2章2節 オリンポス惑星の住人(2)
「じゃあ、オリンポス惑星に向かって出発しようか」
ケンが、ヒロやミウの反応を見るように、控えめな口調で言った。
「おっ、すごいな。オリンポス惑星って、高度な文明が発達していた惑星だよね」
ロンが目を輝かせる。
*** ヒロ、サーヤ、サスケ、おいらの中に入れよ・・・
最初にタリュウが口を大きく開けた。
*** ミウ、マリ、ヒショウ、オリンポス惑星は遠いよ・・・
ジリュウが口を開けると、サブリュウ、シリュウも続いて口を開けた。
*** ケン、コタロウ、ハンゾウ、数億年も過去にさかのぼる旅だぞ・・・
*** ロン、カゲマル、数万光年も離れたところに行くんだよ・・・
オリンポス惑星に高度な文明が栄えていたのは、ほぼ六億年も昔のことだ。
この宇宙の時間を六億年もさかのぼるには、影宇宙の中をどれだけ上昇し続ければいいのだろう。
「デウスに会うためには、影宇宙の中で何ヶ月上昇しなければならないのかな?」
ケンが不安な声を出すと、サブリュウが答える。
*** そんなに長い時間は必要ないよ。おいらたちは改造されて、超高速で上昇できるようになったんだ・・・
「オリンポス惑星までの距離は数万光年もあるんでしょう?」
サーヤが父親に問いかけると、サスケの口からシュウジの声が聞こえる。
「太陽は、銀河系の中心から約三万光年離れた位置にあって、約二億年かけて銀河の中を一周している。影宇宙の中で数億年さかのぼっている間に、オリンポス惑星が近づいてくるから、自分で遠くまで移動する必要はないよ」
四匹の竜たちが、影宇宙の中を超高速で上昇している。
出発した時に数万光年離れていたオリンポス惑星の六億年前の位置に向かって、水平方向にも移動している。
四匹の竜たちは、シュウジによって遠隔操縦されている。
「影宇宙の中って、遠くに星が見えるだけで、まわりは真っ暗だね」
ジリュウの中にいるマリが、退屈な気持ちをミウに伝えた。
「そうだけど、出発してからまだ五時間だよ。もう少し我慢しようよ」
ミウが語りかけると、後ろを向いていたマリが振り返って声をあげた。
「あっ、地球みたいな星が見える。ほら、見えるでしょ、ミウ」
「ジリュウ、あの星に行って。ねえ、ヒロ、あの星で休憩しようよ」
タリュウの中にいるヒロに向かって、マリが訴えかける。
「マリはもっと我慢できると思っていたけど、無理だったか」
「あの星が、どれだけ地球に似ているか調べてみようよ」
ヒロとケンがほとんど同時に反応した。
「地球に似た惑星でも酸素があるとは限らないから、宇宙服を来て行きなさい」
遠くからシュウジの声が聞こえると、ヒロの体が透明の宇宙服で包まれた。
「これは透明で軽い宇宙服だ。映画で見たものより、ずっとカッコイイや」
ヒロが喜んでいると、サーヤ、ケン、ミウ、マリ、ロンも透明の宇宙服に包まれた。
「宇宙服の背中の部分が、酸素ボンベになっているみたいね」
ジリュウの中にいるミウが、マリの宇宙服の背中を触って言った。
地球に似た惑星は雲に覆われている。
雲の下の地表に近づくと、岩山と湖がいくつも見える。
最初にサブリュウの口から、ケンが出てきた。
湖の近くに降り立つと、強い風に体を押される。
「おーい、すごーく風が強くて、寒いぞー」
ヒロ、サーヤ、ミウ、マリ、ロンの順に湖の近くに降り立ったが、強い風に吹き飛ばされないように、みんなで手をつないで輪になった。
「誰が、地球に似ているなんて言ったんだい?」
ヒロがからかうと、マリはロンの後ろに隠れて言った。
「影宇宙から見たら、雲が見えたから、地球に似ているって思ったのよ」
「休憩するなら、きれいな湖のほとりがいいよね。でもここは寒すぎる気がしない?」
ミウがそう言うと、ヒロ、サーヤ、ケンが笑う。
「あの岩山、富士山より高いんじゃないの?あれ、頂上から煙が出ているよ」
後ろの山を見上げて、ロンが言うと、ヒロが顔色を変える。
「あれは火山だ。変な音が聞こえる。爆発して噴石が飛んでくるかもしれないから、岩陰に隠れよう」
ゴーッという音が大きくなり、地面がぐらぐらと揺れ始めた。
「きゃーっ、あぶなーい」
まっ先に、マリが大きな岩の陰に向かって走る。
ミウとサーヤも続いて走った。
「あっ、岩が降ってくる、サーヤ、危ないっ」
とっさに、ケンがサーヤの手を引っ張った。