スカウト
時が止まるような感覚と共に、それは突然やって来た。書斎の音も光も匂いも凍てつく。右手の指輪が全て反応する…。西の血族の指輪、魔導の母の指輪、死の教団の指輪、闇の制裁の指輪が、最大の危機を察知しながらも、ソレに共鳴しようとしていた。
背後に立つ、ソレの正体をエミリアは知っている。最近の流れは、偶然でなく必然。所々で…全く関係が無いイベントを挟んで入るが、バレバレなのである。
「存在自体を探したことはないのですが、まぁ…恐らくはイルと思っていました。お名前は無くて? 悪魔さん?」
「ホウ…。ワレヲ、マエニシテ、ソノヨユウ…。ノクターンガ、メガミノ…シトトイウコトカ…」
エミリアは振り返り、悪魔と対峙する。悪魔は実体を持たず人の形をした影であるが、投影された影と違い、そこに浮かび上がっていた。
「で、悪魔が…私に何の用でしょうか?」
「カンタンナ…ハナシダ」
悪魔は妄想の概念であり、妄想を掻き立てるためには、悪魔が存在するのでは? と自然に思わせなければならない。私の場合は、冒険者専用地区・砦の冒険者から奪った2冊の魔法書から始まる。それは古代文字で書かれた悪魔の力を模写する魔法…。そして、エルダリスという存在。イブレオ男爵の周辺を調査さてた結果、彼女が”悪魔憑き”の可能性があると、兎亜人のキバスから報告が上がってきたのだ。
話が逸れるが、エルダリスの周辺では奇怪な事件が多く発生していたのだ。勿論、イブレオ男爵は調査する。その結果が…”悪魔憑き”の可能性である。その爆弾のような彼女を、デリマリート家との政治工作に使ったのだ。仮に悪魔がデリマリート家を滅ぼせばギュレン伯爵に認められ、デリマリート家の関係が上手く行けばオーゼスフェスタ派に乗り換えることもでき、更に”悪魔憑き”を領地外に出せるとなれば、娘など愛していないイブレオにとっては、いいこと尽くめでしかない。
そんなエルダリスも薄々自分が何かに取り憑かれているのではと…考えるようになっていた。己を調べるために…。何らかのタイミングで、悪魔という存在を知ったため、異界宗教学を専攻したのだろう…。
それに毎晩、エルダリスと一緒に寝ているのである。肌と肌が触れ合う…その中に…それがノクターンの力なのかは知らないが、違和感を感じていた。まぁ、言い出したらキリがないのだ。悪魔は用意周到に関してはプロフェッショナルであり、とても暇なのだ。
そんな悪魔の提案は…。
「オマエヲ、アクマニ…ムカエイレル、ジュンビガデキタ」
時代と共に、悪魔は激減し、今では両手の指で足りる程度の数しかいないらしい。なぜに私なのか?元々はノクターン先代のクラリスが候補に上がっていたのだが、彼女は先の内乱により命を落としてしまったのだ。そして最近ではクラリスと同等の実力を発揮し始めた私に、白羽の矢が立ったらしい。
それに悪魔と言えば、結局は魂が欲しいだけの魔物である。しかし、今回は悪魔側の陣営にスカウトされたのだ。悪魔が言うには、お前一人の魂などでは意味がなく、より多くの人間の魂が必要なのだと…。お前のは魔王に捧げる価値はないが、仲間になるには頼もしいだそうだ…。
悪魔になるには? 具体的には、人の魂を悪魔の魂に染めるだけだという。そして決して滅することができないらしい。それは嘘だろうと即ツッコむ。だとすれば、数が減っているのは理屈が通らない。その回答はすぐに来た。神側に捕らえられているとのことだ。なるほど…。
では、悪魔はどのようなことができるのか? 主に精神汚染術、幻影術、召喚術だというのだ。ちなみに右手4つの指輪は、悪魔から提供されているものであり、悪魔になれば指輪の力を軽く凌駕できるらしい。
異常を察知して、七灑守護者が主であるエミリアを護るため、異常な空間の室内に雪崩込んできた。




