オディロンの指揮
「ベレンちゃん! マルカと一緒に離れて! マリーは僕の援護を!」
「分かったわ!」
「お任せください!」
『乾燥』
「ギシャアアアアアーーーー!」
『葉斬』
「ギシャッ!」
必殺の威力を誇るオディロンの乾燥も、マリーの葉斬もグリフォンには通用していない……
原因は羽毛にあった。古来よりグリフォンの羽毛はあらゆる魔法を弾くと謳われている。よほどの大魔法でもない限り、魔法を使ってダメージを与えることは難しいのだろう。
「マリー危ない!」
グリフォンの鉤爪がマリーを襲い、マリーを突き飛ばしたオディロンの腕をえぐった。
「オディロン!」
「僕は大丈夫! 油断しないで!」
オディロンはちらりと、マルカに乗って現場を離れつつあるベレンガリアを見た。
『水壁』
柔らかな水の壁もグリフォンが触れると霧のように霧散していく。身の丈三メイルほどのグリフォンだ。小型といえども接近を許せばたちまち食い殺されてしまうだろう。オディロンもマリーも必死に距離をとっていた。
「マリー! もう三十秒稼いで!」
「分かりました!」
オディロンは走り出し、グリフォンから離れていく。反対にマリーが前に出て屈強な魔物と対峙している。
『ゴオオオオオオオーーーー!』
猛るグリフォン、声に魔力が込められている。俗に言う『魔声』である。気の弱い者、魔力の低い者ならば聴いただけで命を失うとも言われているが……
「その程度の魔声など効きません!」『豪水牢』
内部を激しく水流がのたうち回る水の檻がグリフォンを捉える……が……かの魔物はほんの少し煩わしそうにするだけでダメージを受けているようには見えない。
やがて魔法はかき消され、濡れてもいないグリフォンの姿が現れた。
「これでも効きませんか……でも、時間は稼ぎました……オディロン!」
「お待たせ!」『圧縮』
普段は乾燥の魔法と合わせて使い、洗濯後に服の皺を伸ばすために重宝する魔法である。それを時間をかけ大量の魔力を込め、そして練り上げて放てば……人間ならば潰れた蛙のようになっていることだろう。
しかし、グリフォンに変わった様子は見られない。だが、動きを止めることには成功しているようだ。
「ベレンちゃん! 今だーー!」
その時だった。上空からマルカを駆るベレンガリアが急降下した。
そしてマルカは後脚、その蹄でグリフォンの首元を深く踏み潰した。
これにはいくら強靭な首を持つグリフォンでもひとたまりもなかった。断末魔の悲鳴をあげる間もなく即死だ。
「お見事ベレンちゃん。竜騎士も真っ青の騎乗ぶりだったね。タイミングもばっちりだったし。」
「当たり前よ。上からじっと息を殺して見てたんだから。やっぱり私とマルカが来て正解だったみたいね。」
「助かりました。オディロンも着地のタイミングで圧縮を首に集中させましたね。お見事です。それにしても、やはりグリフォンともなると手強いですね。さあ、さすがにこれほどの獲物は見過ごせません。軽く解体してから収納しますよ。」
収納とは?
この国の人間ならば誰しもが持つ自分専用の亜空間収納倉庫、いわゆるアイテムボックスやストレージなどと言われる類である。ここでは魔力庫と呼ばれており、各人の魔力によって大きさや性能に格段の差はあるものの、誰にでも使える便利な手ぶら携帯金庫である。
だが、さすがのオディロンもマリーもこれだけの巨体が丸々入るほどの魔力庫ではない。解体し、必要な部位だけを選別する必要があるのだ。
そして一時間後、解体と収納を済ませた一向は再び歩みを進める。体力も魔力も消耗しているが、この場で休むわけにはいかない。グリフォンの血でむせ返りそうな匂いが充満しているのだ。解体の最中にすら何匹もの魔物が襲ってくるぐらいなのだから。
「この分ですと今日中には到着できそうですね。もう少し近付いたら最後の休憩をとりましょう。」
「そうだね。いよいよだ。気を引き締めていこう。」
「まあ私はあんまり疲れてないからいいんですけどね。」
ムリーマ山脈の道は登れば登るほど険しくなる。ベレンガリアが強がっていることは二人にはお見通しだった。
それから最後の休憩を終えた三人は数時間ほど歩き、やがて尾根を越えた。
そこで一向が眼下に見たものは、一面に広がる赤い花の絨毯だった。