*。*:゜ ニニコ論文 「革命家」 ゜:。*
私ことニニコ・スプリングチケットには、命名の趣味がある。
勝手にいろんなものに名前をつけるクセがあるのだ。
そのひとつが「 革命家 」である。
革命。
社会構造を、ある日いきなり激変させる活動を革命という。
だが今からする話は、そんな大それた内容ではない。
トランプだ。
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ● トランプ。
ノノ 人С川 w )
「 大富豪 」というトランプ遊びをご存知だろうか?
地方によっては「 大貧民 」とも言うらしい。
ルールはいたってカンタン。
AとBが対戦するとしよう。
2人には同じ枚数のカードが配られる。
Aに10枚、Bにも10枚としようか。
配られたカードをAとBが交互に出しあう。
そして、さきにすべてのカードを消費したほうが勝ちだ。
カードには強さが設定されている。
3がいちばん弱く、4、5、6と強くなっていく。
そしてキング、1、最後に2がいちばん強い。
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ● ややこしいな。
ノノ 人С川 ꐦ ₋ )
弱いカードから順番に出していくルールだ。
つまり、相手より強いカードを出さないといけない。
はやい話がさ。
「最初にどんなカードを配られるか」
それが勝敗のすべてを決めるゲームなわけ。
人生と同じだ。
4や5みたいなカードばかりじゃ、勝ち目がない。
相手に6以上を出されたら、手も足も出ないからだ。
もちろん、それではゲームとしてまったく面白くない。
そのために「 ペア 」というルールがある。
★ 同じ数字のカードなら、同時に出すことができるのだ。
★ カブりのカードがあれば、一度に何枚も捨てられる。
つまり、その分だけ消費速度が早まるわけだ。
これなら弱いカードしかないプレイヤーでも楽しめる。
楽しめるというか、そこが大富豪の面白さなのだ。
弱いカードばかりだからといって、不利になるとはかぎらない。
プレイヤー全員に、一度に大量のカードを消化するチャンスがあるのだ。
☆ そして。
☆ ここで特筆すべきルールがある。
同じ数字を4枚そろえて出せば、数字の強弱が逆転するのだ。
A:
「ハート、スペード、ダイヤ、クラブの3!」
「同時4枚出しだ!!」
B:
「ぐわあああああ、逆転やああああ!」
そう、カードの強さが逆転するのだ。
3が最強のカードになる。
さっきまでいちばん弱かったくせにだぜ?
反対に、2が最弱のカードになるのだ。
ゲームの途中で、ルールが真逆になるのである。
カスカードばっか持ってた者は、いきなり最強プレイヤーだ。
強いカードばっかり持ってた者は、天国から地獄である。
この同数字4枚フルスラッシュを「革命」と呼ぶ。
まったく上手いネーミングではないか。
フランス革命のごとき、社会階級をひっくり返すルールだ。
これ考えたやつは天才だと思う。
そんでもって。
今回の論文に、トランプはまったく関係ない。
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ● え?
ノノ 人С川 w )
今までのはぜんぶ前フリだよ?
じゃ、そろそろ本題行くぞ。
「 革命 」
私はこれを、フィクションの登場人物にも当てはめているのだ。
説明が難しいので、下をごらんいただきたい。
殺し屋:
「手こずらせたな、だがここまでだ!」
主人公:
「く……! こ、殺せッ!」
殺し屋:
「いい覚悟だ、あばよ」
銃:
「タマ切れでっせ」
殺し屋:
「なに!? まだ1発あるはず……」
殺し屋:
「ハッ! 昨日の、あの女……!」
~ 昨日 ~
昨日の女:
「ねえ、なんかちょうだいよ」
殺し屋:
「なんか? なんかってなんだ?」
昨日の女:
「あたし、一夜の思い出を集めてるの」
殺し屋:
「ヒマな女だぜ」
「それなら命のつぎに大事なコイツをやるよ」
昨日の女:
「キレイ……」
殺し屋:
「あ……あの1発が……」
主人公:
「いまだ、くらえ!!」
わかってもらえただろうか、この女!
女に弾丸を渡したのは、たしかに殺し屋本人だ。
致命的なミスだった。
それも、なんの気なしの「遊び」のつもりだったはず。
だが、おかげで主人公は反撃のチャンスを得た。
殺し屋は一転、ピンチにおちいってしまった!!
主人公は、なぜ都合よくタマ切れしたのか知るよしもない。
どうして助かったのか、理由は永遠にわからずじまいだろう。
形勢逆転。
そのきっかけになったのは誰か?
そう。
ストーリーのカギにもならない「 脇役 」である。
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 〇 〇 だが、だが!
ノノ 人С川 ꐦ w )
おっそろしい、あの女。
強者と弱者の立場を、たしかに入れかえてしまったぞ。
大魔導士……いや!!
革命家である!
もちろん主人公にとって、救いの神になるかはわからない。
逆のケースだってあるはずだ。
主人公が優勢の状況だとしよう。
それが、ひとりのアホのせいで大ピンチになっちゃったり。
さっきの例でいうなら、殺し屋にとっての女がそれだ。
くだらないお願いをされなければ、反撃されずにすんだのに。
なにが恐ろしいって、あの女。
2人の男の運命を変えたことを、一生知らないままなのだ。
まったく悪魔である。
物語のこんがらがった伏線を、
しっちゃかめっちゃかを、
愛憎劇を、
血風録を、
カードを裏返すみたく逆転させてしまう。
機械じかけの神!?
ラスボス!?
いいやちがう!!
「 革命家 」である。
そして人はだれでも革命家になりうるのだ。
なにがきっかけで、他者の人生を変えているかわからない。
18年前である。
耳かきを買いに、100円ショップに行ったときのことだ。
タッチの差で、オバサンに最後の1本を買われてしまった。
もちろんまったく知らない女性だ。
売り切れたものはしょうがない。
となり町の薬局まで足をのばした。
そしてたまたま立ち寄った薬局にいた男性に、心を奪われる。
ひと目で恋に落ちてしまった。
人生で初めての恋だった。
たったの1秒でハートを奪われた。
そしてその恋が、はじめての失恋になる。
男性はマネキンだった。
まず、薬局にマネキンがあるなんて発想がそもそもなかった。
百歩ゆずって人体模型ならまだわかるが、なんでマネキン人形?
健康グッズの商材かなにかだったのか、しかしリアルなこと……
ふつうに人間だと思って声をかけた。
「あの、わ、私……」
マネキンに声をかけたところを5人くらいに見られてしまう。
あまりのバカバカしさ、恥ずかしさ……
耳かきを買うどころじゃない、あわてて店を飛び出した。
悲しみは、やがて怒りへと変わった。
発狂して奈良公園で放送禁止用語を叫びまくった、3時間も。
そして人生ではじめての逮捕となる。
そのとき連れていかれた警察署で、彼女はある人物と出会う。
たまたまその日、運転免許の更新に来ていた男性。
それが私の父である。
母が以前、私に教えてくれた両親のなれそめだ。
あのとき耳かきを買っていったというオバサン。
私の家族にとって、彼女はまさに革命家である。
彼女がいなければ私は存在しなかった。
そりゃそうだろう。
母が薬局に行ったのは、オバサンのせいで耳かきが売り切れたからだ。
結果的にそのことが無ければ、両親の出会いはなかったわけだ。
そう考えると本当に恐ろしい。
だがその事実を、オバサンが知るはずもない。
他人の人生を変えたことも知らず、いい気で耳かきをしてるだろう。
けど……人のことは言えない。
私自身、オバサンをとやかく言える立場ではない。
私もだれかの運命を変えてしまったかも知れないのだ。
いや、変えてないほうがおかしい。
自分もきっと、誰かにとっての革命家なのだ。
その誰かも、べつの誰かにとっての革命家なのだ。
人は、この世界で革命を起こしつづける―――