2章1節 アトランティスの最期(8)
「大きい津波が来たら、神殿が津波に飲み込まれてしまいます。みんな船に乗った方が安全ですよ」
ミウがそう言うと、ディプレ王は驚いて天をあおいだが、すぐに落ち着いた様子を見せた。
「これまで何度も津波に襲われたが、神殿が飲み込まれることはなかった。今回もアトラス神が神殿と我々を守ってくださると信じているよ」
「大きい津波が、こっちに向かって来ているのが見えます。神殿の扉を閉めれば、中にいる人たちは助かりますか?」
ヒロの問いかけに答える前に、ディプレ王はヒロの視力を疑った。
「ここから津波が見えるはずがない。本当に津波の大きさが見えるのか?」
ヒロが千里眼の術を説明すると、ディプレ王は半信半疑で言った。
「君たちはデウス神の使いかもしれないな。神殿の扉は頑丈だから、津波が押し寄せても中に水が入ることはない」
しばらくすると、アトランティスの年寄りと子供たちが、大勢神殿の丘を登って来た。歩けない幼児たちはハンゾウの背中に乗っている。
ケン、サーヤ、マリ、ロンもハンゾウと一緒だ。
「神殿に入れるのは、千人までだ。少しでも元気な人たちは、大きな船に乗って津波を乗り越えよう」
ディプレ王は、お供の三人の男たちに、神殿の中に入った人たちを守るよう命じて、神殿の丘を下って海に向かう。
残りの五人のお供たちも、ディプレ王の後に続いた。
「サーヤ、みんな、僕たちも急いで船に乗ろう。もうすぐ大きな津波が襲ってくるぞ」
ヒロがサーヤの手を引いて走り出すと、ミウ、ケン、マリ、ロンも後を追った。
もちろん、サスケ、カゲマル、コタロウ、ヒショウ、ハンゾウもついて行った。
「おー、大きな船がたくさんいるぞ」
ケンが驚いていると、ロンも同意する。
「ほんとだ、この時代に百メートルもある大型船があるなんて」
「ここは地中海と大西洋の交通の要衝だから、大きな貿易船と軍艦を持っているんだろう」
ヒロは超古代文明に興味があるので、アトランティスのことを調べたことがある。
「もう三十隻くらいの大型船が沖に出ているぞ。ぼくたちも急がないと」
ロンが慌てた様子を見せると、ケンが落ち着いた声で言う。
「サーヤ、ミウ、マリ、ロンはハンゾウたちを連れて先に船に乗って!ヒロと俺は、ここの人たちが全員船に乗った後で、つむじ風の術を使って船に乗るから」
「みなさーん、急いで船に乗ってくださーい」
ヒロとケンが大声で人々を急がせていると、先に沖に出た船から叫び声が聞こえてきた。
「大津波が見えるぞー。早く沖合に出て、東の方に向かえー」
サーヤたちは、ディプレ王が乗った大型船に乗り込んだ。
「あの大きな動物は何だろう」
「あれは象っていう動物だよ」
アトランティスの人々が、ハンゾウを見ながらひそひそと話している。
すぐに大型船は岸を離れたが、大津波が襲いかかる前に沖合に出ることができるのか。
不安になったヒロとケンは、つむじ風の術を使い高く飛び上がって津波の様子を見る。
「うわー、でっかい津波がすぐそこまで来てるぞ」
ケンが叫ぶと同時に、ヒロが津波に向かって飛んで行く。
「神殿が大きな津波に飲み込まれてしまうぞ、ケン」
「津波に強烈な地龍をぶつけて、神殿の中にいる人たちを守ろうぜ」
ケンが、さらに高く飛び上がった。
「ケン、強烈な地龍をぶつけたら、二つに割れた津波がもっと大きくなって、たくさんの船に襲いかかるぞ」
まだ沖合に出ていない船が多いことをヒロが注意すると、ケンは神殿を見つめて言った。
「じゃあ、神殿の中にいる人たちを見捨てろ、って言うのか」
「そうじゃない。神殿の人たちも、沖合に出ていない船も、どちらも助ける方法を考えるんだよ」
そう言うヒロも、どうしたら良いのかわからない。
「そうか、神殿の扉は頑丈だから、津波が押し寄せても中に水が入ることはないんだ」
ケンの言葉にヒロが反応する。
「そうだね、弱い地龍を津波にぶつけて、大津波が神殿を破壊しないようにすれば良いんだ」
「よーし、わかった」
高く飛び上がったままのケンが、大津波に向かって弱い地龍を放った。
すると、神殿に向かっている大津波の真ん中が低くなった。
それでも津波は神殿の丘をゆっくりと登って行き、海面の上に見えるのは神殿の屋根だけになった。
一方、地龍によって二つに割れた大津波は、沖合に出ているたくさんの船に襲いかかった。
しかし、ディプレ王やミウたちは、大型船の上から大津波の変化を見ていたので、船の向きを変えるよう全ての船に伝えた。
「船の向きを変えたら、全員船にしがみついて津波を乗り越えるぞー」
ほとんどの船は、間一髪、大津波に飲み込まれずに助かった。