9節 不思議な能力を持つ妹(4)
「どうして敵の兵士は私たちを攻撃したんですか?」
ミウがインドのばあちゃんに問いかけた。
「それは、治癒能力を持っているサーヤを奪いたいからよ」
インドのばあちゃんが答えると、今度はヒロが問いかけた。
「ハナもハンゾウもほかの像たちも、どうして空中に浮かんでいられるの?」
「うーん・・・よくわからないけど、危険な時はハナがなんとかしてくれるのよ」
インドのばあちゃんが困っていると、サーヤが誇らしげに説明し始めた。
「いつも私たちを見守っている父さんが、重力をコントロールしているらしいの・・・どんな方法でコントロールしているかはわからないけど」
「ふーん・・・影宇宙の出入り口を使って、重力をコントロールしているのかもしれないね」
なぜだかヒロの頭の中に、そんな考えが浮かんだ。
*** ヒロ、急いで奈良に帰れって、母さんが言ってるよ・・・
突然、タリュウが影宇宙の出入り口から顔を出した。
その直後、ハナの周りを回っていたハンゾウが、急にバランスを崩して左右に揺れた。
「きゃー、ハンゾウ、どうしたの?」
サーヤがハンゾウから滑り落ちた。
「あっ、サーヤ!」
ヒロはつむじ風になって、地面に向かって落ちていくサーヤを追いかける。
しかし、サーヤは渦を巻くようにクルクルと回りながら落ちていく。
ようやくヒロの手がサーヤの手に届いた。
「もう大丈夫だよ、サーヤ」
地面に激突する直前、ヒロがサーヤを抱きかかえたが、そのまま二人は地面に腰から落ちてしまった。
「うっ、痛い・・・ サーヤ、ケガしなかった?」
ヒロは、サーヤの頭と肩に触れた。
「うーん・・・どこもケガしていないみたい」
サーヤはゆっくりと体を動かしてみた。
ヒロとサーヤが立ち上がると、敵の弓矢が飛んできた。
ヒロはサーヤを背負って飛び上がった。
つむじ風になって上昇しようとしたが、敵の弓矢がヒロの腹や足に刺さった。
「うっ、うわっ、痛っ・・・」
ヒロは痛みに耐えかねて、サーヤを背負ったまま地面に落ちてしまった。
「あの二人を捕らえろ!」
「女の子は大事に扱え!ケガをさせたら王様に殺されるぞ・・・」
敵の兵士たちが西の方から駆け寄って来る。
そのすぐ後に、東の方から大勢の声が近づいてきた。
「あっちの方に落ちたぞ!」
「あの女の子を奪えば、将軍が喜ぶぞ!」
西から近寄ってきた兵士たちが、ヒロとサーヤを取り囲んだ。
腹と足に矢が刺さったヒロは、横倒しに倒れている。
落ちたはずみで肩を打ったサーヤは、呆然と座り込んでいる。
「よし!この女の子を担いで走れ!」
「早くしろ!東の敵から弓矢が飛んで来たぞ!」
西の兵士たちが、サーヤを担いで西に向かって駆け出した。
その後を追って、東の兵士たちが走って来る。
「待て、待てえー!」
「その女の子を置いていけー!」
東の兵士たちが、はあはあ言いながら小声で話している。
「あの女の子にケガをさせたら将軍に殺されるから、弓矢は使えないぞ・・・」
「ああ、サーヤが敵にさらわれた・・・あっ、ヒロが兵士たちに取り囲まれた・・・おばあさん、ハナは助けてくれないんですか?」
ハナに乗っているミウが、インドのばあちゃんに後ろからたずねた。
「さっきからハナに言ってるんだけど、聞こえないふりをしているのよ」
インドのばあちゃんは、困った顔をミウに向けた。
「ひょっとしたら、ヒロの父さんが俺たちの力を試してるのかもしれないから、俺が助けに行くよ」
そう言って、ケンがハナから飛び降りた。
ケンはつむじ風になって、急降下する。
「ヒロ、大丈夫か?まだケガが回復しないのか?」
大勢の兵士たちの中にケンが降り立つと、兵士たちは慌てて後ろに下がった。
「ああ、ケン・・・助けに来てくれたのか・・・」
ようやくヒロの意識が回復した。