2章2節 オリンポス惑星の住人(10)
「うー、痛い、痛い・・・」
ヒロは宇宙船の中で、うつ伏せのまま意識を回復した。
「ヒロ、無事で良かった。他のみんなも助かったよ」
デウスの優しい声が聞こえたが、ヒロの体は動かない。
「あー、良かった。でも、アルテミスやアポロンの・・・」
ヒロの意識が薄くなって、言葉が続かない。
「ヒロ、君たちは大変な事象に遭遇したんだ。あの光る点は、別の宇宙が我々の宇宙に侵入してくる先端だった。」
デウスの声が遠くから聞こえる。
「影宇宙のほかに別の宇宙があるのか・・・」
ヒロにはデウスの言葉が聞こえているが、夢の中にいるようだ。
「我々の宇宙は十一次元時空の中にある。十一次元は一次元の時間軸と十次元の方向軸に分けられる。その時空の中には無数の宇宙があると、オリンポス国の科学者は考えている。我々の三次元宇宙は七次元方向には広がっていないが、その七次元の内の三次元や四次元方法に広がっている宇宙があっても不思議ではない」
デウスは言葉を続ける。
「我々の宇宙とは異なる方向に広がる三次元宇宙が、第四の次元方向に伸び始めて我々の宇宙に侵入してきたら、見えない方向から突然ひとつの宇宙が出現したことになる。我々の三次元宇宙の向こう側の広大な別宇宙が壁の穴からこちら側に出てきたように見える。こちらに出てきた別宇宙が巨大化すると、向こう側の別宇宙が収縮して手の中に入るほどの小さな宇宙になる」
デウスの声が徐々に遠ざかっていく。
気を失っていたヒロが目を覚ました時には、サーヤ、マリ、ロンが、心配そうにミウとケンを見守っていた。ここは、大きな病室のようだ。
「ヒロ、やっぱり一番早く気がついたね」
サーヤが笑顔でヒロに声をかけた。
「ミウとケンは、大丈夫?」
ヒロが起き上がりながら、周囲を見た。
「二人とも体中に打撲傷があるけど、骨折はしていないわ。もうじき目を覚まして、身体中が痛いって言うはずよ」
サーヤがミウの肩に右手を置いて、ヒロに答える。
しばらくすると、ケンが目を開けた。
「イテテ、体中が痛い・・・」
「あっ、ケンが目を覚ました。良かったね、ケン」
マリがケンの両手を握って、にっこりした。
「うーん、あちこち痛い。私の体は大丈夫なのかな?」
ミウも意識が回復した。
「骨折していないから大丈夫だって。でも痛いだろうね、ミウ」
ロンが気の毒そうな表情を見せた。
「宇宙船が墜落した後、何が起きたのか、夢を見たのか、良く覚えていないよ」
ヒロがミウとケンの顔を見る。
すると、サスケの口からシュウジの声が聞こえる。
「宇宙船が墜落した衝撃で、ヒロたちの宇宙服の機能が壊れた。宇宙服には言葉を翻訳する機能だけでなく、異星人同士の姿を互いに自分に近い姿に変換する機能もあった」
まだぼんやりしているヒロは、しっかり理解できない。
「うーん、それは・・・」
「つまり、地球人にはオリンポス人の姿は地球人のように見えるし、言葉も自国語に聞こえる。オリンポス人から見れば、宇宙服の中の地球人はオリンポス人に似た姿に見えるし、言葉もオリンポス語に聞こえる」
「あー、そうか・・・」
「これは、オリンポスのプロメトスと私のクローンが協力して作った人工知能を組み込んだ宇宙服だ。その機能が壊れた時に、ヒロは一瞬だけアルテミスとアポロンの自然な姿を見たんだよ」
「あーっ、だからアルテミスとアポロンが不思議な姿に見えたのか」
ヒロは、バラバラになっていた記憶がひとつになったと感じた。
「あっ、そうだ。デウスが、別の宇宙が我々の宇宙に侵入して来たって言っていたよ」
宇宙船の中で倒れていた時の記憶が戻ったヒロが、シュウジに話しかける。
「小惑星が光る点にぶつかる前に、アポロンが同じようなことを言っていました」
ミウは恐ろしい光景を思い出して、声を震わせた。
「それはすごい経験をしたね。地球の科学者の中には、そんな現象を予想している人もいるけど、まだ科学的に解明されていないんだ。みんなが知っている重力だって、その本質はまだ謎なんだよ・・・」
シュウジの声が遠ざかっていくと、竜の子供達が現れた。
「早く母さんのいるところに連れて行っておくれ、タリュウ」
ヒロ、サーヤ、サスケがタリュウに、ミウ、マリ、ヒショウがジリュウに、ケン、コタロウ、ハンゾウがサブリュウに、ロン、カゲマルがシリュウに乗り込んで、陰宇宙の中を下降して行く。
「3節 重力波の衝撃」に続く