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2節 忍者学校の厳しい訓練(2)

マリは、ミウと一緒に山の中に入っていた。


「ハッ 危ない!」

ミウの足蹴りをかわしたマリが、スルスルッと猿のような身軽さで、杉の大木を登っていった。


「待てーっ!」

ミウも同じくらいの素早さで、マリを追いかけて登って行く。


先に高い所まで登ったマリは、横に張り出した太い枝の先端に走った。

マリは、枝の先端で両手を広げて、森に向かってささやいた。


「木の葉よ、舞えー!」

サワサワと森の木々が揺れて、黄色や緑色の葉が木の枝から離れてマリの回りに舞い始めた。


「もっと!もっと!落ち葉も舞えー!」

すると、赤い落ち葉も地上から舞い上がってマリの姿が見えなくなった。


「そこにいるのは分かってるよー」

ミウが、横に張り出した太い枝の先端に向かった。


「エイッ」

マリは、サッと頭から飛び出して手を伸ばしたが、飛び移れる枝が目の前になかった。


「キャッ、枝がない!落ちてしまうよー」

マリが手足をバタバタさせながら落ちると、下の方に大きな枝があった。


「アッ、あれにつかまろう。ソレッ」

マリは必死でその枝につかまったが、一旦下に反った枝が勢いよく上に跳ね上がったので、マリは斜め上に放り出された。

「もう、いやーっ。どこに飛んでくのー?」


「マリ、わたしの手につかまって!」

長い縄を木の枝に掛けて、縄の先端を自分の足に巻き付けて振り子のように降りて来たミウが、手を伸ばした。


「何も確かめずに飛び出すから、こんなことになるんだよー、マリ!」

そう言いながら、マリを隣の木の枝に乗せて、ミウは縄をほどいて自分も同じ枝に乗った。


「あー助かった。ミウ、いつも助けてくれて、ありがとう」

うっかりして失敗した時、いつもミウに助けられているマリは、ミウの手を握った。


ヒロは、身軽なヨウと山の中で対峙たいじしていた。

高い木の上に登ったヨウを、ヒロが追いかけて攻撃した。


「ヒロ、ここまで、ついてこれるか?」

ヨウは攻撃をかわして、モモンガのようにスーッと滑空して、別の木の枝に逃げた。


「この滑空衣かっくういは、我が家に伝わる特別な服なんだぞ!」

ヨウは、手足を広げるとモモンガの飛膜ひまくのようになる忍者服を自慢した。


「ぼくもやってみよう・・・」

ヒロは、ヨウより速いスピードで滑空したり、木の枝につかまって宙返りしたりしながらヨウに追いついて、拳でヨウの胸を軽く突いた。


「今度は、ヨウが攻撃する番だよ」

そう言って、ヒロは木の枝から枝へ飛び移りながら、上に登っていった。


ヨウも同じようにして、ヒロの後を追って登っていった。

しかし、ヒロの姿を見失ってしまった。


「どこに隠れたんだ!出てこい、ヒロ!」

ヨウが叫んだ途端、幹の中から手が出て、ヨウの背中をくすぐった。


「ウワッやめてくれ!くすぐったいじゃないか!ヒロ」

そう言って、ヨウが振り向いてヒロの手をつかもうとした。


「そう簡単にはつかまらないよ!」

ヒロは木の幹の模様の布をモモンガの飛膜のように使って、地面まで滑空して降りた。


「山の鳥たち、集まれー!」

両手を上に広げたヒロが、空に向かってささやくと、またたく間に百羽、千羽と小鳥達が集まって、ヒロの回りを飛び回った。


「これじゃあ、ヒロを攻撃できないや・・・」

後を追って滑空してきたヨウは、途中の枝につかまって下を見下ろした。


「お互い、上達したな、ヨウ。今日は、ここまでにしよう」

木の枝にぶら下がっているヨウに笑顔で話しかけながら、ヒロは山の奥に消えていった。


「俺が本気を出せば、お前なんかに負けないぞ!俺の方がお前より身軽なんだ!」

ヒロの後ろ姿を睨みつけて、悔しそうにヨウが叫んだ。


山の奥に入ったヒロは、つむじ風になって山の頂上にある一番高い木のてっぺんに登った。

その木の枝に腰掛けると、奈良の街がよく見える。


奈良には、千三百年以上の歴史がある。

すぐ近くに、正倉院、東大寺大仏殿があり、少し先の左手に春日大社、右手に興福寺が見えている。


遠くを見ると、多くの神社や寺の向こうに、奈良盆地を囲む山々が霞んで見えている。


—— あの山のずうーっと、ずうーっと向こうに、父さんと母さん、そしてサーヤがいるはずだ・・・

ヒロは、この木に登って遠くを見ると、いつも涙があふれてくる。


そこへスルスルとマリが登ってきて、ヒロが腰掛けている枝に並んで腰掛けた。

「今日も、お母さんとお父さんのこと、想ってるの?」


「うん・・・ どうやって探せばいいんだろう・・・ もっと、いろんな忍術を使えるようになれば、手掛りがつかめるのかなあ・・・」


ヒロが沈んだ声でつぶやくと、マリはヒロの肩にそっと手を置いてささやいた。

「いつか、きっと会えるよ。だから、元気をだして頑張ろうよ、ヒロ」


「おーい、校庭に集合しなさーい!一時間目の訓練を終了するぞー」

校庭の方から、ソラノ先生の声がした。


すぐにヒロとマリは、枝から枝へ飛び移りながら山を下りた。

同じように、忍者服を着た三十人の少年少女が、山の中から走ったり飛んだりしながら出てきた。


「ヒロとマリは、ほんとに仲がいいなあ。どこに行ってたんだい?」

ソラノ先生の前に整列しながら、ケンがヒロの顔をのぞき込んで訊いた。


「山のてっぺんから、奈良の街と周りの山を見ていたんだ」

ヒロが答えると、ミウが小さな声で訊いた。


「お母さんとお父さんは、どこにいるんだろうって、探していたんじゃないの?」

ヒロは黙ってうなづいた。

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