2章3節 重力波の衝撃(8)
砲弾が当たったケンの体は「く」の字型に曲がり、宇宙空間を戦艦と反対方向に移動して行く。
「タリュウ、急いでケンを助けてくれ」
ヒロが言うと同時に、タリュウが影宇宙から顔を出した。
まさにその時、チイ星の戦艦の数十倍大きなピラミッド型の宇宙船が目の前に現れた。
その宇宙船はすぐに強力な引力を使って、ケンの体を回収してしまった。
ヒロたちが驚く間も無く、ピラミッド型宇宙船の扉が開いた。
中から出てきたのは、チイ星のホルス、アモン、そしてトイ星のヌト、アテンだ。
「これは、いったいどういうことなんだ?」
ヒロは混乱しているが、サーヤは冷静に問いかける。
「ケンは生きていますか?」
「皆さん、その少年は生きています。それどころか、全く無傷です」
ヌトの口が動き、その声がヒロたちの耳元で聞こえる。
「でも、あなた達はケンを攻撃した上に、宇宙船の中に隠しているじゃないですか」
ミウがジリュウの口から顔を出して、ヌト達を非難する。
「これは失礼した。事情を説明しましょう」
今度はアモンが前に出て来た。
「科学者達は、我々と違う星から宇宙人がやって来る確率はゼロに近いと言っているが、防衛省としては万一の事態に備えて準備をしている」
アモンは説明を続ける。
「防衛省の中には、我々の星の周囲を常時監視している装置がある。その装置が数日前に侵入者を感知したが、どこにいるのか突き止められなかった」
「僕たちが影宇宙の中にいたから、わからなかったんだな」
ロンがつぶやくと、その声が聞こえたかのようにホルスが話を引き継ぐ。
「侵入者の所在を探すと同時に、我々の防衛力を見せつける目的で戦艦部隊を出動させたが、侵入者の姿は見えなかった」
「あー、その戦艦部隊をマリが見つけて、僕たちが動き出したから察知されたんだ」
ヒロはヌト達の探査能力の高さに感心している。
「侵入者が姿を表さないので、宇宙空間に大掛かりな幻影を作り出して、侵入者をおびき出そうとした」
そう言ってホルスが下がると、アテンが説明を続ける。
「チイ星の戦艦部隊がトイ星を攻撃するという状況で、あの少年が飛び出して来たので、侵入者の姿を確認できた。同時に、侵入者達の行動を分析した結果、我々の敵ではないと判断した」
「僕たちが好奇心で近づいたために、あなた方は強く警戒したんですね。今後は気をつけて行動します」
ヒロが反省の言葉を伝えると、マリが不安な気持ちを声にする。
「ケンはホントに無事なの?早くケンを返してください」
「では、宇宙人の皆さん、こちらの宇宙船の中に入って来てください」
ヌトがピラミッド型宇宙船の扉の前で手招きをする。
「入っても大丈夫かな、ヒロ?」
ミウとマリは不安な表情で、ヒロの顔を見る。
「僕とサーヤが先に入って、ケンが無事かどうか確かめるよ」
ヒロとサーヤがタリュウの口から飛び出して、ピラミッド型宇宙船の中に入った。
すると、二人の目の前に、椅子に座っているケンが現れた。
「おー、ヒロ、サーヤ、何が起きたかわからないけど、俺はどこもケガしていないよ」
サーヤがケンの頭と肩に手を触れて、どこもケガしていないことを確かめる。
「よかった、ホントにケンは無事だったんだ」
ケンは砲撃されたショックで気を失ったから、まだ事態を理解できていないが、とにかく嬉しくてサーヤをハグしたくなった。
「助けに来てくれてありがとう、サーヤ」
ケンが立ち上がってサーヤをハグしようとしたが、サーヤの横にいたヒロに抱きついてしまった。
「ケン、ケガはしてないけど、まだ足元がふらついてるよ」
ヒロが笑ってケンの体を受け止めた。
「安心したようだね。他の皆さんもこちらに来るように言ってください」
ヌトがヒロとサーヤに話しかけると、ヒロがミウ達に合図を送った。
「よかった、ケンは無事なんだね」
マリ、ミウ、ロンが笑顔で宇宙船の中に入って来た。
「ところで、宇宙人の皆さんは宇宙空間から突然現れたけど、別の宇宙から来たのかな?」
ホルスが冗談めかして、ヒロやケンの顔を見る。
「うーん、説明するのは難しいけど、そう考えてもらってもいいです」
ヒロは、相手が信じないかもしれないと思って、曖昧に答えた。
すると、ホルス、アモン、ヌト、アテンの四人は顔を見合わせてうなづいた。
「我々の科学者達は別の宇宙があるという理論を信じているが、実際に別の宇宙を見たものはいない。宇宙人の皆さんは別の宇宙に住んでいるのか?」
不思議なものを見るような目をして、アモンがサーヤとミウに質問する。
サーヤが落ち着いた態度で、影宇宙を通ってここまで来たことを話すと、アテンが自分たちの宇宙論について話し始めた。
「我々の宇宙にある千億個以上の銀河は、その中心に巨大ブラックホールを持っている。そこに光子やエネルギーが吸い込まれている。」