2章1節 アトランティスの最期(6)
「うーん、最近、父さんとは話をしていないなあ。ヤミの魂と戦う準備をしているんじゃないかな」
シリュウの中にいるサーヤが、ハンゾウの背中をさすりながら応えた。
「どうやってヤミの魂と戦うんだろう・・・映画に出てくるような宇宙船や武器を作っているのかな?」
武術の好きなケンが話に割り込んでくると、ロンが反論する。
「映画でやってるような宇宙戦争は起こせないよ。地球以外の高度な文明を持った惑星は遠すぎて、お互いに生きたまま遭遇することはできないんだ」
それに対してケンが言う。
「そんなことわからないよ。ロンの知らない方法でものすごく速く移動する宇宙人がいるかもしれない」
「あー、大変だ・・・二千年どころか一万年くらい前の時代に来てしまった」
ロンの話を聞いているうちにうとうとしてしまったタリュウが声をあげた。
「あっ、ホントだ、ロンの話が難しすぎて、ぼんやりしてしまった。二千年前の時点にもどろう」
そう言って、ジリュウが後ろを振り返ると、サブリュウとシリュウが応える。
「そうだ、ジリュウの言うとおりだ。もどった方がいいよ、タリュウ」
影宇宙からこの宇宙を見ると、天空から地上を見ているようだ。
「あれっ、地球の海面が低くなって、島が現れたぞ。タリュウ、あの島は何だろう?」
ヒロは、時間をさかのぼって行くうちに、海面が変化していることに気づいた。
「ひょっとしたら、アトランティスかもしれないね」
タリュウが答える前に、ミウが言った。
エジプトのスフィンクスを調べた時に、スガワラ先生が言っていたことを思い出したのだ。
「アトランティスなら、母さんに会いに行く前に、ちょっとだけ行ってみたいな。サーヤ、いいだろう?」
好奇心をおさえきれないヒロが、サーヤに同意を求めた。
「アトランティスって、古代ギリシアのプラトンが書いた本の中に出てくる、海に沈んだ大陸のこと?」
サーヤは気が進まないようだが、ケンがサーヤの気持ちを変えようとする。
「アトランティスは、大陸みたいに大きな島で、すごく繁栄した王国だったらしいよ。一緒に行ってみようよ」
「おー、時間をさかのぼっている間に、島が大きくなってきたぞ。やっぱりあの島はアトランティスだよ」
ロンもアトランティス大陸伝説に強い興味を持っている。
「仕方ないね。ちょっとだけ、あの島がアトランティスか見てみようよ、サーヤ」
ミウが言うと、サーヤが笑顔でうなずいた。
「じゃあタリュウ、あの島に行こう」
ヒロの合図で、皆を乗せた竜たちがアトランティスと思われる島に近づいた。
「ここは、どこなの?遠くに山が見えるけど・・・」
マリが、島のはるか遠くに見える陸地を指して言った。
「遠くに見えているのは、多分ジブラルタル海峡の南側にあるモロッコの山だよ」
ヒロは最初に島が現れた時から、地図で見たことのあるヨーロッパとアフリカの間だと気付いていた。
「あれっ、西の方にもう一つ島が見えるよ」
サーヤが見ている島は、こちらの島と同じくらいの大きさだ。
「アトランティスって、1つの大きな島だったんじゃないのか・・・」
ケンが首をひねって、つぶやいた。
「もっと過去にさかのぼれば、海面が低くなって西の方の島とこの島がつながって大きな島になるかも・・・」
ヒロがそう言うと、ケンは納得したようだ。
「さあ、島に着いたよ」
タリュウの合図で、丘の上の林の中にみんなが現れた。
林の中から丘の頂上を見ると、広場に神殿が建っている。
それはギリシャのパルテノン神殿に似ている。
「あの神殿は、インドのカンベイ湾に水没した超古代都市の神殿にそっくりだね」
ミウが言うと、ヒロが答える。
「ブラフマーさん達が、神様としてまつられている神殿だね」
超古代都市に行っていないマリが首をかしげる。
「ブラフマーって誰?」
そのとき、遠くから話し声が近づいてきた。
「あなた達はどこから来たのですか?」
あごひげを生やした中年の男が林の中に入ってきた。
後ろに八人の男達が立っている。
「すごく繁栄している王国があるといううわさを聞いて、東の国からやって来ました」
とっさにヒロが答えると、中年の男は苦笑した。
「繁栄していたのは遠い昔のことだ。これまで何度も津波と洪水に襲われて、街も建物も壊れてしまった」