2章1節 アトランティスの最期(3)
「そうね、早く母さんに会いに行きたかったけど、高校生になるまで待てって、校長先生に言われたよね」
サーヤが小声で話すと、ミウとケンがうなづいた。
「高校生になったから、ヒロのお母さんに会いに行けるって、ほんと?」
マリの後ろから、科学好きのロンが顔を出した。
「あーっ、なんだよ、ロンか・・・びっくりさせるなよー」
ケンが、おおげさに驚いてみせた。
「今日の放課後、夜になる前にサーヤと一緒に母さんの所に行こうと思うんだ」
そうヒロが言うと、ミウが慌ててヒロの両肩をつかんだ。
「そんな急に行かなくても・・・校長先生に許可してもらったの?」
すると、サーヤがミウに笑顔を向けた。
「昨日、ヒロとわたしの他に、ミウとケンの許可ももらったよ」
「あー、わたしも一緒に行きたかったのに・・・」
マリが、ため息をついた。
「大丈夫だよ、マリ、僕も行きたいから校長先生にお願いしてくるよ」
ロンが、マリの肩をポンとたたいて校長室に向かうと、マリも後を追って歩き出した。
「ごめんよ、マリ・・・母さんの所に行く途中で、どんな危険なことや怖いことが起きるかわからないから、マリには残ってもらおうと思ったんだよ」
ヒロがマリの後ろから声をかけた。
「大丈夫よ、わたしはヒロが思ってるほど弱くないから」
マリは、ヒロにほほえみ返して、ロンの後を追って行った。
放課後になって、ヒロ、サーヤ、ミウ、ケン、マリ、ロンの六人がそろって学校を出た。
「サーヤと僕は、夜になる前に出発するって、ばあちゃんに言ってあるから、かばんを置いたらすぐ神社の洞の前に行くよ」
ヒロがミウ、ケン、マリ、ロンに言うと、ケンとミウが応じる。
「俺たちも親に伝えて、すぐに行くよ」
「わたしも、すぐに行けると思うよ」
マリは、とまどいながら言う。
「わたしは初めてだから、お母さんもお父さんも心配するかも・・・」
「じゃあ、わたしがマリと一緒にお願いするよ」
ミウがマリの手を握って、安心させる。
「僕は、父さん母さんを説得する自信があるから、心配しなくていいよ」
ロンが強がりを言うと、ケンがロンを茶化す。
「ロンは理屈っぽいから、親もあきらめているんだろう?」
夕方になって、ヒロとサーヤが、ばあちゃんの家から出てきた。
「ばあちゃん、おにぎり美味しかった。保存食もたくさん作ってくれて、ありがとう」
ヒロが愛犬のサスケを連れて家の前の道に出ると、ばあちゃんがヒロとサーヤに声をかけた。
「保存食は、少しずつ食べるんだよ。母さんに会ったら、早く一緒に帰って来なさい」
「はい、ばあちゃん、二三日で戻るから、心配しないで待っててね」
サーヤが、ばあちゃんの両肩をやさしく抱いて言った。
ヒロとサーヤは、マリの家に向かった。
マリの両親が、納得してくれるか気になっていたからだ。
「ミウが説得してくれたから、お母さんとお父さんが許してくれたよ」
ちょうど家から出てきたマリが、サーヤとヒロに思いっきりの笑顔を見せた。
「マリは楽天的過ぎるから、お父さんとお母さんが心配するんだよ」
マリの家から出てきたミウが、愛猫のカゲマルの頭をなでながらマリに笑いかけた。
「おーい、みんなそろってるかー?」
ケンがペット猿のコタロウを連れて、こちらに向かって歩いてきた。
「ロンは、両親を説得できたのかな?家に行ってみようか?」
そう言って、ヒロが歩き出すと、みんなそろってロンの家に向かった。
ロンの家に着くと、玄関でロンと両親が話し合っている。
「影宇宙は、縦横高さの三次元空間と一次元時間の合計四次元の時空なんだよ。影宇宙の高さ方向と我々の宇宙の時間方向が一致しているから、影宇宙の中で上方向に上昇すると我々の宇宙の過去に行くことができるんだ」
ロンが両親に向かって説明すると、母親がロンの目を見つめて話しかける。
「そんなことを真顔で言うから、ロンが無事に帰って来るか心配なのよ」
「タカハシ先生に教えてもらったのかい?中学生の頃はコンピュータに夢中だったのに、高校生になって宇宙に興味が移ってしまったな」
ロンの父親は、夕暮れの空を見上げた。
ロンの父母は共同でIT会社を経営している。父は理論的で、母は芸術的という夫婦だ。父は忍者だが、母はそうではない。
「とにかく、ヒロやケンたちと一緒だから、心配しなくて大丈夫だよ」
ロンが明るい笑顔を作って両親を見つめると、父親はため息をついて言った。
「確かにヒロたちは、影宇宙を通って過去に行き、サーヤを連れて現在に帰ってきたから、今度も無事に帰ってくるだろう」
「そうです。大丈夫ですよ、ロンのお母さん」
ヒロがロンの両親に近づいて、声をかけた。