魔法考古学
エルダリスとの婚約を発表し、結婚式(挙式)の日取りも決まった。しかし各界から招待する披露宴には、エルダリス側のイブレオ男爵をはじめとする一族の出席者は誰一人としていなかった。これはよくあることで、特に誰も気にしていないのだ。当の本人のエルダリスさえも。
古代文字で書かれた魔法書を解読するために、学園に通うことを打ち明けると、エルダリスも一緒に行くと言い出した。特に不都合はないので了承する。
ノクターンとしての仕事は山積みだが、デリマリート家の一員としては、結婚式以外に早急に片付けなければならない用事など無い。
学園に入学と言っても短期入学であり、専攻するのは、私が魔法考古学で、エルダリスが異界宗教学だ。
「異界宗教学?」
「えぇ。この世界の外を学ぶの。半分以上が人間が考えた空想かも知れない。でも…神様がいるくらいですもの。きっと外の世界もあるのよ」
不思議なことを考えるものだと、このときは気にしなかったのだ。このときは…。
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今や、飛ぶ鳥を落とす勢いのオーゼスフェスタ派のデリマリート家は、南の領地だけでなく、国中の爵位持ちが憧れ敬う存在となっている。その養女であるエミリアも、また婚約者のエルダリスも、商業都市オハロでは、子供でさえも知っていた。
それは学園内でも同様で、他領から来ている生徒も、重要人物のチェックは怠らない。別にエミリアは友を求めているわけでもなく、青春を謳歌したいと願っているわけでもなかった。しかし、遠巻きに見る者、権力に惹かれ寄り付く者など様々で、エミリアはストレスを感じていた。
そんな学生たちのレベルは低く。どうしても取らないといけない目的とは関係ない授業がある。剣術などでは、屈強な女剣士のデファーニアや盾と剣の騎士チェバリコに劣り、魔法では、ウィルボーの足元にもおよばないのだ。まぁ、比べる相手が悪いのだが、エミリアはそれらの授業では、常にトップの実力を発揮していた。
「なるほどねぇ。エミリアは魔法考古学だけを受講したいのか」
駄目な生徒たちの中でも、学力などを考慮させない…何と言うか波長の合う生徒もいて、今ではそんな疲れない付き合いの出来る数名と交流していた。そして話しかけてきたのは、魔法剣術学を専攻するデックス。南東の領地の”死の商人男爵”と比喩される銃と火薬を持ち込んだ商人たちの一人であるイズランダ男爵の次男だ。
なぜ銃を使わずに剣を学ぶのか? と単刀直入に聞いてことがある。その回答が、「両方使えたほうが面白い」とのことだった。
私は銃は好きになれないが、強さを求めるならば、銃も選択肢の一つなのだ。それは間違いない。
「エミリア〜。大変だよっ! オルベクトの奴、また実験に失敗して入院だってっ!!」
顔を真っ赤にして走ってきたのは、シルディ。こちらもオーゼスフェスタ派に与する貴族の次女だ。 シルディは、魔法治療学を専攻していて、緊急入院する患者の情報には詳しいのだ。つまり情報漏えいであるが、この世界にはコンプライアンスの意識など無い。
「今度は何の実験をしてたって?」デックスが神妙な顔で尋ねる。
私が聞くと、”弾風”の魔法、つまり爆風の効果を顕現させようとして失敗したらしい。う〜ん。私には使えないが、それほど難しい魔法でないはずなんだけどな…。
「帰りに…病院寄ってみようか…」と私は言った。




