不確定な魔法
そして、次の魔法の触媒を手に取る。聖人のミイラの指だ。こいつは…高価なのだ。
「裏切りの聖母、目覚めるとき、眼に映る、愚かな者を、導き救い、解放せん」
俺の眼に解放の魔法陣が刻まれる。次に俺の眼を見た者は、感情を強制的に解放させられるのだ。
音を聞く…。巡回する兵士の足音を…。中庭に入る角を曲がるまで…40m、30m、20m、10m。
9、8、7、6、5、4、3、2、1、0。丁度曲がった瞬間を狙って、兵士の眼前にダッシュする。
感じろっ!! 聞き分けろっ!! 手の動きを…。足の動きを…。
迎撃の態勢に入ったのかっ! こいつ…思ったよりも強いっ!!
この一瞬で、右手で剣を抜き、構えるのかっ!! 脇を締め小さな動作? 突きが来るっ!!
もしかして、眼で見えてない分、俺の…反応速度が上がっているのか?
紙一重で避けると、そこに左足のケリが来る。それをバックステップで回避すると立ち止まり…。
眼を開くっ!! 兵士と眼が合う…。情染という名の魔法が発動する。
これで兵士は…己の感情のままに行動するだろう…。
ふらりふらりと巡回ルートを進む。俺のことは、もう眼中にないだろう…。
この魔法は、正直、正確性に欠けるのだ。もしかしたら…予想外のことが起こる可能性もある。
吸音の魔法を解除し「直接ターゲット狙う魔法の準備をお願いします」とウィボーさんに伝えた。
兵士は、中庭から建屋に入り、廊下を抜け、貴族たちで溢れかえる会場に入った。
そして、廊下側の壁に沿って並んでいる兵士の眼の前を…通り過ぎ…ターゲットの眼の前で、抜剣しターゲットの心臓を貫いた…。そりゃそうだろう…あの兵士さん、相当強いもん…。
ターゲットの暗殺完了にホッとする俺の横で、ウィボーさんの光の槍の魔法が発動するっ!!
えっ!? ウィボーさん!? もう、魔法は不要ですけど??
ウィボーさんの光の槍は、会場内に潜んでいた別の暗殺者を狙っていたのだ。
回避不可の光の槍は、蛇のごとく軌道を変えながら、暗殺者を三名殺害した。
その光景を俺は見ることができなかった。俺はウィボーさんの転符で強制的に退場させられていたのだから…。
後日談なのだが、ウィボーさんの依頼は2件あって、一つは兵士の殺害、もう一つは貴族たちの護衛だったのだ。
うん? だったら中庭に潜入する必要はないのでは?
全く持って意味がわからないという俺に「それじゃ、まだまだだね」と言い返してきたのだ。
答え合わせで”俺は招待されていない人物だから”と教えてもらった…。
まぁ、触媒が高すぎて滅多に使えない魔法が使えたことはよかった。
ちなみにあの兵士は、ターゲットの兵士に女を寝取られたのだという…。
まさか魔法で操られていたとは誰にも気が付かれていないだろう。




