第34話 休日
日曜日に武活動大会があったので月曜日は振替休日であった。
今日はゴンと買い物に出かける予定だ。
「おい……すげー美人がいるぞ」
「あんな綺麗な女、初めて見たよ」
「でも……ダサいジャージだな」
駅前に集合する約束をしており、ゴンは俺よりも先に到着していたようで、天気のいい中、町を歩く男たちが彼女に釘付けになっているようだ。
いや、確かに可愛いからな。
ゴンは学校のジャージ姿でボーッとしながら突っ立っている。
「…………」
確かに可愛いけど、そんなに見惚れるほどか?
ゴンとの付き合いが長すぎて、そういう感覚が俺には分からない。
「おはよう」
「うっす。あー腹減った」
「いきなりだな……朝飯食ってないのか?」
「ギリギリまで寝てたんだよ。昨日は夜遅くまで本読んでたからな」
「……あえて本の内容は聞くまい」
「ボーイズでラブなやつだよ」
「だから聞かないって言ってるだろ!」
気怠い様子でハッキリとそう言うゴン。
俺は周囲の男の視線を浴びながら、彼女をエスコートするように言う。
「では、食事に参りましょうか、お嬢さん」
「……キモ」
「だろうな! 自分でもそう思うわ!」
魔が差したんだよ。
ちょっと一回ぐらいはこういうのやってみたかったの!
俺は顔を赤くしながら歩き出す。
「牛丼でいい?」
「悪くないけど、コスパは良くないな」
「コスパって……他にもっとコスパいいところあるか?」
牛丼以上にコスパのいいところなんて、思いつかないぞ。
ハンバーガーだってコンビニ弁当だって、牛丼には敵わないんじゃないだろうか?
いや、これは俺の個人的な感想ではあるが……
「食い放題」
「……確かにお前から見たらコスパ最高だな」
「おう」
「じゃあ食い放題行くか」
俺たちは近くにあるバイキングの店へと向かった。
そこは洋食を中心に、色んな食べ物が用意されている店だ。
値段はランチで1600円ほど。
高校生の経済状況から見れば安いものではないが、ゴンから見たら安すぎて昇天するレベルらしい。
目をキラキラさせながらゴンは次々に料理を皿に盛っていく。
積み上げられた食事の山。
周りにいた他の客は、ゴンの美貌とその量に仰天している。
「あ、あのお客様……残した場合――」
「分かってる分かってる。全部食うから」
「は、はぁ……」
一度に取り過ぎたのか、心配した店員が話しかけてきたがゴンは適当にあしらう。
そして手を合わせるや否や、凄まじい勢いでそれらを食べ始めた。
まるで象の食事だ。
「…………」
俺も見慣れたはずなのだが、それでもこいつの食いっぷりは驚愕の一言。
どんだけ食うんだよ。
目の前に積み上げられていた食事が、瞬く間になくなった。
「ふー」
「もう腹いっぱいか?」
「そうだな……まだ1割ってところかな」
「…………」
もうすでに10人前は軽く食ったはずだぞ。
まだそれで1割かよ……
ゴンの言葉に嘘偽りはなく、その後もバカみたいな勢いで食事をしていく。
店はゴンの食欲にてんてこ舞い。
次々に新しい食事を用意し、怒涛の忙しさになっていた。
何度かおかわりをしていると、とうとうこちらを睨み付ける始末。
俺は申し訳ない気持ちで体を縮こませていた。
なんかすいません。
俺の連れがなんかすいません。
「おい、ゴン。まだ食うのかよ」
「ったりめえだろ。まだ五分ぐらいだよ」
「ま、まだ五分かよ……」
「さらに食っている最中に腹が減っていくからな。無限に食えるってもんだぜ」
「どれだけ燃費悪いんだよ! お願いだからお腹一杯になって! そろそろ周囲の視線が痛くなってきたから」
「大丈夫だ。そんなのオレは気にしない」
「俺は気にすんだよ!」
結局ゴンは、制限時間ギリギリまで食事を続けたのであった。
今までは呆れていただけであったが、食い放題となればこんなことになるのかと戦慄した。
もうこいつとは食い放題に来ないぞ。
「ここも出禁になるかな?」
「他では出禁食らってんのかよ……」
「ああ。さすがに食い過ぎだってよ。ったく。そんなだったら食い放題なんて看板あげんじゃねえっての」
「限度ってもんがあるでしょ、限度ってもんが」
ゴンは【倉庫】からポテチを取り出し食べ始める。
「まだ食うの!?」
「まだまだ食うよ。あーあ。何かこんなだったら、異世界の方が住みやすいよな。王様にたかったらドンドン飯出してくれるし。モンスターは食べ放題だし」
「モンスターを食料と捉えてるのはお前ぐらいだよ」
飯の問題はまぁ別としても、確かに向こうの世界は住みやすいは住みやすいかな。
強かったらそれだけで英雄扱いしてくれそうだし。
シンプルで分かりやすい。
だけどこっちの世界でのし上がるのも悪くないかも。
食べる物は向こうより美味いし、娯楽も多いしな。
うん。考えれば考えるほどどちらがいいか分からなくなってくるな。
「で、また向こうの世界に行くつもりか?」
「飯代がかからないしな」
「お前はそれが大事だよな……俺ももっと強くなりたいし、行くなら付き合うぜ」
「付き合うもなにも、レオがいなかったら行きようがないだろ」
「……そうだったな」
結局その後も、ゴンの食事ツアーのようなものに付き合わされ、休日は終わるのであった。
あれ? 俺のやりたいこと何もしてない!
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