2章2節 オリンポス惑星の住人(3)
間一髪だった。降ってきた岩は、サーヤのすぐ横に落ちた。
「ありがとう、ケン。助かったよ」
サーヤがケンの手を握り返した。
その横をヒロとロンが、岩陰に向かって走っていく。
「もっと急げー、いっぱい岩が降ってきたぞー」
ヒロが叫んだ。
その直後、サーヤを守ろうとしたケンの後頭部に大きな岩が当たった。
「あっ、ケンが・・・」
声を上げる間もなく倒れたケンを見て、サーヤが息を飲んだ。
後ろを振り返ったヒロとロンが、慌てて戻って来る。
「急いで、ケンをあの岩陰まで運ぼう」
ヒロとロンが大柄なケンを全力で運ぶ。
すぐ近くにいくつも岩が降ってくる。
「あっ、ヒロ、右に逃げて」
ミウが上を見て、降ってくる岩を避ける方向をヒロたちに伝える。
「あー、なんとか安全な場所に着いた」
ケガが回復したばかりのロンが、肩で息をしている。
「ごめんなさい、ケン・・・この惑星で休憩しようって、わたしが言ったから・・・」
マリが泣きながら、ケンの肩をさすっているが、マリの左腕から血が出ている。
「あっ、マリもケガしているじゃないの。でも、今の痛みを我慢すれば、じきに治るよ」
サーヤが、マリの左腕を両手で触って優しく言った。
「とにかく、すぐに来てくれ、タリュウ」
ヒロが呼びかけると、四匹の竜が顔を出した。
気を失ったケンと一緒にサーヤとマリが、タリュウの口の中に吸い込まれた。
ケンはタリュウの中で、浮いたままベッドに移動した。
ミウとカゲマルはジリュウに、ヒロ、サスケ、ハンゾウはサブリュウに、そしてロン、コタロウ、ヒショウはシリュウの中に吸い込まれた。
タリュウの中で、サーヤはケンの宇宙服を脱がせて、ケガの状態を調べた。
「宇宙服がケンの頭を守ってくれたけど、首の骨と神経が傷んでいる・・・」
サーヤがつぶやくと、マリがまた涙を浮かべる。
「サーヤが一緒にいるから、ケンは大丈夫だよ、マリ」
サブリュウの中にいるヒロが、タリュウの中にいるマリに声をかけた。
「タリュウの中には簡易ベッドしかないけど、ケンの治療はできるの、サーヤ?」
ジリュウの中にいるミウが、タリュウの中のサーヤにたずねると、サーヤが答える。
「傷んでいるケンの首の骨と神経に、わたしの治癒の力を当て続ければ、数日で治るはずよ」
「あー、よかった。ケンはじきに元気になるね。あっそうだ、マリもケガしてるんだから、横になって眠っていた方がいいよ。」
ジリュウの中のミウが、タリュウの中のマリに語りかけた。
「どうして? ケンのことが心配だから眠れないよ」
マリが聞き返すと、ミウが楽しそうに答える。
「ケンは、サーヤのことが好きだから、サーヤの夢を見ながら眠っているかもしれないよ」
「そうなのか・・・そう言うミウは、ヒロのことが好きなんだろう?」
シリュウの中にいるロンが、ミウをからかう。
「ロン、変なこと言わないでよ。ヒロが困っているじゃないの」
ミウとロンのやりとりを聞いて、ヒロがつぶやく。
「人が人を好きになるのは、なぜだろう。みんな友達でお互い好きなんだけど、それとは別の感情だよな」
ミウ、ロン、マリは、それぞれ答えを考えついたが、口に出すのをためらっていた。
四匹のリュウは、影宇宙の中を一時間くらい上昇し続けた。
しばらくして、ジリュウの中にいるカゲマルが、そわそわし始めた。
「カゲマル、どうしたの?」
ミウが気づいたときには、ジリュウが他の三匹の竜たちから離れてフラフラしていた。
「ジリュウ、目を覚ましてっ」
ミウが叫んだと同時に、宇宙から強い光の衝撃波が襲ってきた。
「キャーッ、痛いっ」
瞬間的に吹き飛ばされたジリュウの中で、ミウが何回転もして体のあちこちをぶつけた。
忍者のミウでも避けられないほど強い衝撃だった。
しかし、猫のカゲマルはなんとか持ちこたえた。
「あー、手も足も痛い・・・、あれ、左手の感覚がない・・・」
ミウは次第に意識が遠くなっていった。
カゲマルがミウの手や顔をなめて、元気付けようとするが、ミウは意識を失ってしまった。