*。*:゜ ニニコ論文 「オオカミ男」 ゜:。*
今夜は満月だ……
私ことニニコ・スプリングチケットは、体のうずきを止められない。
血がたぎる。
体が熱い……!!
全身の毛穴が開くこの感覚よ……!
変わる―――!
う、ううう、ううううう!!
あああアアアアああ!
うォああアアアアアアア!!
オオオオオオ!
オオオオ!
ウォオオオオア!
オオ!
ウォオオオオ
ォオオオオオオオオオオオン!
オオ!
オアアアアア!
オオオ!
アアアア!
アア!
ウォオオオオオオオオオオオン!
==━─
─━============━───
──── ニ==━─
────== ────
オオカミ男。
じつに差別的な表現だ。
女だって狼になっていいじゃないか。
女も、満月を見て変身したいぞ。
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ● 悪い?
ノノ 人С川 w )
3大モンスターという言葉を聞いたことはあるだろうか?
化け物界のトップ3。
・吸血鬼
・フランケンシュタインの怪物
そして我らが、オオカミ男だ。
なんだけどさ。
なんかさ、ほかの2つに比べてさ。
その……
いまいちインパクトに欠けない?
そもそもオオカミ男の伝説は、あまりにも起源が古い。
古すぎる。
発祥の地がどこなのかすらわからないのよ。
ヘロドトス (紀元前の書物)には、すでにその記述があるのだ。
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ⦿ ⦿ ウオーン!
ノノ 人С川 w )
ここが面白いんだけどさ。
オオカミ男のエピソードって世界中にあるのよ。
バンパイアとおなじだ。
吸血鬼の伝説が世界中にあるように、狼男も世界中にいるのだ。
とはいえ当然、アフリカや南アメリカなどに狼男伝説はない。
なぜって?
もともとオオカミが生息していない地域だからだ。
もっとヤバい生き物だらけだしな、あの辺は。
では、オオカミの生息域ではどうだろう。
たとえば、ヨーロッパのおとぎ話に注目してみたい。
「 三匹の子豚 」
「 オオカミと七匹の子ヤギ 」
「 赤ずきん 」
オオカミは知恵ある化物として、いろんな物語に登場する。
その賢さ。
その残虐性。
その神秘性。
オオカミがどれほど恐れられていたかという証拠ではないか。
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ⦿ ⦿ ワンワンお!
ノノ 人С川 w )
例外と言えば、日本くらいのものだ。
オオカミが登場する日本昔話は、なぜかほとんど存在しない。
あったとしても「狼」そのものとして登場する。
ヨーロッパみたく擬人化されたりしない。
けっして2本足で歩いたりするバケモノではないのだ。
なのに、日本書紀や古事記では神様の立場にいるのだ。
大神 (オオカミ)として、何度も重要なシーンで現れる。
そんなに崇拝せんでも。
おかげで日本だけ、世界の狼男ウェーブに乗り遅れてしまった。
さて、具体的に狼男はなにが恐ろしいのだろう?
そもそもオオカミの強さとはなんなのか?
多くのイヌ科の動物には、群れを作る習性がある。
複数の家族が共同生活する社会グループだ。
コミュニティってやつである。
そして、これこそがオオカミの強さなのだ。
オオカミの群れは、共同体であると同時に軍隊である。
リーダーが集団をまとめ、みんなで作戦行動するのだ。
まさしく一個小隊だ。
さらに嗅覚、走力、聴力など身体能力もきわめて高い。
そんなのがチームで襲いかかってくるのよ。
彼らのターゲットになった動物は、決して逃げられない。
オオカミとは、とてつもなく強い猛獣なのだ。
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ● ・・・・・・
ノノ 人С川 w )
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ● なのにさあ……
ノノ 人С川 w )
それにひきかえ、狼男のポンコツっぷりよ。
スライムのほうがまだマシだ。
だって弱いんだもん、オオカミ男。
オオカミの長所がなにひとつ生かされていない。
人間を食うってアンタ。
むしろ人間を食べない怪物のほうが少ないだろ。
そういうのは個性とは言わん。
ていうか、オオカミ男に変身できるのは満月の夜だけでしょ?
夜が明ければ、ふつうの人間に戻っちゃうんでしょ?
なるほどなるほど。
オオカミの夜行性の設定を取り入れたわけだ。
うん。
そこまではいい。
だが、まったくそのプロットを生かせていない。
弱点をあげろと言われれば、困ってしまう。
だって弱点だらけなんだもん。
いくつか書き出してみようか?
■ 弱点① : 飛べない
飛べない。
これって怪物としては最悪だ。
化け物の怖さは、いつ襲われるかわからないところにある。
いつ自分の村にやってくるかわからないのが恐怖なのだ。
なのにオオカミ男はどうだ。
徒歩の移動しかできず、なおかつ朝には人間に戻ってしまう。
ようするに自宅の近くにしか出没できないわけだ。
これでは通り魔と変わらない。
たしかに怖いけど、これでは人間と変わらないではないか。
■ 弱点② : 増えない
そもそも人間を襲う動機が「食事」だからね。
だから犠牲者は、一晩にせいぜい1人。
もしこれが吸血鬼ならどうだろう。
血を吸って仲間をどんどん増やすんだろうが……
こいつらは増えない。
少しはゴブリンを見習って、女騎士でもさらってほしいものだ。
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 > < くッ……殺せ!
ノノ 人С川 w )
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ● ……忘れて。
ノノ 人С川 w )
■ 弱点③ : 銀の弾丸
銀の弾丸が弱点というのは有名だ。
でも、そんな昔からあった弱点じゃないのよ。
1941年に制作された映画で、はじめて登場した設定である。
いずれにせよ、人間の武器が通用するのは間違いないらしい。
これ、銀の食器セットで殴られても死ぬのだろうか?
■ 弱点④ : 群れない
さっきも書いたが、オオカミの強さはチームプレーにある。
歩兵連隊、だからこそ無敵なのだ。
なのにオオカミ男、こいつら単独行動しかしない。
孤独のグルメもびっくりだ。
いっしょに人間を食べに行く友達とかいないのか?
■ 弱点⑤ : 犯行が適当すぎる
いかに怪力か知らないが、それではクマと変わらない。
だから、いっつも死体をそのままにして帰るんだよね。
スコップ持ってって埋めるくらいしろよ。
だから村人に死体を発見されて大騒ぎになるのに、ぜんぜん学習しない。
ていうかオオカミ男の知能ってどの程度なのかな?
まさか人間と間違えて、畑のカカシを襲ったりはしないだろうが。
頭の中まで犬レベルになってしまったのなら、かわいそうだ。
なんの道具も使えないのではあるまいか?
実際、武器とか使ってんの見たことないぞ。
■ 弱点⑥ : トリカブト
ご存知のとおり猛毒の植物だが、別名がすごい。
ウルフズベインとかいう、植物にあるまじき中二病ネームだ。
意味は、狼を殺せる毒。
そのまんまだ。
それが転じてかは知らないが、トリカブトは狼男の弱点らしい。
……オオカミ男、関係あるかコレ?
トリカブトのアコニチン毒を食らって平気な生物などいないと思うが。
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ● 弱点多すぎ。
ノノ 人С川 w )
マジに弱点が多すぎる。
どうなってんだよ。
と、ずらずら書いといてなんだが……
そこがオオカミ男のいいところなのかもしれない。
というのも、こんなに弱点だらけならどうだ。
本当にカンタンに倒せるんじゃないの?
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ● オオカミ男?
ノノ 人С川 w )
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ゜ ゜ ザコだね笑
ノノ 人С川 w )
逆に言えばだよ?
ファンタジーの初期モンスターに、めちゃくちゃ適任なんじゃないか?
ロープレの1面のボスとして、これほどのハマリ役はいないだろう。
私が異世界転生したとしよう。
もし最初に出くわす怪物がドラゴンなら、絶対にかなわない。
だがオオカミ男なら、作戦次第で勝てるような気がする。
弱いし。
主人公としてあつかう場合も同様だ。
弱点が多い。
したがってピンチの連続になる。
だからこそ、ストーリーが広がるのではないだろうか?
オオカミ男とは、物語を盛り上げる材料だらけのモンスターなのだ。
じゃあさ。
じゃあ、オオカミ男の恐ろしさとはいったい何なのか?
結論を言おう。
ふだん生活している村社会。
ふつうにあいさつするご近所さん。
彼らが満月の夜には変身し、人間を食らっているのでは?
なにしろ問いつめようがない。
だって、 昼間はただの人間なのだから。
家族も、
友人も、
恋人も、
神父様でさえも。
「オオカミ男じゃない保証」などどこにもない。
化け物が本性を隠して、昼間はふつうに生活してるのでは?
友好的で、にこやかな隣人。
愛すべき隣人。
だが、本当はなにを考えているのだろうか。
いや人間だろうか。
食人のことしか頭にないかもしれない。
あるいは、夜まで待てないほど腹を空かせているのかもしれない。
化け物。
だが、誰が化け物なのかわからない。
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 〇 〇
ノノ 人С川 w )
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 〇 〇 誰も信じれん。
ノノ 人С川 w )
人間もオオカミと同じである。
チームワークを発揮して、はじめて無敵の存在なのだ。
その信頼が失われたら?
社会に溶けこむモンスター。
団結を破壊する魔物。
これほど恐ろしい怪物が、オオカミ男のほかにいようか。
まさに悪魔ではないか。
……そもそもオオカミ男には、自覚があるのか?
自分が狼男だという自覚が、彼らにあるのだろうか?
自分自身も変身する事実を知らなかったりして。
あなたは断言できるか?
自分は狼男ではないと、断言できるか?
満月の夜、人を食っていないと断言できるか?
皆殺しなるぞ。
晩餐なるぞ。
我が名はヴェアヴォルフ。
我々は森になどいない。
我がねぐらは太陽の下なり。
我がすみかは太陽の下なり。
我が隠れ家は太陽の下なり。
我が巣穴は、太陽の下なり。
人間社会の、陽だまりの中に我らはいる。
また夜が明ける―――
See you next fullmoon.
See you.