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幼馴染がいつの間にか人間辞めてた話  作者: パシリーダー
第2話 都市伝説始めました。
7/12

第2-1話 所謂ヤ◯チャ目線に近い当事者

 やぁ、みんな! 俺だよ、常彦だよ。幼馴染からバイト上がりの真夜中に理不尽極まりない呼び出しを受けた上にSAN値まで持ってかれた常彦くんだよ!本当にもう嫌になっちゃうよね!


 僕は今、夕暮れの中、駅の周りの路地を走り回っているんだ!今真夏だぜ?クッソ蒸し暑い中なんでこんなことしなくちゃならんのk…おっと、話がずれちゃった、ごめんね。

 お詫びと言ってはなんだけどこうなった経緯でも聞かせてあげるよ!ん?おいそこ、逃げないで!お願いだから!





「ただいま帰りましたよー」


 時刻はお昼ちょっと前、常彦は樹から追い出される形でついに自宅に帰ってきた。アルバイトのため出発してから樹の家でのゴタゴタを含め、時間にして約1日ぶりの我が家の安心感はいつもとは比べ物にならなかった。

 おぉ、ビバ!自宅!


「あら、お帰りなさ~い」


 台所で洗い物をしていたらしい常彦の母が、彼の帰宅の声に気づくとぱたぱたとスリッパをならしながら、朝帰りした息子の迎えると、笑顔でこう言い放った。


「どう?樹ちゃんとはヤったの?近いうちに孫とか見れそう?」


 安心感、崩壊。

 母はニマニマとしながら、過剰に膨らんだ期待を隠そうともせずこちらに詰め寄ってくる。樹が家に連絡をつけたらしいが、何かいらんことまで吹聴したのではあるまいな?


 常彦の母は事あるごとに大学時代からの友人の娘である樹と常彦をくっつけたがっているが、いかに彼女が美人であり、両親公認の仲だとしても、彼女の性格と今の彼女の姿を知っている常彦本人にとってはたまったものではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そんな常彦は一人で舞い上がる母の台詞を否定しようとしたのだが…


「ふっざけんな、母!朝っぱらから息子に下ネタぶつけるなよ?!俺が樹とくっつくとか…くっつくと…か……」


『わっ私、つねひこのこと、だっ、大好きだよ。』


 それでもつい先ほどの一言の衝撃は拭えなかったようで、常彦は顔を青ざめさせ、そっぽを向きながら言葉尻を濁す。その様子を見た彼の母は少々興奮した様子で

「えっ?!本当にヤったの?!お赤飯炊いちゃう?!」


 などとまくし立てるが、常彦は心底嫌そうにひどく疲れた顔で


「…ヤってないし、今はそれどころじゃない。」


 とだけ言うと、逃げるように自室への階段を上がった。


「……何かあったのかしら?」


 いつものような反論すらしない息子を見て、息子の春を願う母は首をかしげた。


 常彦は自室に戻ると着替えもせずにベッドに身を投げ出すと目を瞑り、暫し思案に耽る。お題は勿論、かの異形系幼馴染みについてだ。


 (まさか樹から告白されるとは…今までそんな素振りも見せなかったのに何故?その場の勢い?見た目が変われば心も変わった?

 そもそもなんであんな姿になったの?アイツは寝て起きたらああなっていたと言っていたけど正直嘘臭いし、睡眠だけが理由とも到底思えない。)

(なんであんなに冷静だった?まさか本当に気にしてなかったとでも…?

 流石にアイツが狂人に片足突っ込んだような精神性の残念美人でも、それはあり得ないだろ…)

(実は最初から人外でずっと世間から知られずにひっそりと暮らしてた一族?オカルト過ぎるか…?って今のアイツ程、オカルト染みたものもないじゃん!

 でも、仮にそうだとすると病院とかもなかなか行けないんじゃないか?

 もしもそこで人じゃないってバレたら一騒動起こるだろうし……)


「ん?バレたら?」


 ゴロゴロとベットの上を転がりながら思考を巡らせていた常彦は、ここである不安を覚えた。


()という存在はどれだけこの世界に影響を及ぼすのか』


 いとも容易く人の頭蓋骨を貫くことの出来る触手、脳味噌を破壊されても生きているような生命力と、そこから即座に快復さえ出来る異形の怪物、その上まだまだ未知の力を秘めているかもしれない、完全にファンタジーの領域にある能力を持つ未知の生命体など、存在するだけで人類にとっては恐怖の対象でしかない、仮に彼女の存在が世間に露呈すればとてつもなく不味いことになるだろう。


 考えれば考えるほどに恐ろしくなってくる、もしや彼女はこのような事態を見越して事前に自分に助力を求めたかったのではないか?いや、しかし……


 などと考えたところで、ふと学習机の上で充電させていた携帯がブルブルと震える、考え事を一時中断し画面を見ると、ゲームのイベント開始を告げる通知が届いており、時刻は夕方の17:00を示していた。


「うわっ、結構時間たってるじゃん、ってか今日シフト入れてなくてよかった…もしあったら絶対忘れてたな…」


 今日という日にシフトを入れていなかった幸運を噛みしめつつ、常彦は再び考え事に頭を戻す。


 樹という異常な存在を世間から隠すにはどうするべきか、この答えは割りと簡単に出てきた。異常であることを隠す。つまりは上手いこと今まで通りと同じような生活をさせることによって琴種 樹が人間であるように見せればいいのだ。

 樹のポーカーフェイスの上手さならば、彼女の仕草から違和感に気づける奴はなかなか居ないだろう。

 しかし、残念ながらもっと根本的な問題が解決していない。


「そもそもの見た目が人間離れしてたからなぁ…」


 見た目の問題である。彼女の外見はパッと見た時点で間違いなく人外とバレるほどに変異している。

 あの風貌のまま外出して人に見られたとなれば通報されるか、出来のいいコスプレとしてSNSで拡散されるか、あるいはその両方だ。そんな事態はどうしても避けたい。

 つい先ほど見た右手のように、なんとか見た目を誤魔化せることができなければどれだけ上手く猫を被っても意味がないだろう。本人は「元の形にかなり似せられる」と言っていたが正直なところ、樹の言葉は信用出来ない。この異常事態ですら面白がっているアイツならば寧ろ『面白そうだから』という理由で異形の姿を世間に晒しても可笑しくはない。

 樹が阿呆をやらかす前に対抗策を練っておかねばなるまい。


 常彦はベットからむくりと起き上がると、机の上の携帯電話を手に取り、SNSで樹にどこまで見た目を誤魔化せられるかという旨の質問と不用意に家から出るなとメッセージを送った。

(ちなみに、忘れていたのか告白に対しての返事は何も含まれていない)


 メッセージを送り、ふぅ、と一息ついたところで夕飯ができたという母の声が聞こえた。


「はいよー、今行くー。」


 彼は軽い返事をすると携帯を充電器に戻し、リビングへと向かった。


……しかし、彼は後に、樹からの返事を待つべきだったと後悔することになる。

          ……別に待っていても後悔することになっていたが…。





(ちなみに夕飯は本当にお赤飯が出された。)




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