2章2節 オリンポス惑星の住人(6)
「それは大変だ。君たちの仲間は、公邸警護の警官に逮捕されるかもしれない」
デウスの言葉にミウが反応する。
「えっ、すぐに助けに行かなくちゃ」
「待ちなさい、モニターで外の様子を見てみよう」
デウスの声に反応して、部屋の壁に公邸の外の様子が映し出された、
「警官たちが門の方から公邸の玄関に戻って来ている。ということは、君たちの仲間は門の外に出てしまったようだな。オリンポスの国民から見れば、君たちは得体の知れない宇宙人だ。大騒ぎにならないうちに、ここに連れ戻そう」
そう言って、デウスが合図をすると、美しい少女が部屋に入ってきた。
「アルテミス、このお客さんたちの仲間を急いでここに連れて来ておくれ」
「はい、お父様。あ、皆さん、ようこそオリンポス国へ。じゃあ、ちょっと行ってきます」
ケンが、アルテミスの後姿をうっとり見つめていると、ミウがケンの背中を軽くたたいた。
「ケン、そんなことしてると、サーヤに嫌われるよ」
「えっ、何言ってるんだよ、モニターを見てるだけなのに」
ケンがドギマギしてモニターを指差すと、公邸の門の外を歩いているヒロたちが映っている。
「あ、もうアルテミスがヒロたちに近づいている。あれ、何なの、ロンがうれしそうな顔してる」
マリが口をとがらせて、ちょっと怒った。
「あなたたち、一般の人たちに見つかると大騒ぎになるから、私と一緒に公邸の中に入りましょう」
アルテミスが近づきながらヒロに声をかけると、ヒロより先にロンが答える。
「そうだね、でも、どうして君は僕たちのことを知っているの?」
「私は、デウスの娘のアルテミスです。皆さん、ようこそオリンポス国へ」
アルテミスが軽くロンをハグした後、ヒロをしっかりハグした。
その様子を見て、サスケが二人の間に割り込んだが、手遅れだった。
「初めまして、アルテミス。僕はヒロ、これは愛犬のサスケです。彼は仲間のロン、そして、ペットのコタロウ、ハンゾウ、ヒショウです」
ヒロはアルテミスを見つめたまま、夢見心地でみんなを紹介した。
サスケが心配してヒロの足を踏んでみたが、ヒロはアルテミスの虜になってしまったようだ。
「あなたがヒロなのね。昨日、父からみなさんのことを聞いたのよ。早く公邸の中に入って、お話しを聞かせてね」
そう言いながら、アルテミスが公邸の玄関に向かうと、ヒロたちは一列になって後に続いた。
「アルテミスが君たちの仲間をハグしたのは、歓迎の気持ちを表す挨拶だよ」
公邸内のモニターを見て、デウスがさりげなく説明すると、ミウとマリが同時に質問した。
「なぜ、アルテミスはロンを軽く、ヒロをしっかりハグしたんですか?」
「それは・・・アルテミスに聞いてみないと・・・」
デウスはあいまいな返事をしたが、アルテミスがヒロに興味を持っていると気づいていた。
「お父様、みなさんを連れて来ました。こちらがヒロ、そしてロンよ」
アルテミスが、透き通った声で二人をデウスに紹介した。
「アルテミス、ありがとう。ヒロ、ロン、そしてペットたち、ようこそオリンポス国へ。君たちのことは、シュウジから聞いていたよ。」
デウスは、公邸の中に入って来た一人一人に笑顔を向け、最後にヒロを見た。
「シュウジって、ヒロの父さんがここに来たんですか?」
ケンが驚いてたずねると、デウスは笑って答える。
「いや、厳密に言えば、ここに来たのはシュウジのクローンだ。地球の科学水準は、我々と同じレベルに達しているようだな」
「地球では、動物のクローンは作れますが、倫理上の制約があって人間のクローンは作られていません。でも、ヤミやアンコクの魂と戦うために、父は医学者の母と協力して自身のクローンを作ったのでしょう」
サーヤがそう言うと、デウスはうなづいたが、ヒロは夢見心地でアルテミスを見ている。
「ヒロ、サーヤ、あなたたちのお父様はすごい科学者なのね」
アルテミスが、やさしくヒロに話しかける。
「そうなのかな。オリンポス国の文明は地球よりずっと進んでいて、ぼくたちの父さんよりすごい科学者がいるんじゃないの?」
ヒロが遠慮がちに言うと、アルテミスがほほ笑んで答えた。
「じゃあ、これからあなたを最先端の研究所に案内するから、私についてきてね」
ヒロが、アルテミスに続いて部屋を出ると、二人乗りのカプセル型自動車が待っていた。
「この自動車も自動運転なの?」
ヒロがたずねると、アルテミスは驚いた表情で聞き返す。
「地球では自動運転じゃないの?自動運転じゃないと、ぶつかったり道路の外に飛び出したりするでしょう?」
ヒロがうなづくと、アルテミスはヒロの手を握って自動車の中に入った。