現実は幻想と乖離する(第2回書き出し祭り投稿作品)
肥前文俊(@hizen_humitoshi)さんが開催している『書き出し祭り』の第2回に投稿した作品になります。
下調べ等をせずに書いたため、『小説家になろう』のテンプレフォーマットとは違って読みづらいかもしれませんが、最後まで読んでいただけると幸いです
「なんだ…これ?もうわけわかんねぇな」
そう呟くと同時に周囲の風景が変わる。今度の風景は先程のより崩壊が進んでいた。風景を構成していたであろうテクスチャは所々剥がれていて元の風景を想像することすら困難だった。
周囲のテクスチャが剥がれていても、僕はその光景を不自然と感じていないようだった。僕はその異常な光景の中で極めて自然に、知らない誰かと楽しそうに喋っていた。
場面が変わって崩壊が進んでも、僕の身体が僕の意思で動くことはなかった。崩壊が進んだせいなのか、こうして喋っている相手は顔のテクスチャが剥がれ落ちていて頭の中身が丸見えになっている。
本来頭蓋骨や脳みそなどがあるはずの頭の中は理解不能な言語の羅列で埋まっていた。
相手の身体のどこを見ても露出している体内には身体を動かす骨格はあっても、人間にあるはずの臓器が1つも存在していなかった。どんなに探してもあるのは理解不能な言語の羅列と骨格だけだった。
気分転換に周囲の風景を見ようにも、崩壊が進んだ周囲の風景の中で認識できる程、テクスチャを留めている物質はなく、周囲にある殆どの物質はテクスチャが剥がれ落ちていて目に見えるのは理解不能な言語の羅列だけだった。
僕は理解不能な言語の羅列がこのソースコードなのかもしれないという仮説をたてることはできたが、残念ながら今の僕にはその仮説を証明する方法もはないし、このソースコードを理解する知識もなかった。そのため崩壊して理解不能な言語の羅列で作られたソースコードのようなものが露出していても、それが何を意味していて何を形作っていたのかを想像することはできなかった。
理解不能な言語の羅列で作られたソースコードで構成された景色を眺めていると、理解不能なソースコードに対して好奇心や知識欲が湧いてくる。しかし、どんなに感情があっても理解できる方法がない以上、ソースコードに対して湧いた興味は暇潰しになりえなかった。
この空間?に僕は何一つとして干渉することはできないし、できなかった。独りぼやいていても反応するものは何も居ないし、僕の息で葉が動くこともない。物理的に干渉しようにも今の僕は身体を自分の意思で動かせないから何かに触れることすら不可能だ。
この身体は持ち主である僕の言うことを聞かず、何かに動かされるままに動いている。その挙動のどこにだって僕の意思は存在しない。
動かされるままに動く身体はまるで操り人形のようで、操られている自分が大層無様に思えた。
そんなことを考えていると再び景色が変わった。今度の僕は戦っているようだった。
もっとも自分以外は崩壊が更に進んでいてテクスチャが残っている部分の方が少なくなっていた。周囲をみても目に入るのは理解不能な言語の羅列ばかりで、敵がどんな姿でどんな武器を持っているのかなんてわかるわけがなかった。
相手がこちらに強い敵意を向けていることがわかったがそれは操られている僕も同じだった。
操られている僕の身体は敵の急所がどこにあってもそれを的確に捉え、その全てを一撃で屠っていた。
その戦い方は比喩でも誇張でもなく、たった一撃で敵を必ず殺す。
文字通り一撃必殺だった。
相手の攻撃の全てを紙一重で躱し、的確な一撃で敵を屠るはそれは死神と呼ぶに相応しく理不尽だった。
相変わらず自分の意思で動くことはできないので、僕にできることは主観的に俯瞰することだけだった。もっとも今回のは動かされるままでいないと死んでたと思うけど。
そんなこんなを繰り返すたびに周囲の景色は変わり続けた。僕らの旅が進めば進むほど世界も崩壊していった。相変わらず言語は理解できないし、風景や人の顔も認識できない。僕が見ていた限りでは彼等はどんなに辛くても、仲間と旅をしているのがとても楽しそうで、それが僕は羨ましくて、眩しくて、とても妬ましかった。
結局この空間?世界?に僕の意思が介入できることはなかったけど。
何故過去系かと言うと、彼等の旅が終わったからだ。戦場で死神のように理不尽を振り撒いていた僕だけど最期は呆気なかった。理解できない誰かに理解できない何かで心臓を1突きされて僕は動かなくなった。
そして、僕が動かなくなると世界は本格的に崩壊した。今までの視覚的な崩壊ではなく、物理的な崩壊が始まり、崩れた世界の欠片が虚無へと落ちていった
自分の意思で1度も動いていない以上未練や後悔どころか達成感すらあるわけがなかった。
けれど、眺めることしかできなくても、滅び逝く世界をただ眺めているのは、最後の人類として世界
の終焉のたった独りの観測者になったみたいで心が踊った。滅び逝く世界は、見ていてどこか憧憬じみた畏怖を感じる程雄大だった。
そういえば最期、世界が崩壊し終わる直前に誰かが僕の側で蹲っていたが、僕にはそれが誰で僕であった彼にとってどんな存在だったのかがわからなかった。
結局あの世界は僕に理解できないことが多すぎたようだった。言語や人の顔、ソースコードetc...。とはいえ崩壊した世界の謎なんて解ける訳が無いんだから考えるだけ無駄なんだろう。
例えば死んだ筈の僕がこうして思考できていることとかさ。
泡沫の夢を漂っていた意識が急に覚醒する。
見慣れな天井に一瞬戸惑うが、すぐに新居に引っ越したことを思い出しす。
「あれは夢か。そりゃわけわからんわな」
と呟く。夢の中では、物理法則や自分の意思なんてものは通じないし、存在しないのだろう。夢を見る原理なんて知らないが、夢の中で常識が通じないのは何となく理解していた。
もやもやしている気分をリセットしようと、意識を深くへ沈める。すると、ベッドの中に何があることに気付く。取り敢えず邪魔なのでベッドの外へ蹴り飛ばす。最近の携帯やゲームは頑丈なので1回ぐらいベッドから落としても大丈
「ぐぇっ」
「は?」
間抜けな悲鳴に驚き、慌ててベッドの横を確認スる。
「ちーくん、酷いじゃないか。寝ている人をベッドから蹴り落とすなんてさ」
そこには絶世の美少女がのびながら不満を垂れ流していた。
「おい望憧。なんでお前俺の部屋のベッドで寝てんの?」
と、何故か俺のベッドで寝ていた幼馴染望憧に当然の質問をする。
「取り敢えずお腹が空いたから朝ごはん作ってもらうためにちーくんの部屋に来て、ベッドの中で気持ち良さそうに寝ているちーくんを発見した。んで、起こそうとしてたらいつの間にか寝てた」
「飯ぐらい自分でどうにかしろよ。というかどうやって俺の部屋入ったお前」
「これさ」
とドヤ顔で"俺の部屋の"合鍵をみせつけてくる。
「取り敢えず俺のプライバシーとかその他諸々あるんでその鍵を寄越して二度と無断で俺の部屋に入らないでいただきたい」
「そんな…そしたら私はこれからどうやって生活すればいいんだ? は!もしかして養ってくれるのかい?
イヤだなぁそういうことならそうと早く言ってくれればいいのに。ちょっと待っててくれ、荷物纏めてくるから」
「自分の生活ぐらい自分でどうにかしろ。おい、やめろ荷物を持ってこようとすんな。俺は養わないぞ
「そんな…ちーくんだけは信じてたのに」
「養って貰いたいなら冬馬に頼めあいつならきっと、お前でも養ってくれるさ」
「もう断られたさ。ハァ…私はこれから一体どうすれば…」
「家事技術を身につけるか養ってくれる奴探せ」
「嫌だ。働きたくない!こうなったらかくなる上はちーくんに私自身を貰って貰うしかない」
「どうしてそうなるんだ…働け穀潰し」
「安心してくれ生活から趣味まで必要なお金はいくらでも払ってあげるから。ただ24時間365日私の面倒を見てくれればいいだけさ。今ならタダで絶世の美女と自堕落な生活が一生送れるんだ。これを逃す手はないよね?」
「なるほど。つまり金銭的に養う代わりに生活面で養えと。確かにwin-winかもな」
「そうだろ?さあ、この結婚届けに印鑑を押すんだ。そうすれば労働という地獄と一生涯おさらばできるんだ」
「ふむ、断る。というかなんでお前結婚届け持ってんの?飯食いに来たんじゃないの?やだ怖い」
「そんなこんな大チャンスを逃すなんて…失望したよ」
「勝手にしてろ。というか引っ越したばっかだから冷蔵庫空だぞ」
「大丈夫。私はちーくんと一緒にご飯を食べる。ただそれだけでいいのさ」
「そんなこと言っても養わないからな。しょうがない外食でも行きますか」
「チェッ、バレたか。私も一緒に行っていいかい?奢るからさ」
「お、マジで?ラッキー」
「ちーくんの手作り夕食で手を打とう」
「ハァ…仕方ない。わかったよ夜は作るから代わりに買い出し手伝え。」
「ぉお。やったあ。なんなら手だしてくれてもいいんだよ?」
「やめとく。そんなことしたら俺の胃が死ぬ」
「つまんないのー。ほらぁ早く行こう」
はぁどうしてこいつはこんなに残念なんだろうか。外面と顔は完璧なのに。
「取り敢えず着替えるから出てけ」
と望憧を摘み出す。さてと、出掛ける準備をしますか。
会場別順位、全体順位ともに最下位でほとんど評価を貰えなかった作品ですが、個人的にはとても気に入っている作品なので、少ないですが貰った指摘を活かしてもっとより良い作品にしていきたいと思います。
5月中に修正版を投稿します。