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幼馴染がいつの間にか人間辞めてた話  作者: パシリーダー
第2話 都市伝説始めました。
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第2-6話 新人UMAと壊れる価値観

「ぁりあとーございあしたー」


 あからさまにやる気のない店員の声を聞きながら、常彦は足早に店を出る。バカ丸出しの幼馴染みのための眼帯を手に入れることが出来たので、後は彼女の元へ向かうだけだ。


(急げ急げ、流石にエロ同人はないにしても、あいつが誰かに見つかるのは不味い!)


 どうしてそうなったのか、理由はわからないが、人間をやめてしまった樹の姿はハロウィンの時期でもない限り、明らかに異質だ。


 本来なら、誰かに見つかって何が起こるか分からない以上、出来る限り目立たないように変装なりをするはずなのだが、


あの阿呆は!


あろうことか!!


なにも対策せずに!!!


外に出やがったのだ!!!!


こちらが「勝手に外に出るな」と連絡したのにもかかわらずだ!


「なんっで、あのバカは、もーっ!」


 先程のUMA発見動画の件もある、常彦は異常事態を引き起こした当の本人の意識の低さを嘆くと、彼女がどれだけ謝っても許さないことを硬く心に誓った。



 駅前をぬけ、大通とは違った賑わいを見せる脇道へと向かう。阿呆の樹が居るのはそこからもっと奥の方、行き止まりのフェンスのすぐ後ろに線路が見える細い路地の奥とのことだ。

 夜になれば、この辺りはガラの悪い人たちがたむろする危険地帯へと変わる。急いでバカを回収しなくてはと言う思いが、自然と彼の足を速めさせた。


「いつきー?いるかー?」


 常彦は軽く息を切らしながら目的地へとたどり着くと、当然ではあるが樹がいた。

 樹の姿は見事だった。どうやったのかは分からないが、綺麗に異形の部分を隠し、全身を出来る限り元の姿へと似せている。それこそ、持ってきた帽子と眼帯があれば、パッと見で違和感を抱く者は少ないだろう。


 樹と幼稚園に入る以前からの付き合いの常彦から見ても、コイツ全体的に白くなったな、程度にしか思わないであろう(しかし外見上はほとんどアルビノに近いので白くなっただけと言うには語弊がある)という位には、完成度の高い擬態を披露していた。そもそも弄ることが出来なかったという、左目と髪色以外のこのクオリティは素直に称賛すべきだろう。

 しかし、それはそれ。とんでもなく阿呆なことをやらかした大バカには一度ガツンと言ってやらねばならないだろう。


「あっ!つねひこ、待ってたよ!いやー…助けてくれてありがとう~」

「樹、お前!あんまりふざけ、て、ると……」


『わっ私、つねひこのこと、だっ、大好きだよ。』


「……~っ!」

「おほ?」


 威勢のよかったのもつかの間。樹の顔を見た途端に、今朝放たれた爆弾が常彦の脳裏をよぎり、常彦の強気は簡単に折れた。



 いとも容易く自爆したヘタレはなんとか冷静さを取り戻し、説教を諦めて本来の目的を遂行することにした。


「ほら、コレ帽子と眼帯、サイズが合わなくても文句言うなよ。」

「うん、大丈夫!いや~流石だな~助かるな~」

「…うん、そうだな。うん、本当に。」


 こちらの気も知らず呑気に感謝する樹を見ているとなにかモヤモヤする。


「くひひっ、本当に今度お礼しないとなぁ~。ありがとね、つねひこ。」

「はぁ…お礼より、勝手な行動を慎んでくれよ?もし何かあったら大変だし、今自分がどれだけ異常な存在かってわかってんだろ?」

「う"っ、それは…ごめんなさい……。」

「あんまり許したくはないけど、分かれば結構だよ…」

「うん……ありがとうね、くひひひ。んーっと、よし、眼帯も帽子も被れたし早く帰ろ?」

「そ、う、だな、早いとこ退散しますか。」

 

 樹が嬉しそうににっこり微笑むと、ドキリと心臓がはねる。

 普段からの汚い笑顔からは想像もつかない明るい笑顔。常彦や他の幼馴染み以外なら、普段とのギャップもあり、一目で心を奪われかねないだろう。

 樹が今回ほど分かりやすく、にっこりと笑うことはまれだが、その程度で動揺する常彦ではない筈だ。


 なぜなら、樹がどれだけ魅力的であっても常彦にとっては家族も同然の存在()()()からだ。

 

「よっし、じゃあ早く帰ろう!」


 上機嫌な樹がそう言うと、常彦の手を掴んでぐいっと引っ張る、不覚にも樹の笑顔に見とれてボサッとしていた常彦は危うく転びそうになり、照れ隠しの気持ちも込めて声を荒げる。


「うわっと!いきなり手ぇ繋いで引っ張るなよ、昨日放り投げられた時もそうだったけどさぁ…力加減とか考えて!」

「くひひっ、ごめんごめん。」

「…手ぇ、離すぞ。」

「ん?なんで?」

「なんでって…もしかしてお前このまま帰るつもりか…?」

「くふふぅ、もちろんですよ?」

「恥ずかしいからやめろ!」


 常彦は妙な照れ臭さに苛まれつつも、繋がれた手を振りほどこうとするが、樹は先程の笑顔は何処へやら、顔をいつも通りのにやにや顔に戻して手を離そうとしない。振りほどこうと常彦が全力で抵抗しても、異形の少女の怪力には全くかなわず、ただ体力を消耗するに終わるだけだった。


「くひひっ、ざーんねんだったねぇ。あ、そうだ、疲れたでしょ?引っ張ってあげるから手繋いでても問題ないよね?」

「…………おう。」


 手を振りほどこうとしても徒労に終わった常彦に対し、樹が心底楽しそうにそう言い放つと、常彦には返す言葉が見つからず、二人が家につくまでの間、樹はしっかりと手を繋いでいた。



 駅前からいちゃつきながら歩き、たまに恨みがましい目で見られたりはしたものの、特にヤバイ方々に出会ったり、異形の身を怪しまれたりすることもなく、家の前にたどり着くことができた。


「つねひこーっ!今日はありがとねー、本当助かっちゃったよ~」

「元はと言えばお前の不注意が原因だろ。今後はこーゆーことが起こらないように色々考えて動けよ。何かあったら俺も出来る限り手伝うから…」

「ふへへぇ、やっぱり優しいなぁ…。今日もまた惚れ直しちゃったぜ。」

「お、おう、そりゃどーも。」

「告白の返事もさ、いつでも、いつまでも待ってるから、えーっと、その……今日はありがとね!おやすみなさーい。」


 告白の返事。その言葉を聞いて常彦はギクリとする。


「あ、あぁ。告白の返事な?うん、うん。」

「あっ、もっもしかして…やっぱり迷惑だった?ごっごごごめんね?私みたいなのが…」

「そ、そうじゃない!そうじゃないから!」

「ほえ?」

「えーっと、その…昨日今日で色々なことがありすぎてまだ…なんというか…」

 

 常彦にとって、樹はすでに家族に等しい存在だった。余りにも長い間そう思っていたせいか、彼の目からはいつの間にか樹のことを恋愛対象から外されており、彼の感覚的には姉や妹に不意討ちで告白されたに近い。

 しかもその不意討ちの前に人間引退というとんでもない一撃をもらっている。正直キャパオーバーという言葉が生ぬるいくらいだ。


 しかし。

 自分を頼ってくれた大切な幼馴染みのことを無下には出来ないのが彼だった。


「樹!」

「はい!?」

「しっ、新学期!」

「新学期!?」

「それまでにはちゃんと返事するから!」

 

 彼女の力になると昨日言ってしまった。ならば正面から向き合わねばなるまい。


 その相手が紛れもない化物だったとしても。





   第二話 都市伝説始めました 了






「……今じゃないの?」

「そこはっ…勘弁してっ…!」


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