Another One Bites the Dust
炊き出しに並んで紙皿に盛り付けられたらご飯をもらう。
今夜の夕食はカレーだ。
どこの店の物かは分からないが、どこかの店の冷凍パウチのカレーとソーラー発電だけでは稼働できなくなった冷蔵庫から出された肉が大量に使われているらしい。
「お前ら運が良かったなこんなに肉が入ってるのは、ここ一週間じゃ無かったぜ」
そう言いながらシブヤさんはカレーを食べている。
広場の至る所にかがり火が焚かれお祭りのような雰囲気に多少の酒も出ているようだ。
辺りには牛肉の焼ける匂いもしていて、焼けた肉をのせてくれるらしい。
「牛肉だっ!貰ってきてもいい!?」
そんな事を言ってイチゴは肉を貰いに行く。
シブヤさんも「次に牛肉食べれるのはいつか分からんから食っとけ食っとけ」なんて言っている。
肉を取ってくると「おっそわけ」とか言いながら二切れこちらの皿にのせてくれる。
だがイチゴの皿にのった肉は六切れだったのは見逃さない。
目の前が海で運河の上に建っているような立地のためか驚くほど寒くイチゴの耳も寒さのためか真っ赤になっていた。
寒いなっとイチゴに言うと「コンビニでホッカイロ多めに貰っといたから服の中はぬくぬくだよ」なんて言っていた。
食事をしながらシブヤさんに気になっていることを聞いてみる。
「シブヤさん達がハウステンボスに籠もって一週間くらいになるんですか?」
「そうだな他の所はどうかわからないが、ここらへんじゃ2週間前くらいから、あのくそったれなゾンビ化感染が始まった。
色んな場所にたてこもったりしながら逃げてたんだ」
そのまま彼は続ける。
「けど自衛隊の避難移送や米軍との協力である程度人がまとまれる場所を探していった結果、ハウステンボスの橋を落として、ここの奪還作戦したのが一週間前くらいかな?」
「それまでは小学校とかに避難してたんですか?」
「ん?そうだな俺も地元の小学校に逃げててそれでも内部感染や周囲からゾンビが来たりで始めは300人くらいが避難してたのが20人くらいになった。
もうダメかと思ってたら自衛隊の避難移送でこっちにこれたんだ。
たぶんここに避難してる人間は似たようなもんだろう」
「どこの避難場も大変よね」
頷きながら、そうイチゴが答える。
「ああ、それと気付いてるかもしれないが、ここには自衛隊に子供や老人とか動けない奴が少なく見えるだろう?」
「そう言えばそうですね特に自衛隊はアートガーデンで2~3人物資集積してる所でチラッと見ただけです探索班も一般人の集まりみたいだし」
彼は少し小声になり囁くように話し出した。
「これは避難者の中でも上のもん少数とまだ探索班にしか知らされていないが、五島やらの離島に避難場を用意しているらしい。
ここはその繋ぎみたいな場所って話しだ」
「それでここの自衛隊の数が極端に少ないんですね」
「ああ、それと女子供老人に傷病者はここより安全な大浦湾に点在する横島とかに連れて行って貰ってるはずだ。
ここみたいに戦える奴が揃ってる避難場に物資の補給が少ないのも、そういう場所に届けているからみたいだな」
「ここ以外にも何ヶ所か似たような避難場があるんですか?」
「長崎市内の方にもあるらしい、向こうは軍艦島を弄ってるはずだ、ここらへんは船を持ってる奴も多いから燃料さえあれば安全に往復出来るしな」
「そう言えばゾンビは運河を泳がないんですか?」
「そこが不思議なんだよな。
あいつら土嚢や障害物が間にあると引っ掛かるくらい無頓着に寄ってくるかと思えば、川や海、堀とかには絶対近付かないんだよ。
なんなら水たまりさえ避ける個体を見たぜ」
「狂犬病みたい・・・」
イチゴがポツリと呟く。
「あら貴方達もう来てたの?」
そう言いながらミヤザキさんがカレーを持ってテーブルに着いた。
「あーわりぃお前もこいつら飯に誘いに行ってたのか?」
そうシブヤさんがミヤザキさんに話しかけるとミヤザキさんは「一応ね」とシブヤさんに答えていた。
「さて二人とも足りない物とか困った事とかはないかしら?」
オレが悩んでいるとイチゴが答える。
「お風呂って今日はいれるんですか?」
「お風呂は・・・」
━━━カーン、カーン、カーン━━━
遠くから鐘の音が鳴り始めるとシブヤさんとミヤザキさんが立ち上がる。
「ゾンビの襲撃だっ!」
「行くわよあなた達も付いて来て」
2人そう言うとアトラクションタウンへと走り出す。
2人の後を追い俺達もアトラクションタウンへと向かい槍やナタ弓矢に銃を装備してフラワーロードに向かう。
門の所には左手に棍棒を持ち右手に盾を持ったカワハラさんが居て周りの人達に指示を出している。
「入国口より報告で駐車場に20体程のゾンビを確認したらしい。
入国口のバリケードを使いながら長柄の武器持ちは集まり近付き次第攻撃、接近し過ぎるようなら一度退避してくれ。
先陣はシブヤに任せる。
ミヤザキは少し離れて弓隊を任せる。
一時待機してシブヤ隊が危なくなればシブヤ隊の後退を援護してくれ。
その間にシブヤ隊と私の盾隊で陣形を組み再度攻勢に出る。
それでも殲滅出来なけれ後退を繰り返し跳ね橋まで下がる」
「おぉぉぉー!」
集まった人は槍隊が20人ほど弓隊が15人程に盾隊が20人程だった。
「ヤマダ君は槍隊にキシダさんは弓隊に入ってくれ」
「おぉこっちだきてくれ!」
シブヤさんが手を振る方へ行く。
イチゴもミヤザキさんの所に小走りに近寄った。
「ヤマダ、俺達は先に減らせるだけゾンビを減らして危なくなったら直ぐに下がるぞ。
始めから盾隊出すと危ないからバリケードの影に隠れながらやるんだ。
下がったらカワハラさんがもたせてくれるから盾隊の後ろからまたゾンビの頭狙っての繰り返しだ、頼むぞ!」
そう言うと周りに一言二言言うと小走りに入国口へ近付いていく。
そこには20体以上のゾンビがバリケードに向かい押し寄せてきていた。
「う゛ぁぁぅぁう゛ぁぁっう゛ぁ」
「うううぅぁぁぁぐぁぁっ」
「しゃぁぁぁぁ」
「報告よりゾンビが多いっ!お前ら出来るだけ頭つぶせっ!」
シブヤさんが言うが早いかバリケードに張り付くゾンビに目掛けランタンハンガーを突き入れる。
槍隊で5体は倒したところでシブヤさんが叫ぶ。
「やめぇっ!下がるぞっ!」
ゾンビ達から目線を切らず2~3歩下がり後ろを振り向きざま脱兎のごとく駆ける。
後ろでバリケードが倒れる音がすると風車の影で少し高くなった場所に弓隊が並んでいてミヤザキさんが号令をかける。
「もう少しだけ引き寄せて・・・今っ!放てぇっ!!」
ミヤザキさんの横にはイチゴもいて真剣な顔で狙いを定めていた。
「よしもう一度、構え、引けっ、放てぇっ!」
カワハラさんの所に着くとカワハラさん達、盾隊はジュラルミンの盾や盾のような物を持ち、一歩前に出ると号令を飛ばす。
「2人一組にぃ盾構えっ!ゾンビに向け進めっ!」
その後ろからシブヤさんが続ける。
「盾隊の後ろに続けっ!盾隊が抑えたら死んでも外すなよっ!いけっ!」
そう言うと盾隊2人一組の後ろからゾンビが止められると頭を狙いランタンハンガーを突き出し続けた。
全体でどれほど倒したかはわからないが個人で4体ほど倒したところ静かになり、どうやら後はバリケードに引っかかったゾンビなど数えるほどしか居ないようだ。
「お前やるじゃないか!」
そうシブヤさんが肩を叩いてくる。
「それなんだよ?槍じゃないみたいだけど鉄の杭?」
そう言う彼が持っていたのは鉄パイプの先を斜めに切り落とした鉄パイプの竹槍だった。
「これはランタンハンガーって言ってキャンプでランタン吊す道具なんですけど鉄の槍とか鉄の杭みたいになってます。
それと、ちょっと伸縮できます」
「いいなそれ?ランタンハンガーならどれも似たような物なのか?」
「いや槍として使えるのはキャンプ用品、信頼の雪印ブランド、スクリュー・ドライバーだけです。
燕三条製なので」
「そっか燕三条か・・・こんど探索でキャンプ用品見に行くか」