マータンの暇つぶし 中編
犬亜人のマータンは、遥遠くの国で生まれ、何不自由ない暮らしと、その全方位に優れた才能に対して、と惜しげも無く街の予算に匹敵する金を使って教育されたのだ。
このときの年齢は10歳。あらゆる知識と技術を手に入れたくノ一が誕生する。しかしマータンは性格に難があった。”何事も面白くなければならない”ということだ。
自分の生まれ故郷を火の海にした後、マータンは”面白いこと”を求めて、あてどない旅を始める。その旅の道中に兎亜人のキバスと出逢った。キバスは何の特技もないくせに、ただ生きる意味を探し、彷徨っていた。
あまりにも馬鹿で滑稽なキバスの辿り着く結末が知りたくて、マータンは一緒に旅を続ける。そして辿り着いた王都リゼンで、馬鹿なキバスは人体収集家に捕まってしまう。キバスが殺される直前まで、くノ一の技術を使い、こっそりと観察を続けるが、特に面白いことはなかった。
そろそろ助けてやろうかなと行動を起こした時、目の前に脅威がいたのだ。盾と剣の騎士チェバリコ、オーソドックスながらも鉄壁な防御は、未だかつて破られたことはない。チェバリコは、ノクターンの仕事として、兎亜人の搬送と解体時の護衛を頼まれていたのだ。
「どけっ! そこをどけよ!!」
犬亜人のマータンは、持てる全ての技を繰り出す。どうにかして目の前の騎士を突破し、殺されようとしているキバスを助けに行きたいのだが、目の前の騎士は、まるで巨大な壁のようにびどうだ微動だにしない。別に倒さなくても良いのだ、ただキバスにたどり着ければ…。
必死に助けようとしているマータンを見て、キバスが笑った。「ふふっ、ほんの一瞬でも…生きる意味を手に入れることができたみたいね」
マータンとチェバリコの戦いは相打ちに終わり、動けぬマータンは、目の前で生きたままキバスが解体されていくのを、ただ見ているしか出来なかったのだ。
キバスの体が、無数の肉塊に変わったとき、入り口から二人の女性が入室してきた。
「解体中の護衛任務は完遂ってことでいいかしら?」
「あぁ、だがなクラリスよ。もう少し強い護衛にしてくれ。その地面に倒れている騎士が、負けてしまうのかとヒヤヒヤして、解体に集中できなかったぞ」と人体収集家が苦言を呈した。
「そう…。今後の課題ね。それよりも任務は全て完了ね。ライゼーナ、次の仕事を」
「はい」と返答するや否や、ライゼーナと呼ばれた女性は、二刀の短剣を上手く使い、人体収集家を殺害した。
「さて、チェバリコとんだ失態ね」
「……返す言葉もございません…」
「それほどの相手だったということね。命を懸けて守ろうとする対象を、殺される寸前まで放置するなど、変わったやつだな。面白い。どうだ? その肉塊を蘇らせてやろうか?」
死人を蘇らせる? マータンの知識にあるのは、死霊術と呼ばれる、おとぎ話に出てくる夢物語のみ…。
「そんなことができるのか?」
クラリスが自力で成し得たい技術は、ホモンクルスの生成であり、死霊術ではない。しかし偶然にも手に入れた死霊術の魔道具も使用してみたいのであった。よいサンプルを探していたところだ。
「あぁ…。だが条件は、全てこちらが指定する。まぁ、拒否したところで、お前は死ぬだけだがな」
冷たく光るクラリスの眼に、マータンは生まれて初めて恐怖を知った。




