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オディロンの憂鬱

このようなことを繰り返しながらも一向は一週間かけて南下し、無事ムリーマ山脈の麓まで辿り着いた。


「ここからが本番だね。ベレンちゃん、期待してるよ?」


「リーダーはオディロンでしょうが!」


「ここからは慎重に行きましょう。ベイソナ盆地はまだまだ先ですから。」


ここまでの道中は概ね平穏だった。魔物は十数匹ぐらいしか現れず、盗賊とて五人ほどしか現れなかったのだから。

しかしここからは違う。クタナツの北に広がる広大な魔境ほどではないにせよ、世にも危険なムリーマ山脈なのだ。

現に今も、一向が山道を歩き始めて一時間と経っていないのだが、すでに多数の魔物と遭遇していた。


「いやーやっぱりムリーマ山脈は大変だね。」


「オディロン……いつの間にそんなに強くなってたのよ……」


「そうかな? カースに比べたらまだまだだよ。」


ここまでで遭遇した魔物は全てオディロンが退治していた。指一本触れることなく、触れられることもなく。魔物達は眠るように、枯れるように死んでいった。


なお、死んだ魔物からは肉や角、骨や内臓など様々な素材を入手することができる。しかし、一向はよほど貴重な物以外は目もくれずに一定のペースで歩き続けていた。


「もったいない気もするけど、今回は仕方ないわね。この件が片付いたら何か奢りなさいよ?」


「もちろんだよ。こんな所まで来てもらってるんだからね。」


「あれ……オーガだわ……それもムリーマ山脈名物のブルーブラッドオーガね。オディロンがんばって。」


『乾燥』


身の丈五メイルほどもある大きな魔物が、オディロンの魔法によって見る見る枯れるように弱っていく。


風斬(かざきり)


それに合わせてマリーの魔法がオーガの首を斬り裂いた。


「やっぱり夫婦ね。いい呼吸してるわ。おっと、さすがにオーガの魔石は見過ごせないわよ。ちょっと待ってもらうわね。」


そう言ってベレンガリアはオーガの胸を切り開き、手を突っ込み肉体をまさぐった。

ほんの十数秒後、肉や血管をぶちぶちと引きちぎりながら拳大の黒い石を引っぱり出した。これがなかなか高く売れるのだ。


「鮮やかなお手並みだね。鈍ってないどころか上達してるね。」


「まあね。旦那様のおかげかしら。オディロン、きれいにして?」


『浄化』


オディロンが魔法を唱えると血と脂で汚れたベレンガリアの手や短剣がたちまちきれいになった。


「ありがと。気持ちよかったわよ?」


「さあ、行きますよ。血の匂いで魔物が集まりますからね。」


土塊(つちくれ)


オーガの死体を土で覆い、一向はさらに山奥へと歩んでいった。なお、ペガサスのマルカは特に何も背負わず一向の後ろをのんきに歩いていた。




そしてさらに一時間が経過すると、一向は少し開けた場所に出た。休憩をするには最適の場所なのだが……


「おっ? 誰だあお前らぁ? ここぁ俺らカマセーヌが使ってんだぁ。さっさと行っちまいなぁ!」

「いーや待てやぁ! 通りたきゃあ通行料置いてけぇ? 一人金貨一枚でいいぜぇ?」

「おらおらぁここまで来るぐれぇだ。それなりに稼いでんだろぉ?」

「おらぁ早くせぇや! それともぶち殺してやんかぁ? こんな山だからよぉ? 何人殺しても証拠なんか残らねぇんだぜ?」


「勘弁してくれないかな。お互い冒険者じゃないか。ここは気持ちよく通してくれると助かるんだけど。」


「あぁ? この若造がぁ!? 誰に意見してやがる! おおそうかぁ、気持ち良くだなぁ?」

「ぎゃははぁ! そいつぁいいぜ! 女ぁ置いてけぇ! そしたら気持ち良くした後に通してやんぜぇ!」

「おっしゃそれでいこうぜ! 俺ぁこっちの年増ぁもらうぜぇ!」

「そんじゃあ俺ぁこっちの若いのだぁ!」


「オディロン。ここは私が。」


「マリー……」


少しだけ悲しそうな顔をしたオディロン。


「皆さまはどちらの方ですか? さぞかし名のある方々とお見受けしましたが。」


「へっへぇ分かるかぁ! 俺らぁ城塞都市ラフォートの六等星カマセーヌよぉ! あそこで俺らを知らん奴ぁモグリだぜ?」

「おら、さっさと脱げやぁ! 具合が良かったら俺の女にしてやっからよぉ!」

「バカ! 売り飛ばそうぜ!? この年増ぁ売れそぉんねぇけどよぉ!」

「まあ具合次第だぜなぁ!? おらぁ! 脱がねぇんなら服ごと切り刻んじまうぞぉ!?」


「城塞都市ラフォートはカマセーヌの皆さんですね。承りました。ではさようなら。」


葉斬(はざん)


四人の冒険者は悲鳴すらあげることなく肉塊と化した。十センチ四方の生サイコロステーキが転がっているかのように。


「マリーの実力を見抜けないなんて。これで六等星だなんて呆れるね。はぁ……」


「でもマリーさん、これはやりすぎですよ? 首を切るだけにしておいてくれればよかったのに。これじゃあ懐を漁れませんよ。」


「申し訳ありません。少しムキになってしまいました。」


「じゃあ休憩は次の地点にしようか。ここは臭くなっちゃったからね。」


ムリーマ山脈の南側の街、城塞都市ラフォート。魔境に面したクタナツと比べるとかなり平和な街である。それだけに勘違いした冒険者が北側にまで稼ぎを求めてやってくる。そのあげく、弱そうに見えるクタナツの人間に絡み、そして命を落とす。よくある光景である。

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本編はこちらです。
― 新着の感想 ―
[一言] カマセーヌ。 ほんとよく見る光景。 一瞬でしたね。
[一言] カマセーヌ。噛ませ犬。自らそう名乗るとは。
[一言] 名前からしてカマセ感が半端ないwww
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