2章1節 アトランティスの最期(2)
すると、サーヤが目を輝かせて質問した。
「銀河の二千億個の恒星は、いつから渦を巻き始めたんですか?」
先生が答える前に、ヒロが続いて問いかけた。
「宇宙には、始めから千億個の銀河があったんですか?」
楽しそうに、タカハシ先生が説明する。
「我々の宇宙が生まれる前は、時間も空間もなかった。宇宙は、百三十七億年前に極小サイズの宇宙として生まれた。そこから時間が始まり、宇宙の中にあるエネルギーによって急膨張した。そのとき元素のガスが生まれ、宇宙全体に満ちていた。そして、ガスの密度の高いところの密度がさらに高くなり、ガスが渦を巻いて銀河になった。我々の銀河は、宇宙誕生から二十億年たった頃、無数の恒星が渦を巻く銀河として生まれたんだ」
それを聞いて、宇宙の始まりに興味を持っているヒロが質問した。
「ビッグバンって、宇宙が生まれた時に起こったことですか」
「ヒロは、ビッグバンを知っているのか。今も宇宙は膨張しているから、時間をさかのぼれば今の広大な宇宙の始まりは極小サイズだったことになる。その極小宇宙が爆発的に膨張して広大な宇宙になったというのがビッグバン理論だから、ビッグバンという大爆発は宇宙が生まれた後に起こったと言える。だが・・・」
タカハシ先生は、ヒロの質問に気を良くして詳しく説明しようとしたが、マリやケンの表情を見てにっこり笑った。
「今日はこの辺でおしまいにしよう」
十三歳のマリやケンには複雑すぎて、よく理解できないということがわかったのだ。
遠い過去の宇宙から来たヤミの魂が、地球上に暴力的な独裁者や暴力を振るう集団を作り出していると、忍者学校の校長が教えてくれた。
ヒロとサーヤの父親、シュウジは地球の人々を守るため、ヤミの魂に戦いを挑んだ。影宇宙の中に基地を造り、八百万の神々とともにヤミやアンコクの魂と戦っているらしい。
ヤミの魂から家族を守るため、ヒロの母を仏陀の時代に移動させ、サーヤを母の一族に預けた。さらにヒロを奈良の祖父母に預け、忍者としての修行をさせたのだ。
ヒロたちは十五歳になり、忍者高校に通っている。忍者高校は、忍者中学校の隣にある古びた校舎だが、中の設備は時代を先取りしている。
ヒロたちは、そこで物理、化学、薬学、生物学等のいろいろな知識や忍術を学んでいた。二年前に物理の教師タカハシに教えてもらった、銀河、ブラックホール、ビッグバンという宇宙の構造も、今度は理解できた。
タカハシ先生は宇宙の起源、構造、究極の粒子を説明する超弦理論を探求することに夢中だ。だから、それ以外の人間的な問題で悩むことはほとんどない。
彼は、ヒロたちに重力波、影宇宙、宇宙の創世期、人の手の中の宇宙といった知識も教えたいと思っている。
「誰か、重力波って知っているかい?」
物理の授業で、タカハシ先生が生徒達を見渡した。
「重力波って、超新星爆発の衝撃波とは違うんですか?」
手を上げて、ケンが質問した。
「おーっ、ケンは良く勉強しているなあ。だが、重力波と超新星爆発の衝撃波は別のものだよ。超新星爆発の衝撃波のことは別の機会に解説しよう。重力波は、特に巨大な質量をもつ天体が光速に近い速度で運動するときに発生する。巨大な質量をもつ天体とは、例えば、ブラックホールなどだ」
タカハシ先生は、生徒達が興味を持って聞いているか、みんなの表情を観察する。
彼は、生徒の半数以上が理解できていないと感じて、別の話題に切り替えた。
「この忍者高校では、影宇宙って言葉を聞いたことのある人は多いと思う。影宇宙の存在は一般には信じられていないが、わが忍者高校では影宇宙の構造を教えることにしている。君たちの中には、影宇宙を通って過去の時代に行ってきた人たちがいる」
タカハシ先生がヒロ、サーヤ、ミウ、ケンの顔を順に見ると、マリがよく通る声で話し始めた。
「大怪我をした私を助けるために、ヒロ達が影宇宙を通ってサーヤを捜しに行ってくれたんです。サーヤの特別な能力が・・・、あっ、うーん詳しいことはよく分かりません・・・」
サーヤの特殊能力のことは秘密だったことに気づいて、マリはあわてて話をやめた。
「そうだな、マリ、今は影宇宙の構造について話をしようとしているところだよ・・・。おっと、時間が来たから、影宇宙、宇宙の創世記、手の中の宇宙については、次回の授業で説明しよう」
すこし残念そうな表情を見せて、タカハシ先生は教室を出て行った。
「ミウ、ケン、ちょっと廊下に出て話をしよう。サーヤとマリもついて来て・・・」
ヒロが声をかけて、教室を出た。
「何かあったの?」
ミウが、心配そうな顔をヒロに向ける。
「ヤミの魂が地球から離れたのは、三年前の今頃だった。太陽の活動が落ち着いてきたから、もうすぐヤミの魂が戻ってくるよ」
ヒロは、ミウたちだけに聞こえるように小さな声で話した。
「じゃあ、またヤミの魂にそそのかされた独裁者や暴力的な集団が現れるってことか」
ケンは、なぜか天井をにらみつけて、つぶやいた。
「うん、だから早く父さんに会って、ヤミの魂との戦いに勝つ方法を教えてもらいたいんだ。三年前に、タカハシ先生に父さんのいる場所をたずねたら、母さんのところに行って教えてもらえって言われただろう」
ヒロがサーヤに視線を向けた。