修行~2週間目~
俺とユヅキは二週間にわたってあの修行を繰り返ししてきたが、達成出来ないでいた。
俺は継続的な魔力消費に疲れ、ユヅキは戦闘するまでもなく魔力などの力を全て吸われてしまっていてからだ。
少しは強くなったが、それは微々たるものだ。これでは唯でさえ少ない修行期間が勿体無い。
しかし、どうしたものか…。ユヅキは修行が始まる度に一時間位しか戦えない。俺もユヅキが脱落した後、二人分の影を相手にするのは骨がおれる。魔力譲渡とか出来ればいいんだが、習得したとしても触れなければならないから一対複数戦闘には使いづらいだろう。
<ユヅキを《魂ノ系譜》の力で"筆頭眷属"または"筆頭眷属長"にすれば魂同士のパスが太くなり離れていても私が魔力などを渡す事ができます。しかし、注意する点があります。ユヅキは眷属から昇華したことで強くなりますが、マスターは一時的に弱体化します。それと筆頭眷属以上は種族が滅人に統合されます。>
分かった。今は休憩中だから丁度いいな。それで、どうやってやればいいんだ?
<地面に血を一滴たらし《魂ノ系譜》を意識し、ユヅキの頭に触れて神力を込めれば大丈夫です。>
それでいいのか、案外簡単なんだな。
「ユヅキ、こっちに来てくれ」
「主殿、どうかいたしましたか?」
休んでいたユヅキが俺の方へゆっくりと近づいてきた。
「今からお前を筆頭眷属長にしようと思う。俺と同じ種族になるがいいか?」
「え?よ、宜しいのですか!?私は何も役に立てていませんが…」
その事をかなり気にしている様だな。まあ、修行を達成するには必要なことだしな。
「ああ、ユヅキは俺と対になる存在なんだろ?なら、その位の力は無いとな。それに、この修行をクリアするのには必要な事だ。もし、役に立てないからなどと、まだ思うのならこれから示せばいい。分かったな?」
「はい!主殿のため努力いたします!!」
ユヅキは満面の笑みで頷いた。
俺は膝をつき頭を垂れているユヅキに近づき《魂ノ系譜》を意識しながら血を一滴地面に垂らした。
そうすると地面に俺達を囲う様に大きな魔法陣に似たものが浮き出てきた。その魔法陣の中心は竜のシルエットをしていた。俺はユヅキに触れて"筆頭眷属長"にすると強く念じるとその魔法陣の様なものの中に古代文字で"結月"の名前が刻み込まれた。
ルーン文字とは懐かしいな。ルーン文字とは、あの時代の人間達が滅ぶ前に使われていた今の魔法文字の上位互換に位置するものだ。現代に使えるものは稀だろう。
~~ピコーン~~
("結月"が筆頭眷属長になりました。)
ふぅー、これで終わりか?思った以上に神力を消費したな。それに身体が重く感じる。どれ、見てみるか。
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名前:結月
年齢:0
種族:滅人[月神]
レベル:2000
[スキル]:〈魔力・闘気操作Lv10〉〈魔力・闘気・気配感知Lv10〉〈身体能力強化Lv10〉〈鑑定Lv10〉
[エクストラスキル]:〈重力完全無効Lv-〉〈月の瞳Lv1〉〈神格Lv-〉〈神力操作Lv1〉〈神力変換Lv1〉
[オリジンスキル]:〈星食之暦Lv1〉〈月華ノ紋章Lv1〉〈黒呪ノ縛鎖Lv1〉new!〈暴乱なる黒夜叉Lv1〉new!
[魔法]:〈重力魔法Lv10〉〈影魔法Lv10〉
[権能]:《陰月》
称号:月の女神、滅神の筆頭眷属長new!
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〈黒呪ノ縛鎖〉〈暴乱なる黒夜叉〉の二つのオリジンスキルが追加されたみたいだな。髪の色とかは変わらないんだな。俺みたいに種族の影響が出るかもとおもったんだが。これで魔力譲渡が自由に出来るのか?
<はい、離れていても魔力を送る事が出来ます。元の肉体を基準とする為、メインは今だに月神ですので髪などの色は変化しません。マスターの場合はメインが滅人なのだと推測します。唯一神は称号に似たモノで、太陽神はその唯一神の付属品といったイメージです。>
世界神(滅竜神)≠滅人〉〉〉唯一神(太陽神)
「気分はどうだ?異常があったらすぐに教えてくれ」
「いえ、むしろ今までにないほど力が増しています。ですが、いきなり感覚が鋭くなって混乱しています。それに、主殿の気配を身近に感じます。あっ、首の後ろに違和感が…」
そんな風になっているのか?それよりも違和感?
<マスターとユヅキの魂の絆が深く強いものになったからでしょう。首の後ろにマスターの系譜の証である紋章が浮かび上がっている筈です。ちなみに紋章の現れる所は完全な眷属化する前に決めることも出来ます。>
完全な?今まで完全ではなかったのか?
<はい。眷属(仮)になり血を与えることで完全な眷属になります。>
「首の後ろに俺の眷属である証の紋章が現れているらしい。少し見せてくれ。」
「は、はい!!」
ユヅキが後ろを向き、髪を上げ首筋を見せるように動いた。そこで見えたのは、先程の魔法陣に似た竜と太陽のシルエットをした紋章があった。
「早速だが、魔力をお前に送るぞ?」
「はい。」
魔力譲渡を頼むぞ?
<Yes、マスター。>
俺の魔力が一気に消えた様な感覚を覚え、その際にユヅキの魂に繋がった感覚もあった。
「どうだ?魔力を譲渡したはずだが」
「は、はい。かなりの魔力が送られて来ました。それに主殿の魂?に繋がった感覚が有りました!」
俺と同じだったみたいだ。もしかしたらこれは、筆頭眷属…滅人になった者なら《消滅》への耐性が出来るかもしれないな。俺が一番恐れているのは俺の権能である《消滅》で無意識下に魂ごと仲間を消してしまうかもしれないことだ。魂ごと消滅してしまったら蘇生も出来ないからな。
俺は昔ほどてはないがかなりの耐性がある。今まで《消滅》への耐性があったものは世界神も含めて一切存在しなかった。
「ん?お前たちもう修行を開始するぞ!」
「ああ、分かった」
「そう言えば、ウルスは何故スキルを使わないのだ?放出系統以外でもスキルは有るのだろ?」
「そ、それがな…」
俺は修行をする上で世界神の時に持っていたスキルを使うつもりはない。それに、俺のオリジンスキルは殆どが魔力や神力を必要とする。そうすると、ただの威圧スキルの強化版である〈絶望之化身〉や魔力を放出する必要のある〈太陽ノ紋章〉は使えない。
残りの〈紅炎之神体〉だが…。
「何!?スキルが使えないだと!?どういう事だ!?」
「〈紅炎之神体〉は扱いずらいんだ」
俺の持つ〈紅炎之神体〉は、体内の全魔力を全て太陽エネルギーに変換し、そこで発せられる熱エネルギーによって圧倒的な攻撃力にするスキルだ。その間体の外に魔力が出せなくなり魔法は一切使えなくなるが、このスキルでの攻撃力は通常の数十倍以上になる。
勿論、このスキルの効果で殆ど体内にダメージはないが、ある一定以上まで残存魔力が低下する事によってはスキル所持者にダメージを与えてしまうがその時は自動的に解除されるみたいだ。まあ、それは〈炎熱完全無効〉と《無限》のお陰でデメリットは無くなっている。
しかしそれ故に、俺がこのスキルを扱え無くなっている。俺の無限の魔力が太陽エネルギーになり炎熱完全無効のお陰で自動的に抑止されないのだ。だから、今の俺は圧倒的な攻撃力に振り回されている状態なのだ。このスキルを使うと身体が追い付かず、全身に深刻なダメージが残るから数秒しか発動できない。
それに《無限》は対象を常時一つ以上選択しなければならないから下手に対象を魔力から変えられない。
「ふむ、そう言うことか…。なら、一時的にだがウルスは別の修行をしてもらう。」
「なっ!わ、私は一人ですか!?」
「ふむ、仕方がなかろう。スキル無しでは武術を習得していないウルスでは一、二段階位が良いところだろう。」
まあ、そうだろうな。魔力など吸われながらではとてもじゃないが、勝てる気がしない。
「それじゃあ、どうするんだ?武術何て一朝一夕では習得出来ないだろ?」
「ウルスには"神闘気"を習得してもらう。まあ、詳しくは後で教えるとしてユヅキはこのまま修行だ。ウルスは次の修行で使うつもりだった別の部屋で修行する。いいな?」
「「はい」」
俺はクレアに案内されて更に下の部屋に向かった。その部屋は全てが黒く、四角錐の尖ったものが幾つも部屋の周りから生えていた。
「ここは?」
「この部屋は"神闘気"を習得するための物だ。まあ、正確には"闘気"と"仙術"を習得し“神闘気”へ至るための部屋だ。」
成る程、まず"闘気"と"仙術"を習得しなければならないのか。
「闘気とは何か知っているか?」
「人類が神としての力がある邪神や悪神といった者たちに対抗するために作られたと聞いている。」
だが、やろうと思えば神も習得出来る。だけど、そんなことで上位者である神々が長い年月を費やすと言う酔狂な者は殆どいない。
「そうだ。魔力の上位互換が神力といった風に、闘気の上位互換が神闘気という訳だ。次にウルスは闘気と仙術の違いを知っているか?」
「知らないな。仙術や神闘気というのは初めて聞いた。」
どこかで聞いたかもしれないが詳しくは知らない。俺は元々使う必要も無かったからな。
「闘気は体内の"氣"を操り肉体を強化して近距離攻撃をするもので体内の氣=闘気という認識でいい。仙術は大気中の"氣"を操り相手の"氣"を感知したり"氣"を飛ばした遠距離攻撃をするものだ。熟練度を上げれば大気中の"氣"を吸収して体内の"氣"を増やすことも出来る。」
そんなことが出来るのか。
「そして、神闘気は闘気の上位互換でもあり習得すれば遠距離攻撃も出来る(人によって距離は変わるだろうが…)。だが、神闘気を習得出来る者は数が少ない。そして、一握りの者達は神闘気から発生するスキルも有る。私の場合は〈天掌万氣〉というスキルだ。」
神闘気というのはかなり強い。その上、そこから発生するスキルも有るのか。敵に神闘気を持つものが居たら気を付けなければならないな。
「最初の説明に戻るが、この部屋はさっきの部屋の倍に近く吸い続ける。それに加え、闘気と氣を乱す効果があるのだ。その状態で瞑想をしながら氣を操るのがこの修行だ。本来なら神闘気の習得は数十年の修行が要るだろう。しかし、ウルスなら数ヶ月も掛からず出来るはずだ。」
「ちなみにクレアはどのくらい掛かったんだ?」
「闘気と仙術は一回で習得したが神闘気は一ヶ月掛かった。」
普通なら数十年のところを一ヶ月だけで習得するなんて…。
「早速だが始めてくれ。私はユヅキの方に居る。何かあったらこっちに来てくれ。」
「分かった」
そういってクレアはこの部屋から出ていった。
俺は部屋の真ん中に座り瞑想を始めた。闘気を感じ取りそれを操り身体に纏うと一瞬で霧散してしまった。
やはり駄目だったか…なら、あれをやってみるか。
俺の権能の一つ《無限》の対象を魔力と闘気を対象にして無理やり限界に近い量を放出した。
~~ピコーン~~
(スキル〈神闘気〉を習得しました。)
(スキル〈仙術〉を習得しました。)
ん?順番が違うが…まあ、いいか。
<圧倒的な量の闘気により闘気が神闘気に昇華したようです。その影響で仙術も習得出来た様です。>
よし、試してみるか。
俺は身体から神闘気を放出させた。身体から闘気とは比べ物にならない存在感を醸し出す緋色のオーラが身体を覆った。
この高揚感、そして漲る力。これが神々に対抗するための術なのか…
これに《無限》を使ったらどうなるんだ?
俺が権能を発動した瞬間に、物凄い轟音と共に部屋が光に包まれた。
ズドーーーーン!!!
~~クレア視点~~
私はウルスの元を離れてユヅキの所へ向かっていた。
「ふむ、アンナのところは今のところ順調みたいだが問題はウルスとユヅキだな。ユヅキの方はウルスと何か話していたから解決策が見つかっているだろう。一番の問題はやはりウルスか…。」
神闘気は世界でも使えるものは少ない。だか、もし使えるようになれば…
「それにしても暇だな。私と戦えるようになるのは何時になるやら」
ズドーーーーン!!!
その心配は、杞憂に終わりそうだ。
〈紅炎之神体〉
ー 体内の全魔力を太陽エネルギーに変換し、そこで発せられる熱量によって圧倒的な攻撃力を出す事が出来る。ー