9節 不思議な能力を持つ妹(3)
「おやおや、ヒロじゃないかい?よく来てくれたねえ」
白髪のおばあさんが大きな像に乗って、ゆっくり近づいて来た。
「あっ、インドのばあちゃん!」
ヒロがインドのばあちゃんを見上げると、ばあちゃんはするすると像から下りて来た。
「ヒロ、ずいぶん大きくなったね」
インドのばあちゃんはヒロの肩を抱いて、ほおを寄せた。
ヒロは少しかがんで、ばあちゃんのほおに自分のほおを合わせた。
「インドのばあちゃんは、痩せているんだね・・・」
「私は普通よ。奈良のユリコさん・・・奈良のばあちゃんより細いだけよ」
インドのばあちゃんは明るくほほ笑んだ。
「おばあちゃんが乗って来た大きな像は、ハンゾウの母親ですか?」
ミウが大きな像を見上げて質問すると、インドのばあちゃんがうなずいた。
「そうよ、ハンゾウの母親よ。ハナっていうの。とても頼りになる像よ」
「頼りになるって、どういうことですか?」
強い動物が好きなケンは、ハナの力の強さを知りたいと思った。
「ハナ、お友達に挨拶をしなさい」
インドのばあちゃんがハナに声をかけると、長い鼻をケンの腰にまわして持ち上げてみせた。
「うわあー、すっげえ力持ちだ!ハナに勝てる人間はいないよ」
ケンは、ハナをすっかり気に入ってしまった。
「ばあちゃんとサーヤに、お願いがあるんだ」
ヒロが、マリを救ってほしいと言おうとしたら、サーヤがさえぎった。
「わかってるよ、ヒロ」
サーヤはハンゾウの背中から降りて、ヒロの手をにぎった。
「昨日、父さんが教えてくれたのよ。サーヤ、マリを助けに奈良に行きなさいって」
「サーヤは五歳の時に、私と一緒にここに来たの。サーヤにはもともと治癒能力があったけど、さらに毎年のように治癒能力が強くなったのよ。それは、侵略者に襲われたり、自然災害に遭ったりしてケガをした人達を助けるために、治癒の惑星の魂から強い治癒能力を授けられたからだって、シュウジさんの声が教えてくれたわ」
インドのばあちゃんは、ラクシュミーと同じことを言った。
「じゃあ、今から皆で奈良に行こうよ」
ヒロが影宇宙にいるタリュウ達を呼ぼうとして天を見上げた時、ヒュッと一本の矢がヒロの顔をかすめた。
「誰だ!」
ケンが叫ぶと、その声を目がけてたくさんの矢が飛んで来た。
「みんな早くハナとハンゾウに乗って!」
インドのばあちゃんが、ハナに飛び乗りながら言った。
ミウ、ケン、カゲマル、コタロウがハナに乗り、ヒロとサスケがサーヤと一緒にハンゾウに乗った。
「おおっ、すごい!」
ケンが驚きの声をあげた。
大きな像のハナがスーッと上昇して、あっという間に地上百メートルの高さに静止したのだ。
ハナに続いてハンゾウも飛び上がった。
ハンゾウが急に動いたので、サスケが落ちそうになった。
「おっと危ない。サスケ、大丈夫か?」
ハンゾウから落ちそうになったサスケをヒロが助けた。
ハンゾウは、母親のハナを見上げながら同じ高さまで上昇して、ハナの周りをクルクルと回っている。
「この高さまでは敵の弓矢は届かないよ」
サーヤがヒロとサスケに言った。
「うわっ、敵の兵士たちがたくさん下に集まってきてるよ!」
ヒロは兵士たちの人数に驚いた。数千人はいるだろう。
「ハナ、仲間を呼んでおくれ。いつまでも浮かんでいるわけにはいかないからね」
インドのばあちゃんがハナにささやくと、ハナが大きな声で鳴いた。
「パオオー!」
しばらくすると、ドドドーッという地響きとともに数千頭の像が敵の兵士たちに迫ってきた。
「ああー、はやく逃げろー!」
敵の兵士たちは、必死の形相で西の方へ走り出した。
「もう安心だから、みんなも空に浮かびなさい」
インドのばあちゃんが数千頭の像たちに声をかけると、信じられないことが起こった。
数千頭の像たちがハナやハンゾウのすぐ下の空中に浮かんだのだ。
「こりゃあ凄いや!敵はみんな腰を抜かして座り込んじゃったよ」
ケンが愉快そうに笑った。