Live Forever
イチゴが落ち着いた頃合いで準備を始める。
タンデムシートに二人乗りするためにはオレのザックが邪魔になるのでバイクに括り付ける。
すでに後方の荷台にはガソリンの携行缶とテントを括り付けているのでサイドのバックサポートにザックのベルトが干渉しないように紐で縛って括り付ける。
ザックに付けていたランタンハンガーを背中に背負えるように仕舞い紐を取り付ける。
ランタンハンガー自体に短い紐を取り付けて長い紐を蝶々結びでくっつけて背中に背負う。
CB223に跨がりイチゴに声をかける。
「よし準備出来た乗り方わかる?」
「ありがと、ここに足乗せていいの?」
そう言いながらタンデムステップを指差す。
「そうそう、そこに左足乗せてオレの肩に手をついて右足を振り上げて反対側のステップに足乗せて座って」
「分かったやってみる」
そう言うとバイク左側のタンデムステップに左足を乗せ左手でオレの左肩に、右手で右肩に手を乗せて右足を振り上げてシートに腰掛け、右足をバイク右側のステップを目視で探して乗せた。
「うまいじゃん」
「ありがと」
そう言い合うと彼女は背中のリュックと肩に掛けた弓の位置を直し、腰に下げた矢筒を動かし半ヘルのベルトを調整した。
良さそうだったのでセルでエンジンをかけCB223を動かし始めた。
後ろから身体を乗り出しイチゴが話しかけてくる。
「もう少し大きいバイクに乗り換えないの?」
「燃費と馬力と走破性考えると乗り換えるにしても同じくらいのバイクが良い」
「燃費かー」
イチゴは納得したようだった。
「地図を見たんだけどこのまま高速沿いの下道を西に向かって、多久市の辺りから南下して山に入る。
江北過ぎた所の34号線を進んで武雄から35号線を波佐見まで進もうと思ってる」
「よく分からないけど分かった」
「うん、波佐見らへんの人口密集してない所で一泊して明日、余裕を持ってハウステンボスに行こうと思う」
「それは分かる!ゆけゴルシっはいどー!」
マニアックな馬だなおい・・・
「ねぇねぇマサシは何歳なの?」
「28だよ」
「ふーん、私は何歳に見える?」
「えっとB型?」
「なんで血液型の話しになるのよ!だいたい私はO型よ!」
「あーごめん、運転してるからつい、えっと20歳くらい?」
「お?残念!21歳で今年22よ」
(やっぱりB型じゃ・・・?)
時々現れるゾンビさんを避けながら道を進む。
多久市を超えた辺りでイチゴが話しかけてきた。
「ねぇねぇ休憩しない?」
「分かった、ちょっと待って猶予はどのくらいある?」
「・・・気が回りすぎるのも、モテないよ?」
「・・・うん、知ってる」
やっぱり男は黙って頷くくらいが丁度良いらしい。
辺りを見回しながらCB223を進めると寂れたガソリンスタンドを見つけた。
「あそこでいいかな?」
看板に茶色のサビが浮いた狭いガソリンスタンドを指差す。
「うん、ゾンビがいたとしても少なそうね」
一度ガソリンスタンドの前を通り過ぎ表の安全を確認してUターンして給油所に乗り入れる。
スタンドを足で下ろしてイチゴに声をかける。
「乗ったときと逆に動いて見て」
言い方が悪かったのかイチゴは右側に降りる。
どっちでも良いんだけど何かスッキリしないバイカーのサガか。
彼女が少し離れたところで大きく右足を振り上げバイクを降り腰のナタを取り出しやすい場所に動かして槍を構える。
イチゴもリュックを下ろし矢筒を調整して矢を一本取り出し弓につがえ構える。
ガラス張りのドアから店舗の中を覗くがゾンビの気配はない。
そのまま事務所とトイレまで確認するが安全そうだ。
「よし表を見張ってる今のうちにどうぞ」
「ありがと頼んだね」
そう言うとトイレに入っていく。
ガラス張りのドアから外を見張っていると倉庫の方からゾンビさんが出てくる。
作業用のツナギを着た60前後の禿頭の頭まで紫色に染まっている男性、身長は160Cmほど。
ツナギゾンビさんから目を離さずトイレのドアを少し開け小声でイチゴに話しかける。
「ゾンビ出た今のところ1体」
「えっ!あっうん分かった」
イチゴが返事をする間にツナギゾンビさんに気付かれた。
「気付かれた行ってくる」
「あっちょっと今、無理っ」
ゾンビさんがドアに張り付き手を振り上げる。
ドアの近くの観葉植物の影に身を隠す。
ゾンビさんが手をドアに叩きつけるとガラスは粉々に砕け、つんのめるように店舗内に侵入してくるがドア枠に足を取られゾンビさんが、すっ転ぶ、ゾンビさんの背中を足で思いっきり踏みつけ、そのままの勢いでうなじにランタンハンガーを突き刺す。
「燕三条万歳っ!」
ツナギゾンビさんは海老反りに身体を反らせビクビクと痙攣すると事切れる。
赤黒い糸をひくランタンハンガーを構え直し外に視線を切る。
さらに2体倉庫の方からゾンビさんが近付いてくる。
一体は小学校くらいの女の子、水色っぽいパステルカラーのズボンにピンクのトレーナー胸のところには日曜朝のアニメっぽいキャラクターのプリントに髪は頭の高い所でお団子を作っている。
その腹部は赤黒く染まり顔の肉も半分は削れ目蓋も無く眼球が剥き出しになっている。
もう一人は70歳くらいの背中が綺麗に曲がったお婆さんでモンペにかすりの上着、頭には日除けのツバが大きいほっかむりを被っている。
口元の皮膚は削れ歯茎まで剥き出しで血走った目をして四足獣のような動きでこちらに向かってきている。
パステルゾンビが早くこちらに向かってきているので槍を頭に突き入れる、大人の頭蓋より柔らかく一撃でランタンハンガーの半分まで刺さってしまう。
一度振って抜こうとするがランタンハンガーが刺さった衝撃で骨がしまったのか抜けない。
ランタンハンガーを手放し、すぐ近くまで迫ったお婆さんゾンビに相対する。
オレの腰の辺りの高さで頭を揺らしながらあと三歩の距離で急に飛びかかってきた。
怖気が背中を走るが、右足を後ろに半身に構え、迫ってくるお婆さんの右腕を掴み右下に引き倒す。
ガソリンスタンドのコンクリートに滑るように転がるお婆さんゾンビの頭に堅いブーツのかかとを思い切り踏み下ろすと夏の終りに道路を転がるセミを踏んでしまった音を何倍も不快にした音とともに動かなくなる。
━━━ヒュッ━━━
周りを見渡そうとすると風切り音が聞こえ、背後を振り向くと今にも掴みかかろうとする目を血走らせ耳から矢を生やしたオレと同年代の女性がいた。
そのままビクンビクンと身体を震わせ床に倒れ込んでいく。
「危なかったわね!何体?全部で四体っ!一人で三体も倒したの!?」
「助かったぁ」その場に座り込みたいのを我慢して大きく息を吐き出し同年齢ゾンビさんの首元に足をかけ矢を引き抜く。
「ありがとう、一人じゃないって心強いよ」
そう言いながら矢を手渡し、パステルゾンビさんからも同じようにしてランタンハンガーを引き抜く。
「雪崩みたいに急にくるからびびったぁ、ほら見てよ」
そう言いながら震えた手を見せるとイチゴは後ろから抱きついて強く手を握りしめた。
しばらくすると落ち着いたので「ありがとう」と言うと離れた。
そのあとは無言でガソリンスタンドの一家を同じ場所に寝かせ「なまんだぶ・・・なまんだぶ・・・」と二人で呟き、道具を手入れしCB223に給油をして出発した。