2章2節 オリンポス惑星の住人(9)
アポロンに続いて、アルテミス、ヒロ、ミウ、ケンが小型宇宙船に乗り込んだ。
「アルテミスとミウは、その装置の前に座って。そしてヒロとケンはあの装置の前に座って」
アポロンの指示に従って、みんなが配置に着くと、宇宙船が上昇し始めた。
「あれっ、どうしてこんなに静かに上昇できるの?」
ヒロがアポロンに問いかける。
「エンジンを回して空気を噴射してるから、そんなに静かじゃないよ。ただ、ちょっと、重力の方向を操作してるからエンジンの音が小さいのかな」
アポロンが自慢気に答えた。
「アポロン、小惑星はいつオリンポス惑星に衝突するの?」
アルテミスが目の前の装置を操作しながら言った。
「一時間以内ってところだよ。早くしないと手遅れになるぞ」
アポロンは落ち着いているが、ミウはパニックになりそうだ。
「小惑星がこの星に衝突したら、生き物が絶滅しちゃうじゃない。どうして、そんなに落ち着いているの?」
「ミウ、慌てなくても大丈夫よ。こんなことは毎年のように起こっているから」
そう言って、アルテミスは操作している装置をミウに見せる。
「これは何を計算しているの?」
七つの衛星に関して、アルテミスが何を計算しているのか、ミウにはわからなかった。
「一番外側の衛星は、接近して来る小惑星より重いから、その重力で小惑星の進路を変えることができるのよ」
アルテミスが説明すると、アポロンが続ける。
「でも、小惑星は超高速で接近して来るから、外側の衛星が小惑星に長い間近づいているように、七つの衛星を操作する必要があるんだ。そのために、小型宇宙船の中から衛星を観測して、リアルタイムで計算するんだよ」
「あっ、こっちの装置に何か映っているよ、アポロン」
ヒロが画面に映る微小な点に気づいた。
「すっげえ小さい点が動いてるぞ。小惑星じゃないか?」
ヒロと同じ画面を覗き込んで、ケンが言った。
「ヒロ、その画面の矢印を小惑星の位置に重ねてくれ」
アポロンが、ヒロに向かって言った。
「了解、小惑星の位置に重ねたよ」
ヒロが矢印を素早く動かして、アポロンに答えた。
しかし、画面の中の小惑星の横に光る点が突如現れた。
「なんだあ、この光る点は?ああーっ、画面が乱れたー」
画面を凝視していたケンが大声をあげた。
「どうしたの?ケン」
「ヒロ、何が見えるんだい?」
アルテミスとアポロンが同時に立ち上がって、ヒロに近づいた。
ヒロとケンは宇宙船の窓の外に視線を移した。
「外を見ろよ、アポロン。光る点が真っ赤に燃えて大きくなっていくよ」
ヒロがそう言うと、アポロンは何かに気づいた。
「あっ、あの光る点は、この宇宙の外側にある別の宇宙の先端じゃないか?この宇宙も別の宇宙も十一次元時空の中にあるけど、別の宇宙がこの宇宙に侵入して来るなんて・・・」
アポロンを遮って、ミウが叫ぶ。
「あーっ、小惑星が光る点にぶつかるーっ」
強烈なエネルギーを持つ光る点は、巨大化する前に小惑星と衝突した。
その瞬間、小惑星は急膨張して、粉々に分裂した。
分裂した小惑星は超高温の真っ赤な破片となって、飛び散って行った。
「あっ、真っ赤な破片が目の前を飛んで行く」
ヒロは、いくつもの破片が七つの衛星に衝突するのを見た。
小惑星と衝突した光る点は、エネルギーを失って消えそうになっている。
「おーっ、小惑星と激突したから、光る点のエネルギーはなくなったのか?」
ケンがそう言うと同時に、アルテミスが叫ぶ。
「みんな伏せてー!何かにしっかりつかまって!」
光る点から放出された強烈なエネルギーによって、みんなが乗った宇宙船が吹き飛ばされた。
「あっ手が滑った。あーっ危ない!」
アポロンが、宇宙船の中を回転しながら、端まで飛ばされた。
「アポロン、大丈夫か?」
ヒロがアポロンを助けようとした瞬間、宇宙船が激しくバウンドした。
宇宙船は、ヘパイストス研究所から少し離れた林の中に落ちた。