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お店のお勉強

「ダメだ」


「え……」


 父様に……拒否された?


 ある日の夜、夕食を済ませお風呂も済ませ、皆がそれぞれの部屋でくつろぎ始めた時間帯、いつもの様に父様の膝の上に居た俺はそう否定され思わず固まっていた。


 お、落ち着け俺……そうだ、これは商売、そう簡単に決めていい事じゃない。だから拒否されても全然おかしくはないんだ、だけど……


「で、でも父様、それよりもこっちの方が……」


「ダメだ」


 くぅ……!頑なだぁ……!


 もう一度説明すればと再び話し始めた俺はピシャリとそう父様に言われ、俺は思わず目を瞑りあうぅと言わんばかりな顔をしまうのだった。

 一体何があってこうなったのか、それは数分前へと遡る────


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


「千代ー、そろそろ始めるからおいでー」


 お、きたきた!三日に一度のお楽しみタイムが!


「はーい!」


「おぉ、もう来たのか」


「えへへ〜♪」


 呼ばれて三十秒も経たない内に筆箱を持って父様の元へ走ってきた俺に驚く父様に俺は笑みを浮かべつつ、胡座をかいている父様の足の上に乗っかる。


「今日もニコニコしてるな、そんなに楽しみなのかい?」


「うん!だって父様に色々教えて貰えるんだもん!」


 現役営業者のそう言う話はまず身内くらいじゃないと聴けないからね、本当に毎度毎度楽しみにしてるんだよ!


「それでそれで!今日はどんな事教えてくれるの!?」


「ははは、今日はそうだなぁ……千代にはまだ難しいだろうが、うちの仕入れに関して教えてあげよう」


「仕入れ!」


 まじか!

 仕入れってある意味ウチみたいな個人営業だと一番大事な場所じゃん!まずどんな場所に働きに行っても絶対に教えて貰えないやつじゃん!うっひょー!

 いつかは何とかして聞き出そうって思ってたけど、まさかこんなに早く聞かせて貰えるとは……!

 普段からいい子にして父様大好きってしてた甲斐があったってもんだよ!いや、父様が大好きなのは事実なんだけどね。


「こらこら、落ち着きなさい千代」


「はっ!ご、ごめんなさい父様」


「いいんだよ千代。それじゃあ教えてあげるからね」


「はい!」


 俺がそう元気よく返事をすると、父様は満足そうに頷いて仕入先や方法、人脈など前世で学べなかったことを一つ一つ丁寧に小学生の俺に分かるよう噛み砕いて説明してくれた。

 しかしそれも大人しくは続かず────


「そしてこれらの商品は先々代、つまり千代のおじいちゃんの父様の頃から商品を仕入れさせて貰ってる会社なんだよ」


「へぇ……」


 手ぬぐい、巾着、木綿……あの少しちゃちい古き良き和の物ばっかりか、確かあんまり売れてなかった気もするけど、とりあえず書いてある個数通りで仕入代金は……十万円以上!?

 まて、これは流石におかしくはないか?たった百個で十万円だと?十円の価値が百円くらいあるこの時代であのちゃちいやつ一つ千円は流石に高過ぎるぞ!?


「ねぇねぇ父様」


「なんだい千代」


「流石にこれ高過ぎない?しかもこの商品ってあんまり売れてない商品じゃ……」


「……」


 なんか雰囲気が変わった?い、いや、でもここで止めるわけには……とりあえず最後まで、代わりの提案も上げるんだ。


「そ、それにこれからの時代、今までと大きく変わってくるよ?だから────」


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


「で、でも!確かに今はまだ少しは売れてるかもだけど、少し経てば和風のよりも派手派手しいものの方が人気でると思うの!」


 そして今に至り、父様に否定されたにも関わらず俺は引き続き何とか父様の考えを覆せないか、前世の記憶と今現在の流行りの流れからそう父様に伝える。


「だからそういうのと取り引きした方が────」


「千代、女が男の仕事に口を挟むんじゃない。まして末娘が一家の大黒柱の仕事には」


「……!」


 そうだ……この時代はそういう時代だ……!

 普段父様とか皆が優しいから強く意識した事はなかったけど、この時代は男尊女卑、男が強くて女は弱い、そんな時代だった……!

 くそっ……!このままじゃいつまで経っても無駄な出費が増えるだけなのに……!何か……何か手は……


「だが、着眼点は悪くない」


「へ?」


「さっき千代も言っていた昨今の流れ、そして数年前まではなかったこの異常な値段の高さ……千代、ここから何かわかる事は無いかい?」


 流れ?値段の高さ?数年前まではなかった……値段を上げた……流れ……もしかして────


「製造元が売れてない……?」


「そう、その通りだ。そして俺はここから「材料の値段が上がったから」そう聞かされている。そして次の仕入れ時に要求された金額がこれだ。」


「にじゅっ……!?これって!」


「あぁ、間違いなく赤字経営なんだろうな。そしてこれで金を取れるだけとってトンズラ……とも考えられるな」


 という事は!


「あぁ、千代も提案してくれたが、こことはもう手を切るつもりさ」


「────!良かったぁー!」


「ふふっ、父様もまだこれが見抜けない程落ちてはいないさ。にしても、千代が気付くとは…………遊び呆けている弘紀より千代の方がふさわしいかもしれんな」


「父様?」


 何か言ってたような?


 何やら最後にボソボソと呟いていた父様を見て俺が首を傾げていると、父様はにこっと笑顔を浮かべたかと思うと俺の脇を持ち、勢いよく高く持ち上げる。


「わわわっ!父様たかい!」


「ふふふ、そうだろうそうだろう。それよりも、どうやら千代は商才があるらしい、それも並々ならない物が」


「商才?」


 あるのかなぁ……前世の記憶でズルしてるだけな気もするけど。


「あぁ。本当はもう少し歳をとってからと考えていたが……良かったら千代、お店のお手伝い、してみないかい?」


「いいの!?」


「あぁいいとも。父様の横で父様が何をしているかをしっかり見て学びなさい」


「わぁー!ありがと父様ー!だいすきっ!」


 父様にそう言われ感極まった俺は、体を大きく揺らし父様に勢いよく抱きつく。


 明日からかな?明日からお手伝いしていいのかなぁ!


「うおぉっ!?ふふっ、父様も千代が大好きだよ。さっ、そうと決まれば早く寝ようか、明日も遊ぶんだろう?」


「あ、そういやそうだった」


 いかんいかん、思わず嬉しすぎて礼二との約束を忘れていた。


「はははっ、千代は忘れん坊だなぁ」


「むー、そんな事ないもん」


「はっはっはっ!それじゃあお父さん号、千代を乗せてお布団へ発進だ!」


「おー!」


 こうして俺は、小学二年生の夏休みにて父様にお店の手伝いを任される事となったのだった。



実は小学生になった頃から千代ちゃんは週二くらいで父様とお店のお勉強してたりします

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