9節 不思議な能力を持つ妹(5)
ヒロがゆっくり立ち上がるのを見て、ケンが地竜を放った。
「新しい地竜を受けてみろ!うおおー!」
ケンが左手を天に向け、右手を地に向けて素早く回転させると、巨大な竜が渦を巻くように、敵の兵士たちをなぎ倒した。
「よーし、こっちはこれで良し!次はサーヤを取り戻しに行くぞ、ヒロ!」
ケンがヒロの手をつかんで走り出す。
「ああ、なんとか走れるよ・・・ありがとう、ケン」
信じられない早さでケガが治ったヒロは、ケンと並んで走った。
「二人でつむじ風になって、上から敵を攻撃しよう!」
ケンが先につむじ風になって、サーヤの周囲の敵の頭をなぐって気絶させた。
「僕がサーヤを抱えて上空に逃げるよ」
ヒロもつむじ風になって、サーヤを担いで逃げる敵の上に近づく。
その敵の頭をケンがなぐると同時に、ヒロがサーヤを抱えて上昇した。
「ああ、ヒロ・・・助けに来てくれたんだね・・・でも、ヒロのケガは?」
サーヤがヒロのケガを心配すると、空を飛びながらヒロが笑った。
「僕のケガがすぐ治ることは、サーヤも知ってるじゃないか!でもケンが助けに来てくれなかったら、危険な目にあうところだったよ」
ヒロに抱えられて飛んでいるサーヤが横を見ると、ケンが照れくさそうな表情を見せた。
「ケン、すごいね!ヒロと私を助けてくれたんだね・・・ありがとう」
サーヤに感謝されると、ケンはどぎまぎして、声がかすれてしまった。
「いやー、たいしたことじゃないよ・・・イテテッ」
ボーッとして飛んでいたケンの太ももに弓矢が当たった。
「ケン、大丈夫か?」
ヒロが心配すると、ケンが笑って答える。
「大丈夫だよ。矢が当たっただけで、刺さらなかったよ」
ヒロとサーヤが、上空で待っていたハンゾウに乗ると、ハナに乗ったインドのばあちゃんが笑顔を向けた。
「二人とも無事で、ほんとに良かった!」
続いてケンがハナの上に戻ると、ミウがケンに拍手を送った。
「ケン、よくやったね!あれっ、太ももから血が出ているよ・・・サーヤに治してもらったら?」
ケンが太ももに手を当ててみたが、血は出ていなかった。
「からかうなよ、ミウ!俺は・・・純情なんだから・・・」
「今度こそ、急いで奈良に戻ろう!」
ヒロが天を見上げると、タリュウたちが静かに顔を出した。
*** ヒロ、マリの容態が悪くなったから、早くサーヤを奈良に連れて来いって、忍者学校の校長先生が言ってるらしいよ・・・
*** 校長先生が言ってるって、俺たちの母さんが言ってたよ・・・
タリュウとジリュウに促されて、ヒロとサーヤがタリュウに、ミウとカゲマルがジリュウに、そしてケンとコタロウがサブリュウに乗った。
ハナに乗っているインドのばあちゃんは、ハナやハンゾウに別れを告げている。
ハンゾウの背中でサスケが小さく吠えると、ハナ、ハンゾウ、そして数千頭の象たちがパオオーと鳴いた。
サスケがシリュウに乗ると、ハナがインドのばあちゃんを鼻に乗せてシリュウの背中に運んだ。
影宇宙の中を現代の奈良に向かっていると、忍者学校の校長の声が聞こえた。
「ヒロ、ミウ、ケン、忍者としてずいぶん成長したようじゃのう・・・今ならアンコクやヤミの魂と互角に戦えるじゃろう」
「あっ、校長先生・・・私たちのことをずーっと見守ってくれてたんですか?」
ミウが校長の声の方角に向かって質問した。
「千里眼を使って時々見ていたんじゃ・・・君たちがサーヤを見つけられるか心配じゃったからのう」
校長の声が返ってきた。
「マリはまだ大丈夫ですよね、校長先生!」
ヒロが問いかけると、校長の声が答える。
「あー、大丈夫じゃ・・・しかし、マリの容態が悪くなっていると、医者が言っとるんじゃ」
「じゃあ、俺たちが初めて影宇宙に入った時のすぐ後の奈良に戻れば、マリの容態は悪くなってないんじゃないか、ヒロ!」
ケンが自信たっぷりの表情で、ヒロの顔をのぞき込んだ。
「それができればいいんだけど・・・」
ヒロは、校長先生の声と話をした時より前の奈良に戻ることができないかもしれないと思った。
そんなヒロの心配を分かっているかのように、校長の声がヒロに届いた。
「君たちが奈良を離れてから今日で五日目じゃ・・・マリは意識不明のままじゃが、生きようと懸命に頑張っておる。サーヤが早く来てくれるのを待っておるぞ・・・」