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9節 不思議な能力を持つ妹(7)

集中治療室の中にいるヒロが小さな声をあげた。

「あっ、ラクシュミー!サーヤに力を貸してください」


ヒロは千里眼の力でサーヤと同じ景色を見ることができるのだ。

「ヒロ、あの女神を知っているの?」


サーヤがささやくと、ヒロはラクシュミーがサーヤの母エミリの祖先であることや治癒の惑星から治癒能力を授けられた最初の人であることを教えた。


「ありがとう、ヒロ。ラクシュミーの言うとおりにするよ」

そう言って、サーヤはマリの頭に片手を当てて、静かにゆっくりとマリに話しかけた。


暗闇の中で、ラクシュミーが女の子を抱いている。

「あれ?ラクシュミーが抱いているのは、ヴィーナじゃないか?」


ヒロはサーヤに、ヴィーナはラクシュミーの二番目の女の子で、素晴しい歌声の持主になったことを教えた。


「いいえ、この子はヴィーナじゃなくて、幼い頃の眠っているマリよ」

ラクシュミーは、マリが寝ているベッドの上にそっと女の子を置いた。


「あっ、暗闇の中にマリが見える!マリ、マリ、私よ、返事をして・・・」

サーヤがマリの手を握って反応を待つ。


ヒロには、暗闇の中のマリが随分幼く見える。

「ラクシュミー、どうして幼い頃のマリが、ここにいるんですか?」


「この暗闇はマリの意識とつながっているの。私たちに見えるマリが幼く見えるということは、マリの命は救われたけど、幼い頃の意識だけが戻ったということなのよ」


ラクシュミーが複雑な表情を見せると、ヒロは小さくうなづいてマリに語りかけた。

「マリ、僕だよ、ヒロだよ・・・」


集中治療室の中の様子が気になったミウとケンが、治療室に入ってきた。


「マリの手が・・・少し動いたみたい・・・」

サーヤがマリの顔を覗き込む。


「あっ、マリのまぶたが動いた・・・」

ヒロがマリの頭に片手を当てる。


ミウとケンが顔を見合わせる。


「あー!マリが目を開けたー!」

マリがゆっくりと目を開くと、ケンが大きな声をあげた。


「マリ、私よ、ミウよ・・・よかったね・・・」

ミウが、マリのもう一方の手を握って喜んだ。


サーヤとヒロは、暗闇の中のマリが五歳くらいに見えることに戸惑っていた。


「マリ、私が誰だかわかる?」

サーヤが、目を開けたマリに問いかけると、マリはじーっとサーヤを見つめていた。


しばらくしてマリの表情がパッと明るくなった。

「サーヤ!サーヤでしょ?」


「そうよ、サーヤよ。マリ、頭は痛くない?」

「うーん・・・痛くないよ。でも、サーヤは急におねえちゃんになったみたいだね」


マリの幼い意識の中では、十三歳のサーヤが大人に見えるようだ。


「マリ、背中は痛くないか?マリは、トラックにはね飛ばされたんだよ」

ヒロがサーヤの横から顔を出して、マリに声をかけた。


「うーん・・・痛くないよ、ヒロ。でも・・・どうしてヒロもお兄ちゃんになっちゃったの?」


マリの言葉を聞いて、ミウとケンがマリの顔をのぞき込む。

「マリ、ケンと私も大人に見えるの?」


「あれっ、ほんとだ!どうして?」

マリが、ミウとケンの顔をしっかり見ようと、体を起こそうとする。


「あー、まだ起きちゃいけないよ、マリ」

集中治療室の入り口で様子を見ていた医師が、マリに近づいて優しく寝かせた。


そこへマリの両親が、あわただしく入ってきて、マリに抱きついた。

両親は、医師とサーヤに何度も感謝の言葉を伝え、涙を流した。


「マリは、サーヤの奇跡の力で生きるための機能が回復しました。しかし、最近数年間の記憶を喪失してしまったようです。まずは体力を回復してから、記憶を取り戻せるよう治療しましょう」


医師は、マリの両親が失望しないように配慮しながら、ゆっくりと語りかけた。


「うーん・・・サーヤはどこに行ってたの?ヒロが毎日捜していたんだよ」

マリがベッドに寝たまま、顔をサーヤに向けた。


マリの意識は、ヒロが家族と引き離された五歳の頃のままのようだ。


「ヒロとミウと俺が、サーヤを捜しに行ってきたんだ。すごい冒険だったぞ。マリが元気になって退院したら話してやるから、先生の言うことをよく聞くんだぞ」


ケンが得意満面の表情で、マリの頭をなでた。

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