9節 不思議な能力を持つ妹(9)
「ヒロ、サーヤ、おばあちゃんから電話があって、すぐ帰っておいでって」
マリの母親が、庭に出てきてヒロとサーヤに言った。
ヒロとサーヤが、サスケを連れて家に着くと、校長先生とインドのばあちゃんが談笑していた。
「おー、ヒロ、サーヤ。マリの家に行っていたそうじゃな・・・マリの体と心は順調に回復しているのかな?」
校長先生が、あごヒゲをなでながら、ヒロとサーヤに問いかけると、ヒロがインドのばあちゃんの横に座って答える。
「はい、サーヤの治癒能力でケガはすっかり治りました。でも・・・記憶がまだ完全には戻らないので、僕たちの記憶を伝えたりしているところです。ブラフマーさんに教えてもらった方法は、すごく役に立ちます」
「そうか、それは良かった。ところで、ヒロ・・・」
校長先生は、声を低くして話を続ける。
「わかっているだろうが、サーヤが強い治癒能力を持っていることが世間に知れると、その能力を悪用したいヤツらがサーヤを手に入れようとするだろう。だから、サーヤの治癒能力のことは、絶対、秘密にしておくのだぞ!」
「はい、絶対、秘密にしておきます。ミウやケンに・・・特にマリにも言っておきます」
ヒロが声に力を込めて、静かに約束した。
そこにミウ、ケン、マリが、カゲマル、コタロウ、ヒショウを連れてやって来た。
「おー、マリ、だいぶ良くなったように見えるが、気分はどうじゃ?こっちに来て座りなさい」
校長先生が、優しくマリに声をかけると、マリは天真爛漫な笑顔になって校長先生の横に座る。
「はい、ケガはもう治りました。サーヤが治してくれたそうです。サーヤ、ありがとう」
それを聞いて、ヒロがミウ、ケン、マリに向かって、サーヤの能力を秘密にするよう小さな声で注意した。
「そうだな、ヒロ、絶対、秘密にするよ。でも、万一サーヤが危険な目に会うといけないから、俺がサーヤのボディーガードになるよ」
ケンがヒロや校長先生の顔を見て、サーヤに視線を向けた。
「うーん・・・それは不自然じゃな。やはり、ヒロがサーヤを守るようにしなさい。ケンは、サーヤを狙う怪しいヤツが近づかないよう警戒する方が良い。ヒロ、ケン、しっかりサーヤを守ってくれよ!」
校長先生がヒロとケンの肩に手をおくと、ケンはちょっとがっかりした表情を見せた。
「世界のあちこちに、暴力を振るう集団や組織があるけど、それはヤミの魂と関係があるんですか?」
ミウが小さな声で校長先生に問いかけると、先生は周囲に怪しい者がいないことを確かめてから、ゆっくりと説明し始めた。
「ヤミの魂が、暴力的な独裁者達を作り出しているようじゃな。さらに、そんな独裁者の影響を受けた者達が暴力を振るう集団や組織を作っているとも言える。そのヤミの魂の存在に気づいたのが、ヒロとサーヤの父親シュウジじゃ。シュウジは地球の人々を守るため、ヤミの魂に戦いを挑んだが、シュウジの家族がヤミの魂に狙われることになった」
「それでヒロが奈良のおばあちゃんに、そしてサーヤがインドのおばあちゃんに預けられたのか・・・」
ケンが低い声でつぶやきながら、ヒロとサーヤを見た。
「サーヤの母親エミリは、竜に乗って幼いサーヤを私に預けに来たの。そして三人で少しだけ過去に戻ったわ。エミリは、サーヤと私をそこに残して、さらに古い時代に行ったの。それは、ブッダが生きていた時代よ」
インドのばあちゃんが、ほとんど聞き取れないくらい小さな声で言った。
「でも、どうして、母さんはそんな古い時代に行ったの?」
ヒロが独り言のようにつぶやくと、インドのばあちゃんがヒロの目を見つめて答えた。
「エミリは、サーヤと一緒にいるとヤミの魂に見つかりやすいと考えたの。エミリは宗教研究者だから、ブッダの時代に興味があったし、ブッダに守られて安全だと思ったのよ」
「ああ、母さんに会いたいなあ・・・サーヤ、母さんに会いに行こうよ!」
ヒロが、珍しく自分の気持ちをさらけ出して、サーヤの両肩をつかんだ。
「でも、ヒロ・・・どうやって、母さんの所に行けばいいの?」
サーヤは、ヒロの顔から校長先生に視線を移した。
「それは、君たちの父親、シュウジに教えてもらえばよい。安全な場所と時間を選んで、シュウジが君たちだけに教えてくれるじゃろう。あわてないで、待っておればよい」
校長先生は、特別な千里眼の能力でシュウジの様子を見ることができるようだ。
「ヒロのおばあちゃん・・・、ヒロは毎日『母さん、父さん、サーヤのいる所へ連れていって』って神様にお願いしてたでしょ?」
校長先生の横に座っていたマリが、そう言って奈良のばあちゃんの後ろに見える神棚を見た。