皆で楽しく水遊び
「「うおぉぉぉぉぉおおお!」」
ドボーン!
「いしししし!叶奈がいちばーん!」
「だーっ!くっそ負けたっ!」
相変わらず元気だなぁあの二人は。
「二人共ー、針が刺さると危ないからこっちに来ないようにねー」
「「はーい!」」
忙しないセミの鳴き声が聞こえる白い雲がいくつか浮かぶ真っ青な空の元、キラキラと強い日差しを受けて光る水面に上がる水柱を前に俺は二人にそう言う。
「うりゃ!れーたろーくらえっ!」
「やったな!このっ!」
「……ちゃんとあの二人ちよちーの言った事聞いてるのかなぁ」
「あはははは……まぁ、釣りはあっちの岩場でやろうか」
「花宮さーん!これっ、餌になりますか!?」
「あー……セミは流石に無理かなぁ」
大きな魚なら分からないけど、少なくとも小魚はかからないし。そもそもこの池には大きな魚は居るとは思えないし。
「そっかぁ……」
「まぁでもセミ自体はすごく立派だし、せっかくだからあの二人にも見てもらえば?きっといい反応してくれるよー」
「おぉ!それじゃあ見せてくる!」
「しれーっとちよちー神井くん向こうに押し付けたね」
「あ、バレた?でもあっちも二人より三人の方が楽しいだろうし、別に良いでしょ」
もう水遊びに巻き込まれている神井くんを遠目に見つつ、釣り予定地である岩場に着くと綺月ちゃんは本を、俺は釣り針に持ってきたミミズを付け始める。
「うしっ、いい獲物引き寄せてくれよっ!」
「ちよちーってミミズとかそういうにゅるにゅるな奴よく平気で触れるよねー」
「別に嫌いって訳じゃないしね。綺月ちゃんは無理なの?」
「無理っ!見てるだけでもぞわぞわぁーってするのに……触るなんて絶対無理っ!」
おぉぉ、そこまでキッパリ言うか……でも逆にそこまでキッパリ言われると逆にこう、そういった目に合わせてみたいというかなんというか……
「って、なーに考えてるんだか……」
いくら元男でこれからも精神だけは男のでありたいとはいえ、元の時代には戻れないし今の性別は女なんだからそういった思考は控えないとな。
「ちよちーどうかしたー?」
「んーん、どうもしてないよぉっ!?」
「ちよちー!?」
「きたっ!かかったよっ!」
「が、がんばれー!」
くんっと竿が引っ張られる確かな感覚と共にグイッと竿を持ち上げた俺は、浮き沈みするウキの先に居るであろう魚を釣り上げようと力任せに竹の竿を振り上げる。
するとバシャンといういい音を立て水面から一匹の大きなフナが姿を現し、釣り上げた勢いそのままに俺の足元へベチンと落ちてくる。
「うおぉー!でっかい!これはでっかい!」
俺の指先から肘くらいまであるんじゃないか!?確か指先から肘までが身長の四分の一とからしいし……だいたい三十五センチくらい?でっっっか!
見た感じ痩せてるみたいだしそのお陰で釣れたっぽいけど、それでも何回か父様とかおじいちゃんと釣りしに来た事はあったけどこんなサイズの魚は初めてだ!
「写真!……は、カメラがないから無理だし……それなら魚拓!」
「流石に墨と和紙はないよちよちー。というか魚拓って……でも本当に大きいねー」
「だねぇ。せっかく用意してたバケツもこいつ一匹でいっぱいいっぱいだ」
全く。二、三匹くらい釣って帰りにでも魚屋のおじさんに渡そうとか考えてたのに……いや、逆に喜ばれるかも?っと、来た来た。
「ちよよん今のなんだ!ざっぱーんいってたぞ!」
「なんかでけぇの釣り上げてなかったか千代!?」
「もしかして花宮さん……そのバケツの中に居るやつ?」
「うん、ぜーったい来ると思った。そうだよー、三人も見る?」
「「「見るっ!」」」
「すげー!」
「でっかいぞ!」
「これはヌシとかいうやつでは?!」
そう言うと、俺達の騒がしさを聞きつけてやってきた水遊び組の三人は、少し大き目のバケツを狭しと泳ぐフナを見て大きいやら凄いと声を上げ始める。
そしてそんな三人を微笑ましく思いつつ、針に餌であるミミズを付け直して竿を振り、ちゃぽんと俺の耳が水面に餌が落ちた音を拾った次の瞬間────
「あはははは、流石にヌシはないよぉぉぉぉおおっ!?」
ガクンと腕ごと持っていかれそうな程の勢いで竿が引っ張られ、浅いとはいえ危うく池に落ちかけた俺はすんでのところでなんとか体制を持ち直す。
「んぬぬぬぬぬぬぬぬ!」
こいつはやべぇ!デカい!さっきのフナなんて比じゃないくらい引きが強い!んでやばい、引きが強すぎるのと俺が軽すぎて体制整ったのに引っ張られる!
「ちよちー!?」
「千代っ!」
「二人共ごめん!一緒にひっぱって!」
「お、おう!」
「わかった!」
後ろからかけてきたこの場にいる中では力のある二人に俺がそう言うと、ズリズリと水際に引き寄せられていく俺の腕と竿を両側からガシッと掴んでくれる。
ダメだっ!持久戦だと俺の腕が持たない!こうなれば一か八か……!
「二人共!一か八かせーので引き上げるよ!」
「任せろ!」
「やるぞ!」
「わ、私も!」
「僕も!」
「二人共…………うん、行くよっ!せーのっ!」
「「「「「よいしょー!」」」」」
俺が作戦を伝えると二人に続き綺月ちゃんと神井くんもそう言って俺を後ろから引っ張ってくれる。そして俺達五人が力を合わせ、勢いよく竿を振り上げると────
バッシャーン!
「「「「「おぉー!」」」」」
先程のフナよりも一回り、いや二回りは大きいであろう、それはそれは立派な鯉が水面から躍り出たかのように飛び跳ねて出てきた。
そして、そんな滅多にない光景に思わず声を上げてしまった俺達は鯉が着水したと共に勢いよく引っ張られた竿を離すことが出来ず────
「「「「「あっ」」」」」
ざっぱーん!
そのまま竿に引っ張られるようにして大きな水柱を上げて池に落ちたのであった。
「ぷはっ!皆、大丈夫?」
膝より少し上くらいまでの深さだし、落ちたのもそこまで高くもない所から多分大丈夫だとは思うけど……
「びしょ濡れになっちゃったよー」
「僕も全身びしょ濡れです」
「あはははは!でも凄かったな!ざっぱーんって!」
「あぁ、俺あんなの見るの初めてだ!」
お、よかった無事みたいだ。でもそうか……皆で力を合わせれば例え失敗しても……
「ふふ……あははははっ!」
「ちよちー?」
「ふふっ!いや、こういうのも悪くないなって。さて、それじゃあ成り行きとはいえ私もびしょ濡れになっちゃった事だし……えいっ!」
「わぷっ!」
「私も水遊び、しよっかな!」
「やりやがったな千代!そらっ!」
「へっへーん!当たんないよーだっ!」
そうして、ジャパンジャパンと水をかけ合って皆と遊ぶ俺の顔には、何処か清々しい年相応の純粋な笑顔が浮かんでいたのであった。