Submarine vs submarine1
1985年11月5日 北海
ロス級SSN-688、Angelesは2日前、当海域でソ連海軍のカシン型駆逐艦を
撃沈した。そのあと対潜ヘリがうろつき、離脱できない状況のまま、
2日が過ぎた。
「シエラ1を確認!方位324、距離15キロヤード」
「音紋解析急げ!」
音紋とは人でいう指紋のようなもので、船や潜水艦の種類がわかる。
音紋をデータと照合するのに多少の時間がかかる。
そして2,3分が経ち、
「音紋解析完了。シエラ1はヴィクター級SSNです!」
「1番管発射!」
Mk48魚雷が70ノットの高速でヴィクター級に接近する。
魚雷発射は大きな音を発するので敵艦に発射地点を特定される。
そうなれば反撃がくるのは必至だ。
「魚雷発射音探知、2つ!ヴィクター級からです!」
「4番管、囮魚雷発射!急速潜行、ダウントリム一杯。深度700!」
艦が45度近くに傾き、乗組員は何かを手に掴んで耐える。
「急軌道により、ワイヤー切れました!」
Mk48には2つの誘導方法があり、魚雷本体のソナーのみによる誘導と、
母艦からの有線誘導の2つがある。ワイヤーが切れたときは、
ソナーのみで誘導することになる。
「我が艦の魚雷が敵をシーカーレンジ内に捉えました!」
「よし。敵の魚雷はどうなった」
「1本は囮魚雷を追いかけ、もう一本は本艦頭上、
深度150を迷走中。本艦に命中することはないでしょう」
Angelesは深度700で息をひそめていた。
そのおかげで一方的に被害を与えることが出来る状況にもってきた。
「敵艦ノイズメーカー射出。魚雷迷走します」
Mk48魚雷は優秀であり、迷走したとしても再探知することができる。
今回も再探知して追尾し始める。
「ナックル発生!魚雷再度迷走します!」
ナックルとは潜水艦が急変針することで発生する撹乱水流ことだ。
これにより、一時的にソナーを騙すことができる。
Mk48を2回も回避できたのはとても運が良かったのだろう。しかし…
「再探知!あと目標まで150ヤードです」
司令塔で安堵の声がもれた。攻撃が外れたら反撃が来るかもしれず、
気が気でなかったからだ。
「あと100ヤード」
「80、70、60、50…」
しかしMk48を3回も回避できるほどの運はなかったようだ。
「敵魚雷が本艦を再探知しました!距離150ヤードです!」
ソナーマンが悲痛の声をあげる。それほど絶望するような状況だった。
この距離ではノイズメーカーでの回避も、ナックルでの回避も難しいからだ。
そう言っているあいだにも、距離が近くなりピンガー音の間隔も短くなってくる。
「急旋回だ。取り舵いっぱい!」
「りょ、了解!取り舵いっぱい」
急旋回でナックルを発生させようとしたが今回は発生しなかった。
急旋回したせいで距離がよけいに近くなる。
ピンガー音の間隔も1秒もないように感じる。
艦長以下全員が目を閉じてうずくまる。
そして、ピンガー音の間隔がなくなったように感じた。
「敵、ヴィクター級撃沈しました!」
「よし。潜望鏡深度まで浮上。アップトリムいっぱい」
SSN-688は深度50まで浮上し、索敵。周りに敵がいないことを確認した。
「潜望鏡上げ」
「周りに敵船は確認されず」
そう言った途端、ヘリコプターの独特な音が聞こえてきた。
「ちッ、対潜ヘリじゃねーか!」
「潜望鏡下ろせ!急速潜行!」
Angelesは、また水中に戻っていった。
1985年11月5日 ムルマンスク
「どういうことだ!北海でカシン型とヴィクター級が潜水艦に沈められた!?」
「そ、そうです。両艦とも潜水艦に襲われていると通信してから、
消息を絶っております」
「それがどういうことかを聞いておるのだ!…2週間後に北海を通って、
アムステルダムに強襲上陸せねばならん。それまでに北海の掃海を徹底的にやれ」
「はっ、了解しました!」