に置いといたから気をつけて使えよ、灯油の配給は週に20リットルあるかないかだ大事に使え」
シブヤさんは「それと」と言いながら続けた。
「ウォーターサーバーの余りがホテルにあるらしいから帰りに貰って行くと良い」
「わー!ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「今日の晩飯はなんだろな昨日と比べんなよ」
そう言うとシブヤさんは笑った。
海から吹く風は冷たく雪が降らないのが不思議なくらいだ。
遠くの星まで綺麗に見える。
鼻から息を吸うとツンッと沁みる。
「鼻から息を吸うと痛い」
俺がそう言うと2人はクスクスと笑っていた。
3人並んで広場に着くと今夜もナカムラさんが炊き出しの中心にいて温かな食事を手渡していた。
席を取って炊き出しに並ぶとタニグチさんがいた。
「こんばんは、今日はお疲れさまでした」
「ヤマダさんイチゴちゃんこんばんはシブヤさんも」
「おーおーオマケか俺は?」
「いやそう言うわけじゃなくて」
「隣のベッドで寝てるのに冷てーなー」
「隣って言っても二段ベッドの、こっちは上でシブヤさんは下ですよね?」
「隣だろ?」
「隣ですけど」
そんな話しを聞きながら並んでいるとすぐに順番が回ってきた。
「こんばんは」
「こんばんは」「こんばんは」
「ミライちゃんタニグチが冷たいから肉減らしといて」
「ちょっとシブヤさん!」
「お肉が入るかは運だから何とも言えませんけど、今夜のメニューはキャベツが悪くなりそうだったからキャベツたっぷりのミネストローネと魚がたくさん穫れたみたいなので何かしらの魚のフライのフィッシュバーガーです」
そう言ってナカムラさんはニッコリ笑う。
「温かいうちに食べて下さいね」
微笑みながらナカムラさんはお皿を渡す。
鮮やかな赤色の煮込まれたトマトの匂いに胡椒やブーケガルニエの複雑な香味が鮮やかに薫る。
料理を受け取るとテーブルに戻り食べ始める。
「いただきます」「いただきます」
「こりゃ美味そうだ」
3人で手を合わせスプーンで口に運ぶ。
チーズやバターのコクも感じらる。
よく煮込まれたトマトと玉ねぎの甘味。
火が通り柔らかくなった人参やジャガイモにキャベツが絡み疲れた身体に染み渡る。
また厚切りのベーコンが肉の甘味や旨味、脂と適度な塩加減を加える。
フィッシュバーガーも千切りキャベツたっぷりにタルタルソースがよくあう。
ゆで卵、さらしタマネギと少しだけ入ったピクルスがアクセントになり、魚のフライをさっぱりとジューシーに彩る。
たぶん使える材料や期限などを考えて作られているんだろうが美味しい物を食べさせる工夫がなされている。
とても一皿では足りない味わいだ。
「おかわりいってくる」っとイチゴが言うが早いか小走りに炊き出しの列に並びに行っている。
よく見ればタニグチさんもまた並んでいるようだ。
シブヤさんとゆっくり立ち上がりおかわりの列に並ぶ。
その後おかわりを貰いお腹がいっぱいになり、食事を終えた。
シブヤさんと別れウォーターサーバーを貰って戻る。
その後ワッセナーのお風呂に入りに行って、間借りしている部屋に戻る。
ストーブをつけて部屋を温める。
ストーブの上に置いたケトルが沸くとイチゴがお風呂から帰ってきた。
「ただいまー」「おかえりー」
「ココア貰ったんだ、のむだろ?」
「のむぅ!濃いめでお願いしますっ!」
ココアの粉を入れたマグカップにお湯をゆっくりと注ぐ。
そこらにあった割り箸を二つに分けて混ぜると柔らかな湯気と甘い香りが部屋中に広がる。
ソファーに二人で沈み込み、息を吹きかけながらマグカップに恐る恐る口を近づけ少しずつすする。
ふんわりと小さな花がほころぶような甘さを感じながら隣を見ると、イチゴはニコニコとしながらマグカップに息を吹きかけていた。
目が合うと微笑み、オレも同じように微笑み返した。
ココアを飲み終えると片づけをしてストーブを消し2人で一つの毛布にくるまり休んだ。
故高畑勲氏が物語のなかで、そこに住む人がどんな暮らしをして、どんな食事をするかを描くことによって物語にリアリティが生まれるとの言を聞きチャレンジしたものの・・・
_(8o」∠)_ コトッ




