オディロンとマリー
なぜ『胎身籠』が禁忌の薬物なのか?
子供のできない夫婦にとっては神の恵みとも言える薬ではないのか?
その歴史はローランド王国建国以前、戦乱の時代にまで遡る。現在においてもそうなのだが豚鬼や小鬼は種族を問わず雌ならば胎ませることができる。もちろん人間の雌であってもだ。
しかし、人間の雄は人間の雌以外を妊娠させることはできない。
それをつまらなく思ったとある小国の王は配下の錬金術師に命じて研究を始めた。その結果、生み出されたのが『胎身籠』である。人間の雄が服用すると、様々な生物の雌を妊娠させることに成功した。
だが……生まれた生物は全て母親と同じ種類だった。それではとても自国の兵士としては使いものにならない。結局その国は国内にたくさんの魔物を住まわせたことで人心が離れていっただけでなく、内側から魔物に襲われてあっさりと滅亡してしまった。歴史に名前すら残らない小国だったが『胎身籠』だけが後世に伝わった。国を滅ぼす禁忌の薬物として……
なお、この『胎身籠』だが、人間同士では効力を発揮しない。どういうわけか人間の雄と人間以外の雌でなければだめなのだ。
つまり、マリーは……人間ではない。
ローランド王国より遥か北、広大な砂漠、深い森を越えた先。山岳地帯と呼ばれる険しい山に住むエルフと呼ばれる種族であった。
四年前、二人が結婚するにあたって、マリーはオディロンに自分の秘密を告白しなかった。なぜならオディロンの求婚があまりにも劇的で、考えるより先に口が返事をしてしまったからだ。
マリーが秘密を告げたのはそれから一ヶ月後。
生まれた村、両耳がない理由、奴隷に落ちた経緯。
それから本名、年齢、そして種族。
必然的に子供ができないことも知らせることになった。そして、オディロンが自分を置いて先に死ぬことも。
オディロンの返事は……「気にならない」だった。どうしても二人とも子供が欲しくなったら、その時考えよう。それまでは二人だけの生活を謳歌しようと。
そして一年前、オディロンの末妹キアラがクタナツを出てマーティン家から子供がいなくなった。少しだけ寂しそうな顔を見せるイザベルに影響されてか、マリーまで自分に子供がいないことを寂しく思うようになっていた。
その結果、オディロンとも話し合った末、イザベルに相談を持ちかけたという訳だ。
そんな一行がクタナツに帰り着いたのは四日後だった。帰り道であるだけに魔力をさほど節約することもなく、マルカに乗る時間を増やした結果だった。そして今、意気揚々とクタナツ城壁の南門をくぐった。三人は生きて帰ることができたのだ。
「母上、ただいま!」
「あらオディロンおかえり。手に入った?」
「うん、母上のおかげだよ。ありがとう。」
「それはよかったわ。マリーもお疲れ様。ベレンおかえり。」
「奥様……この度は何とお礼を申せばよろしいか……ありがとうございます……」
「ただいま帰りました。あの、旦那様は……」
「いいのよ。私も孫の顔が見たくなったことだし。ああ、ベレン。アランにこれを届けてくれるかしら? 道場にいるわよ。」
「奥様……ありがとうございます……必ずや元気な子を生んでみせます……」
「はいぃ! 行ってきまーす!」
泣きそうな顔でイザベルに縋り付くマリー。笑顔でマーティン家を飛び出したベレンガリア。それをニコニコと見つめるオディロン。今日もマーティン家は平和である。
これにて完結です。
短い間でしたがお付き合いいただきましてありがとうございました。
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なお、オディロン夫妻の子供については異世界金融本編とはかなり違います。本編でも子供ができない設定ですが、そのための対策が全然違ったりします。
合わせてお楽しみいただけると幸いです。
ありがとうございました!
オディロンとマリーの結婚についての外伝はこちらです。
『異世界金融外伝 〜クールなエルフがデレる時〜』
https://ncode.syosetu.com/n5688fm/
一万字に満たない短い話です。