Supersonic
山道をしばらく進むとイチゴが話しかけてくる。
「そう言えば何か格闘技とかやってたの?私は高校は弓道部でスッゴい下手だったんだけど大学に入ってからアーチェリー始めたら楽しくて」
「へぇー和弓よりあってたのかな?」
「うんうん、でマサシは?」
「高校じゃ授業くらいでしかやってなかったけど中学時代は昇段試験受かれば黒帯取れるくらいには柔道やってたよ」
「おぉー・・・意外」
「意外ってなんだよ!まあ寝技で耳が丸まるのが嫌で辞めたんだけど、柔道自体は好きだったよ」
「耳?耳ってなに?」
「柔道で寝技っていってレスリングとかみたいにフォールするんだけど、耳が押さえられたり擦れて内側に団子みたいになるんだ、高校の時の授業の柔道とか耳丸まった人と試合すると、すぐ転がされてたよ」
「へぇー耳がお団子になるんだ?」
「絶対、なんか違うこと想像してるよね?」
「ううん、耳がお団子の人は強いのね!」
「うん、そうそう基本スタミナのお化けで身体の造りが違うから」
そんな事を話しながら山道を登り切り下りが見えてきた。
なにもない道の離合スペースにバイクを停めて辺りを見渡すがゾンビなどは居ないようだ。
「武雄に下りていく前に昼飯を食べとこう」
「でもご飯どうするの?」
イチゴがそう尋ねながらバイクから降りる。
「まあ座って待っててよ」
そう言いながら寝るときに使っている蛇腹に折り畳まれ、ボコボコしているマットをザックから取り出し地面に敷いた。
ザックからバーナーとガス缶を取り出し接続する。
一つだけ入れていた500ミリリットルのペットボトル入りの水を雪印のチタンコッヘルに開けて、バーナーに火をつけのせる。
アウトドアバーナーの独特な音を聞きながらテールウエストなお湯を入れるだけで食べれる五目ご飯を2つザックから取り出しイチゴに尋ねる。
「五目ご飯でいい?」
「今から五目ご飯炊くわけじゃないよね?なんか防災とかアウトドア用品的なやつだよね?」
「うん、そうそうカップラーメンのご飯バージョンみたいなやつ」
「カップラーメンかぁー五目楽しみ!」
そう言ってるうちにお湯が沸いたので二つとも袋の内側の線までお湯を注ぐ。
カトラリーを一人分しか用意してなかったのでお箸と先割れの2つしかないので尋ねる。
「先割れスプーンとお箸どっちがいい?」
「お箸かな」
組み立て式のお箸を展開して五目ご飯の袋と一緒に渡す。
「熱いから気をつけてね、あと10分くらいで食べれるからちょっと待ってて」
そう伝えてからバーナーやガス缶コッヘルなどを片付ける。
食べ終わったあとにカトラリーを濯いで拭うため、コッヘルに残ったお湯をペットボトルに戻す。
「キャンパーだね!」
そうイチゴが話しかけてくる。
「そうそう趣味が登山とキャンプだから」
「へぇーアウトドアブームにのったの?」
「いやブーム前からキャンパーだったよ」
そんなたわいもない話しをしていると良い時間になったので袋を開ける。
「おぉー本当に五目ご飯だ!」
「味は人の好みだから美味しいかはわかんないけど食べてみて」
「あー美味しいっちゃ美味しいけど、うーん」
「わかる素直に美味しい!っては言えないよね」
「カップラーメンみたいな突き抜けたジャンキーさは無いけど炊飯器でちゃんと炊いたご飯とも違うし」
そんな事を言い合いながら食べる。
食べ終えると片付けをして、武雄市の方に山を下っていく。
懸念していたことをイチゴに伝える。
「ちょっと道分からないから武雄らへんは出来るだけ大通りを外れるけど市内を通ることになるから覚悟しといて」
「うん、分かった私もここらへん来たことあんまり無くて34号線いつも使ってたから任せるよ」
武雄市は山間部に突然現れたように感じる街だ。
周りを山に囲まれているのにそこだけぽっかりと人が食い破ったように建物が建ち並び温泉街や飲食店が通りに散らばっている。
田舎には珍しいチェーン店も軒を連ね一種異様と言える雰囲気がある。
山から下りると高速道路、武雄インターの付近に出てきた。
ちょうど34号線に出たが高速出口の事故が酷い、インター前の交差点にトラックが横倒しになり反対車線から飛び出した乗用車が正面衝突を起こしたらしく歩道しか走れ無い状態だ。
歩道にもゾンビがフラフラと歩いていて通れそうにない。
急いでUターンして通りを東に戻り交差点を右に曲がる。
こちらも放置された車両はあるがゾンビを避けるスペースはある。
しばらく進み再度、右に曲がり高架橋を通り道を進む。
右手前方に大型チェーン店のパチンコ屋が見える。
駐車場に大量のゾンビがフラフラと集まっていた。
「50人くらいか?いやもっといるな裏にもいる」
「ちょっとあれは不味いよ」
あれに気付かれると危険だと思っていたら1体がこちらを向いたと思うと、集団がこちらを一斉に見てくる。
━━━ぎひぃぃあぁぁぁう゛ぁぁ━━━
集まっていたゾンビが一斉に叫び一つの肉の塊のようになりこちらに迫ってくる。
車の1台や2台は物ともせず全てを呑み込むゾンビの濁流。
アクセルを吹かし、ギアを一速落としエンジンを高回転に上げトルクを稼ぎCB223を走らせる。
軽く前輪が浮くのを身体を前傾にし腕の力でねじ伏せ更にアクセルを吹かす。
回転数を維持したままギアを上げ通りを進む。
風が物理的な圧を持って顔を叩く、ゴーグルをメットから下ろし眼を守る。
サイドミラーを覗くと後ろではゾンビの濁流が障害物を呑み込み追ってきているが、人間の足と単車の速度差だけ距離は離れる。
「あれはびっくりしたね」
イチゴに話しかける。
今、気付いたがイチゴは必死に両手で抱きついてきていた。
その手にポンポンと左手で語りかけると緊張が緩和した。
「おっかなかったぁー」
大きく息を吐きながらイチゴが話し始めた。
「あれに襲われると逃げらんないよ!コンクリートの建物でも壊されそうだもん」
「あの量の集団は確かにバリケードも壊しそうだな」
そんな事を考えながら道行きは35号線に移りオレ達は人気の少ない山間部にバイクを走らせた。
個人の感想ですぅ
武雄市
なんかすごい都会っぽくなったけどアレですアレ!
ほらフィクションだから!