オディロンの出発
翌朝、ベレンガリアは眠そうな目をして南の城門に現れた。
「おはよう。その感じだと別に寝てても問題なさそうだね。」
「おはようございます。昨夜はお楽しみだったようで。本日はよろしくお願いいたします。」
「あはは、おはよう。ごめんなさいね。じゃあ甘えさせてもらうね。私寝てるから、口をとってくれる?」
ベレンガリアは馬、いやペガサスを牽いていた。平民に城壁内での騎乗は許されてないのだから。もっとも、口をとるも何もこのペガサスにハミや手綱など付けられていない。上手く誘導してくれとベレンガリアは言っているのだ。
「どうせ今日明日の話じゃないしね。のんびり行くよ。ムリーマ山脈に着くまでは弱い魔物しか出ないだろうし、寝てていいよ。」
「あはは、悪いわね。それじゃあマリーさん、悪いけど頼みますね。」
「ええ、ごゆっくりお休みください。」
ベレンガリアは容赦なく寝た。ペガサスの背に抱きつくかのように。
「まったく……ベレンガリアさんたら。久しぶりの遠出が待ち遠しくて眠れなかったようですね。装備は古いですが手入れを欠かしていないようですし。」
「そうみたいだね。リトルウイングの頃が懐かしいなぁ。一回だけマリーにも助けてもらったことがあったね。」
「そんなこともありましたね。私の長い人生でも上位に入るほどの、いい思い出です。」
「そのおかげで僕はマリーに求婚できたんだよね。僕と結婚してくれてありがとう。」
「オディロンこそ。よくあの若さで金貨百枚などという大金を集めたものです。わずか金貨三枚で買われた私を、旦那様から金貨百枚もかけて買うなんて。」
「はは、でも結局父上ったら僕から金貨百枚受け取ったくせに、お祝いだって大金貨一枚くれたもんね。」
大金貨一枚は金貨百枚分の価値がある。
「旦那様はそういうお方です。私に内緒で奴隷解放の手続きまで済ませておられましたし。さて、そろそろお昼でしょうか。ベレンガリアさんを起こす……必要はなさそうですね。」
「ええ……さっきから起きてましたけど、寝たふりしてましたよ……私、来ない方がよかったんじゃないですか……?」
「そんなことないよ。ムリーマ山脈に入ったら活躍してもらうから。たっぷりとね。」
「分かってるわよ。あれ? まだこの辺なの? そうとうのんびり歩いたのね。この分だと夜までに次の村にすら着かないんじゃない?」
「それならそれでもいいよ。そこらで野宿するから。」
「私は嫌よ! お風呂、は無理だとしても屋根のある所で寝たいわよ!」
元冒険者らしからぬ言葉だが、うら若き女性であることを考えれば何ら不思議ではない。
「ベレンガリアさんが言うこともごもっともですね。ではマルカに少し頑張ってもらいましょうか?」
「そうですね。マリーさんが『浮身』を使っておいてくれれば……次の村ぐらいまでなら。いい、マルカ?」
「ヒヒヒン」
ペガサスのマルカは愛想なく嘶いた。
「オディロンは真ん中ね。私にしっかり捕まっておくのよ? 胸以外ならどこを触ってもいいわよ?」
「うん。じゃあ肩を持たせてもらうね。マリーも僕にしっかり捕まっておいてね。」
「ええ、ではいきますよ?」『浮身』
マリーが呪文を唱えると人間三人だけでなく、マルカまでもが浮かびあがった。
「さあマルカ、方角はあっち、南西よ! 行って!」
「ヒヒン」
マルカの両翼が空を捉え、力強く羽ばたいた。『空を駆け抜ける』と言うほど早くはないが『空を走る』と言える程度の速度は出ているようだ。
「さすがはベレンちゃんだね。マルカの手綱をしっかり握ってるね。」
「まあね。奥様も旦那様もマルカに騎乗なさらないから。こればっかりは私がやらないとね?」
ちなみにマルカに鐙は付いているが手綱はない。オディロンは、ベレンガリアがマルカのことをしっかりコントロールしていると言いたいのだ。
そして、日没を一時間後に控えた頃、一向はとある村に到着した。
↓オディロンとマリー夫妻が結婚するまでの話はこちら↓
『 異世界金融外伝 〜クールなエルフがデレる時〜』
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