*。*:゜ ニニコ論文 「保安官」 ゜:。*
私ことニニコ・スプリングチケットは、腐った悪党を許しゃあしねえ。
この、胸に輝く保安官バッジにかけてな。
見てみなよ、まるでオリオンの星みてえだろ?
おっと、バッジに注目しなよ。
しまりのない目で、私の谷間を眺めてんじゃねえ。
アンタついてるぜ。
今日は珍しく、私の38口径がゴキゲンなんだ。
ほんの5時間前に、列車強盗とドンパチやらかしたばかりなのさ。
やっこさん、今はぐっすり眠ってるぜ。
棺桶のなかで安らかにな。
ま、伯爵夫人のドレスを返り血まみれにしちまったのはアレだ。
ちょいとマズかったがな。
保安官。
アメリカ映画ではよく耳にする言葉だ。
だが、いったい警察となにがちがうのか?
結論から言えば、雇い主がちがう。
アメリカでは警察組織が一本化されていない。
国、州、市など、とんでもない数の警察組織が存在するのだ。
日本で例えてみよう。
東京都警察とか。
札幌市警察とか。
十津川村警察とか。
九州地方警察とか……みたいな感じ?
各県、各市町村に警察があるの。
さらに、それらを警察庁が統括しているわけではない。
すべてが独立した組織なのだ。
と考えれば、その複雑さがわかってもらえると思う。
さて保安官だが、これも同じくらい複雑だ。
その歴史は、アメリカの歴史そのものと言っても過言ではない。
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ● 過言じゃねえぞ。
ノノ 人С川 w )
19世紀ごろ、いわゆる西部開拓時代の話をしよう。
アメリカは、ご存知のようにとてつもなく広い。
その広さゆえに、国家自治力が全土に及んでいなかった。
そのため警察が常駐してない町とかもあった。
犯罪を取り締まる機関がないのよ。
マジで無法地帯そのものだ。
当然ながら毎日のように犯罪が発生した。
だから自治体が、選挙で治安員を選出したの。
自分たちで治安を守る制度が生まれたわけだ。
これが保安官である。
映画やアニメで見たことないだろうか。
保安官と言えば、腕利きのガンマンみたいな。
フィクションの演出じゃなく、あれは実話だ。
ピストルの達人でなければ、保安官はとても務まらないのだ。
そのくらいしなければ、治安を維持できない。
実力者を選ばざるを得ない事情がアメリカにはあった。
この地方自治の精神ゆえなのかもしれない。
アメリカならではの制度は、保安官だけではない。
『 非法人地域 』って聞いたことある?
簡単に言えば、どの自治区にも属さない都市だ。
ボロンダという町を知ってるだろうか。
カリフォルニア州モントレー郡の、サリナス市にある町だ。
だがそのいずれにも所属していない。
……信じられるか、町がだよ?
ボロンダには、州警察も、市警察も常駐していない。
保安官にすべての自治を任されているのだ。
驚くべきことに、アメリカではそれが当り前なのだ。
非法人地域がいたるところに存在している。
というか、アメリカ国土の過半数が非法人地域だ。
約1億人(人口の40%弱)がそこに居住している。
彼らにとって警察とは、保安官のことなのだ。
なんだけどよ。
いまの説明は忘れちまっていいぜ。
世の中、そんなにシンプルにゃ出来てねえのさ。
どうしてかって?
非法人地域だろうと、市警察が常駐してる町もあんのさ。
サンフランシスコなんか、ケッサクだぜ?
保安官と市警、どっちもいんのさ。
強盗でもやらかそうもんなら、袋のネズミってわけだ。
オーライ、言いたいことはわかるぜ。
ようするに実態はどうなってんだってんだろ?
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ● 説明できん。
ノノ 人С川 w )
できないと言ったらできない。
各都市で異なりすぎて、ひとことでは説明できないのだ。
それほど複雑なのだ。
アメリカらしいだろ?
なお、日本にも保安官は存在する。
海上保安官である。
日本の海保隊は、警察でも自衛隊でもない。
言うなれば「 第3の防衛組織 」である。
じゃあ、海上保安庁の上部組織はどこかわかる?
国土交通省だ。
……そうなのよ。
アメリカの保安官とは、まったく違う保安官だ。
だって国に所属してるんだもん。
さて、アメリカの保安官に話をもどそう。
保安官の仕事をひとことで言えば……むずかしいな。
地域警察と呼ぶのが、一番しっくりくるかな。
彼らのことを英語で「 シェリフ 」と呼ぶ。
では「マーシャル」という言葉を聞いたことはあるだろうか?
連邦保安官のことだ。
またまた保安官である。
しかし、さっきまで説明していたシェリフとはちがう職業だ。
連邦保安官は、地域の保安官ではない。
連邦・地方裁判所に配備される、司法省下の官職である。
(正式名称: United States Marshals Service)
彼らの任務は、囚人輸送や暴動鎮圧などだ。
ほかには裁判の証人を保護するなど、いわば司法の保安隊だ。
◆◆/ ハ""人"ハ人
/ |ハ川 ● ● すなわちよ。
ノノ 人С川 w )
「シェリフ」は町に雇われている公安隊。
「マーシャル」は国家に所属する国家公務員。
どちらも保安官と呼ばれている。
だが、まったくの別物だ。
別物っていうか、まったく関係ない仕事だ。
なのにどちらも保安官である。
つまりだ、レディス & ジェントルメン。
保安官ってのは、かなり無理やりな和訳なわけだ。
警察、
軍人、
情報機関、
それ以外の連中は、日本じゃみんな保安官って呼んでるのさ。
おいおい、ぶっ飛んだジョークだぜ。
日本人ってのはこういうのキッチリしてるってウワサだぜ。
キャッチャーのことは日本じゃなんて呼んでんだ?
ホームベース保安官か?
保安官のワゴンセールだぜ、たまらねえ。
ありえねえだろ。
言っとくが、私の銃にシラは切れないぜ?
保安官はアメリカのオンリーワンさ。
イタリア人の西部劇なんかお呼びじゃねえ。
スパゲティ・ウェスタンなんざ見たくもねえや。
日本じゃマカロニ・ウェスタンって言うんだっけか?
スキヤキ・ウェスタンだったか?
どうでもいいけどな。
まあ要するにだ。
この町の法律が誰かってことは伝わっただろ?
おあいにく様だ、この町じゃサツの出る幕はないぜ。
LAPD(ロス市警)だろうが、
NYPD(ニューヨーク市警)だろうが、
NARA(奈良県警)だろうが、こればっかりはゆずれねえのさ。
さあレクチャーはここらで勘弁してもらおうか、お嬢さん。
私はパトロールに行かなきゃなんねえ。
なあに仕事のうちに入るもんじゃねえ、ほんのお散歩だ。
健康法ってやつさ。