2章1節 アトランティスの最期(4)
夕日が西の山に隠れようとする頃、ヒロたちは志能備神社の洞の中に入った。
「三年前は、ヒロだけ先に行っちゃったから、俺たちは大変な苦労をして追いかけたんだよな」
ケンが口をとがらせると、ミウが笑ってヒロの顔を見る。
「うん、ヒロはサーヤを探そうと必死だったからね・・・」
「あの時は、ごめんね。今度はみんな一緒に行こう」
ヒロが合図をすると、サスケが洞の奥の壁に向かって駆け出した。
「みんな、サスケに続いて走れ!」
ヒロ、サーヤ、ミウ、ケン、マリ、ロン、カゲマル、コタロウ、ヒショウが、同時に駆け出した。
ケンが後ろを振り返ると、壁が閉じている。
「あっという間に、影宇宙の入り口が消えてしまった・・・」
みんなの前には、空が広がっていて、見上げると四匹の竜がいた。
「おー、タリュウ、ジリュウ、サブリュウ、シリュウ、久しぶりだなあ」
ヒロが四匹の竜に笑顔を向けると、タリュウの言葉がみんなの心に直接伝わった。
*** あー、ヒロ、元気だったか?みんな四つに分かれて、おいら達の口の中に入って・・・
ヒロ、サーヤ、サスケがタリュウに入ると、ミウとマリがカゲマルとヒショウを連れてジリュウに入った。
「じゃあ、俺とコタロウがサブリュウに入るよ」
ケンがそう言うと、ジリュウの中からミウがケンに声をかける。
「そんなことをしたら、未経験のロンが一人になっちゃうじゃないの」
「ありがとう、ミウ。じゃあ、ケン、一緒に入るよ」
ホッとした表情のロンが、ケンとコタロウに続いてサブリュウに入った。
*** あれあれ、おいらの所には誰も来ないのか・・・
シリュウが寂しそうにつぶやくと、サーヤがヒロにささやいた。
「母さんの所に行く途中で、インドのばあちゃんとハンゾウに会って・・・」
「そうだ!ハンゾウをシリュウに運んでもらおう」
ヒロは、サーヤの気持ちがよくわかる。
「シリュウ、五百年前のインドの山奥に行こう。そこでハンゾウを乗せてやってくれ」
ヒロの声がみんなに聞こえると、ケンが笑い声で言った。
「ハンゾウかあ、大きくなっているから、シリュウに入るかなあ・・・」
*** えーっ、そのハンゾウって、どれだけ大きいの?・・・
シリュウが不安げな声を出した。
ヒロたちが乗ったタリュウを先頭に、ジリュウ、サブリュウ、シリュウが影宇宙の中を上昇して、五百年前のインドの山奥に来た。
「あっ、急に何も見えなくなった。以前、サーヤを探していた時と同じだ」
ヒロは、この時代の影宇宙と宇宙の間は行き来ができないと、竜の母親が教えてくれたことを思い出した。
「どうすれば、インドのばあちゃんとハンゾウに会えるのかな?」
*** それは、おいら達の母さんに聞けばわかるよ・・・
タリュウが答えると、ジリュウとサブリュウが続ける。
*** だって、おいら達の母さんが、インドのばあちゃんを・・・
*** 三年前に奈良からここに連れて来たんだから・・・
シリュウがあちこちに向かって、大声で叫んだ。
*** 母さーん!どうすればいいのー?・・・
しーんとして、何も返事がない。
「父さんが、インドのばあちゃんを安全なところにかくまっているから、ばあちゃんに呼びかけたらいいんじゃないか」
ヒロが、ミウとケンに明るい顔を向けると、ミウが答える。
「呼びかける前に、ヒロの千里眼でインドのばあちゃんとハンゾウを探してね」
ヒロが、じいーっと前方を見つめて、合図をするとサーヤが呼びかける。
「おばあちゃーん、ヒロとサーヤが会いに来たよー」
「ああ、天からサーヤの声がするよ・・・ヒロも来てくれたんだね」
インドのばあちゃんが答えると、影宇宙の出口が開いて、サーヤ、ヒロ、サスケが現れた。
続いて、ミウ、マリ、カゲマル、ヒショウ、ケン、ロン、そしてコタロウが現れた。
「あらまあ、大勢で来たんだねえ。みんなに会えてうれしいよ」
インドのばあちゃんは、大きなゾウのハナから降りてきて、サーヤとヒロを抱きしめた。
「サーヤもヒロも大きくなったねえ」
大きなゾウのハナの後ろから、若いゾウがサーヤに近づいてきた。
「あー、ハンゾウ!会いたかったよ・・・わあ、ずいぶん大きくなったね」
サーヤがハンゾウに駆け寄り、顔をすり寄せてハンゾウの頭を何度もなでた。
「久しぶりだな、ハンゾウ、力比べをしようぜ」
強い動物が好きなケンが、ハンゾウの頭を両手で押すと、ハンゾウが長い鼻をケンの腰にまわして持ち上げた。