9節 不思議な能力を持つ妹(2)
「なーに?ヒロ、何が見えるの?」
ミウがヒロの顔をのぞき込むが、ヒロは目を合わさずまっすぐ前を見つめている。
サーヤの向こうにミウ、ケン、サスケ、カゲマル、コタロウ、そして自分が見えているのだ。
奇妙な気持ちで見つめていると、サーヤのまわりから自分達がいなくなった。
「あっ、タリュウ、ここで止まってくれよ」
ヒロの合図でタリュウが止まると、ジリュウ、サブリュウ、シリュウも止まった。
「サーヤ・・・僕だよ、ヒロだよー!」
ヒロが叫ぶと、サーヤは驚いて後を振り向いた。
「ヒロ・・・ヒロなの?・・・どこにいるの?」
サーヤの声がヒロに届いた時、ミウとケンが歓声をあげた。
「サーヤが答えたあー!やったー!」
その時、影宇宙の出口が開いて、サーヤの前にヒロとサスケが現れた。
続いて、ミウ、カゲマル、ケン、そしてコタロウが現れた。
ヒロとサーヤは五歳の時に奈良とインドに引き離された。
それ以来の再会だ。
「サーヤ・・・、やっと会えたね」
ヒロはサーヤをしっかりと抱きしめた。
「ああ、夢じゃないよね、ヒロ・・・」
サーヤの目から涙があふれた。
「サーヤ、わたしはミウよ。憶えてる?」
ミウがヒロの後からサーヤに近づいて、ほほ笑んだ。
「ミウ・・・ぼんやりだけど、憶えているわ。また会えて、すごくうれしい!」
サーヤが笑顔になった。
サーヤは、幼い頃に何度か奈良に遊びにきた時にミウとケンに会ったことがあるが、記憶はぼんやりしている。
「サ・・・サーヤ、俺のこと・・・憶えてる?ケンだよ・・・」
ケンは、サーヤが可憐な少女に成長していることに驚いていた。
「ケン・・・五歳の頃のケンは憶えているけど、・・・どうしてそんなに大きくなったの?」
サーヤが、ケンの足下から頭まで視線を上げていくと、ケンはどぎまぎしてヒロの方を向いた。
ケンはすぐにサーヤを好きになった。
サーヤとヒロは似ている。
「どっ・・・どうしてって言われても・・・俺にも分からないよ。じゃあ、どうしてサーヤとヒロは似ているの?」
ケンは、さらにどぎまぎして、つまらない質問を口にした。
「サーヤとヒロは双子だから、似ていて当然でしょ、ケン。あれー、サーヤがあんまり可愛いから、混乱してるんじゃないの?」
ミウにからかわれると、ケンは口をとがらせてつぶやいた。
「そんなことないよ・・・」
実際、ミウの言うとおりだった。
ケンは心の中で自問自答し始めた。
「俺は小さい時からヒロが好きだ。じゃあ、俺はヒロに惚れているのか?いや、違う。ヒロは親友だ。サーヤには、ヒロに対する気持ちとは違う何かを感じる。だけど、俺はミウが好きだったはずだ。うーん、自分の心が分からない・・・」
ケンは初めて悩んだ。
ケンの様子を不思議そうに見ていたヒロの視界に、サスケが入り、次に像が入ってきた。
「サーヤ、あの像は何なの?」
「この像はわたしのペットよ。ハンゾウっていうの」
サーヤがハンゾウをみんなに紹介すると、ハンゾウは一人ひとりに鼻を近づけて挨拶をした。
「僕のペットは、柴犬のサスケだよ」
ヒロがサスケの頭をなでる。
続いて、ミウがカゲマルを抱き上げて紹介する。
「カゲマルはすごく賢い猫よ。あー・・・ケンは混乱してるから、ケンのペットも紹介するね。コタロウっていうの」
ミウがコタロウの肩に触ると、コタロウはケンの手を握った。
ケンはぼんやりしていた。
コタロウは、ケンの注意をひこうとして、ケンの周りを回り始めた。
「コタロウ、そんなことしちゃダメだぞ!」
ケンがコタロウをつかまえようとしたが、身軽なコタロウはハンゾウの背中に飛び乗ってしまった。
「あっダメよ!カゲマル・・・」
ミウが止めたが、カゲマルもハンゾウの背中に飛び乗った。
サスケはハンゾウを見た後、振り向いてヒロの前に座った。
「サスケはハンゾウに乗ったりしないよ」
ヒロがサスケを抱き上げた。
それを見て、サーヤがふわりとハンゾウの背中に飛び乗った。
「ハンゾウはコタロウやカゲマルが乗っても大丈夫よ!」
ケンはますますサーヤが好きになった。