2章1節 アトランティスの最期(5)
しばらくして、ヒロがインドのばあちゃんに話しかける。
「これから母さんに会いに行くんだけど、母さんはブッダが生きていた時代のブッダのそばにいるんでしょ?」
「そうよ、今の時代からさらに二千年くらい前よ。ヒマラヤ山脈のふもとだけど、ここより南よ」
インドのばあちゃんが、遠くを眺めながら答えた。
「母さんのいるところにハンゾウを連れて行って、いいでしょ?」
サーヤがハンゾウに乗って笑顔で聞くと、ばあちゃんは大きくうなづいた。
「じゃあ、ばあちゃん、行って来ます」
ヒロが天に顔を向けると、タリュウたちが現れた。
ヒロとサスケがタリュウに、ミウとマリがカゲマルとヒショウを連れてジリュウに、ケン、ロン、コタロウがサブリュウに入った。
続いて、サーヤがハンゾウに乗ってシリュウに入ろうとする。
*** わあー、ハンゾウはすっごく大きいな。おいらの中にはいるかな?・・・
そう言って、シリュウが口を思いっきり開けた。
すると、シリュウに近づいたハンゾウが小さくなって、サーヤとともに簡単にシリュウの中に入った。
影宇宙の中では不思議なことが起きる。影宇宙はシュウジが発見したものだが、その中で人間が生存するためには特殊な装置が必要だ。
タリュウのような竜に乗り、見えないバリアで守られるか、竜の中に入って生存するかだ。もちろん、不思議な竜は、シュウジが造った特別な装置だ。
四匹の竜が、二千年前の時代を目指して影宇宙の中を上昇している。
サブリュウの中で、ロンが言った。
「我々の宇宙と影宇宙との距離は1センチメートルより短いけど、我々の宇宙から影宇宙へ移ることはできないんだ。それは、2次元宇宙、つまり縦横はあるけど高さのない宇宙、の住人が1センチ上にある別の2次元宇宙に移動することができないのと同じ理由なんだよ」
すると、ケンがコタロウを肩に乗せて、ロンに反論する。
「我々の宇宙から影宇宙へ移ることはできないってのは間違いだろ?現に俺たちは、影宇宙に入ってるじゃないか」
「そうだね、ヒロの父さんが影宇宙に出入りする方法を発明するまでは、我々の宇宙から影宇宙へ移ることはできなかった、と言えば良かった」
ロンはケンに向かって苦笑いした。
ジリュウの中で二人の話を聞いていたミウが、ヒロに問いかける。
「影宇宙は、縦横高さの3次元空間と1次元時間の合計4次元時空だけど、影宇宙の中で上方向に上昇すると我々の宇宙の過去に行くことができる。つまり、影宇宙の高さ方向と我々の宇宙の時間方向が一致しているということだよね?」
「うん、我々の宇宙から影宇宙に移って、その中で上昇した後で我々の宇宙に戻ったら、こちらの過去に遡ることができたね。一万一千年前の過去に行って、ブラフマーさんの時代の人達に会ったり、超古代都市も見たりしたね」
ヒロが懐かしそうに答えた。
「でも、影宇宙の高さ方向とこちらの宇宙の時間方向が一致してるのは、なぜなの?」
ミウと同じジリュウの中にいるマリが素朴な疑問を口にすると、得意げにロンが話し始める。
「この宇宙は、十一次元時空の中で四次元時空の宇宙になった。一次元の時間の流れと三次元の広大な空間のほかの七次元はこの宇宙の中では広がりを持たないんだ」
「十一次元って想像できないけど、タカハシ先生から聞いたことだろう?」
ケンがひやかすと、ロンはケンを無視してマリに話しかける。
「マリ、少し難しいけど我慢して聞いてね・・・。この宇宙は、時間と空間の区別もないところで、最小単位の小さな宇宙として生まれたらしい。その直後に宇宙は急激に膨張して、真空の相転移を起こした。三次元空間として急激に膨張した宇宙は、真空の相転移を三回起こした。三回目の相転移で、広がりを持たない七次元のうちの一つが割れて宇宙が二つになった。その二つが我々の宇宙と影宇宙だ」
「うーん、難しすぎてロンの声が子守唄に聞こえるよ」
マリが眠そうに言うと、ロンがあわてて説明を続ける。
「もう少し我慢してね、マリ・・・。二つに割れた後、この宇宙と影宇宙は別々の三次元宇宙として進化したんだ。その進化の方向が、影宇宙の高さ方向とこの宇宙の時間方向が一致するような方向だったんだ」
「ロン、もうマリは眠っちゃったよ。目に見えないものを無理やり想像すると、私も眠くなるよ」
ミウが笑いながら、ロンの話にブレーキをかけた。
「父さんなら、もっとわかりやすく教えてくれると思うけど、サーヤ、父さんと話ができる?」
タリュウの中にいるヒロが、シリュウの中のサーヤに声をかけた。