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8節 女神ラクシュミー(9)

「ヒロ、ケン、無事だったんだね・・・」

ジリュウの背中に乗って、ミウとカゲマルが影宇宙に現れた。


ミウは悲しい顔をしている。

サスケとコタロウは、元気なくサブリュウに乗っている。


「ヴァーチュとヴィーナ、そして私は助かりましたが・・・うっ、うっ・・・」

話し始めたボサツが泣き出した。

ボサツはヴァーチュとヴィーナを抱きかかえて、シリュウに乗っている。


「ラクシュミーや街の人たちは?」

ヒロがシリュウの後を見るが、誰もいない。


「ラクシュミーは・・・私にヴァーチュとヴィーナを守るように命じた後・・・街の人達のケガを治しに行きました・・・ ・・・ ラクシュミーが丘を駆け下りて・・・倒れている人々のケガを治している時に・・・空中の黒い船から恐ろしい矢が投げられたんです・・・」


ボサツが、恐怖に震えながら声を絞り出した。

ヴァーチュとヴィーナを抱きしめたボサツの目から涙があふれ出て、幼子たちの顔に落ちた。


「その恐ろしい矢が街の東に落ちると・・・そこに太陽が落ちたように強く光りました・・・と同時に強烈な熱風が街を襲ったんです・・・うっ、うっ・・・」


ボサツは強い悲しみのために、話すことができなくなった。

ヴァーチュとヴィーナは泣き疲れて眠っている。


「ああ・・・その矢はアグネアの矢だ・・・」

ケンが小さくつぶやいた。


「私たちは丘の西側の建物の中にいたから、強烈な光や熱風を直接浴びることはなかったの・・・でも・・・街の人たちのケガを治していたラクシュミーは・・・街の人たちと一緒に強烈な光と熱風に襲われてしまった・・・」


ミウの言葉を聞いて、ケンは怒りを爆発させた。

「うーっ、アンコクめー!残酷な武器を使いやがってー!」


「僕たちが黒い船を破壊できなかったから、ラクシュミーが死んでしまった・・・」

ヒロは悔し涙をこらえて、天を仰いだ。


「アンコク惑星の生命体は高度な技術を持っていた。彼らは寿命の尽きそうなアンコク惑星から避難する時に、恐怖の兵器を宇宙に持ち出した・・・」

遠くから父さんの声が聞こえる。


ヒロだけでなく、ミウとケンもサスケを見た。

父さんの声は三人には聞こえるが、ボサツには聞こえないようだ。

ボサツは子どもたちを抱いて泣いている。


「恐怖の兵器って、空を飛ぶヴィマナやアグネアの矢のことですか?」

ケンがサスケを見た後、天を向いて質問する。


「そうだ・・・他にも想像を絶する危険な兵器を持ち出したと考えられる。移住するための惑星に向かう途中で、アンコク惑星の生命体は死に絶えたが、彼らはアンコクの魂となって宇宙空間を移動している」


父さんが説明するたましいという言葉の意味が、ミウには理解できなかった。


「その魂って、何ですか?」

ミウの質問に、父さんの声が優しく答える。


「高度な文明を持った生命体の頭脳を何万・何億も集めたような働きをするものだよ。重力を自在にコントロールして、宇宙空間に浮かぶ頭脳のネットワークを作ったんだ」


「そのアンコクの魂が黒い船を操縦して、アグネアの矢をこの街に投げつけたのか・・・」


遠くに去って行く黒い船をにらみつけて、ヒロがつぶやくと、父さんの声が聞こえる。


「アンコクの魂が7000年前のモヘンジョ・ダロに現れ、この都市を独裁国家にしようとしていた。しかし、うまくいかなかったので攻撃して破壊してしまった・・・」


「どうしてアンコクの魂は、この都市を独裁国家にしたかったんですか?」

ミウは、独裁国家の住民より慈愛の国の住民の方が幸せだと思っている。


「アンコク惑星には多くの国家があって、国と国の戦争が絶えなかった。しかしある時、一人の優秀な生命体が独裁者として惑星全体を統一した。その後は国家間の戦争がなくなったので、アンコク惑星の生命体は、独裁制度を素晴しい制度だと信じているんだ」


父さんの説明を聞いて、ミウの心は深い悲しみでいっぱいになった。

「そんなアンコクの身勝手な考えのために、何の罪もないラクシュミーや街の人たちが殺されてしまったなんて・・・」


「オリンポスや慈愛の惑星にも独裁者が惑星全体を支配した時代があったが、数千年の間にいろいろな経験をした後、民主制度の惑星になった・・・しかし、アンコク惑星は独裁制度から民主制度に成熟する前に惑星の寿命が尽きてしまったんだ・・・」


父さんの説明の途中で、ヒロが疑問の声をあげる。

「じいちゃんは、事故で死んだんじゃないって聞いたよ。ヤミっていう何者かにそそのかされた犯人に殺されたんでしょう?そのヤミっていうのは、アンコクみたいなヤミ惑星のたましいなんじゃないの?」


「うん、そうだな・・・だが、今は詳しい話をする時間がないよ・・・急いでヴァーチュとヴィーナを安全な土地に運んであげなさい・・・」

父さんの声が小さくなって聞こえなくなった。


*** じゃあ、ヴァーチュとヴィーナを安全な土地に運ぼう・・・

タリュウが、そう言って動き出すと、ジリュウ、サブリュウ、シリュウが後に続いた。


モヘンジョ・ダロを離れて、影宇宙の中を北東に進むと、眼下に整然とした街が現れた。


「こんな所に大きな街がある。モヘンジョ・ダロに似てるぞ!」

ケンが驚いて、ヒロとミウの方を見る。


「あー、この街はハラッパーでしょ?ヒロ?」

ミウが、忍者学校の授業で習ったインダス文明の古代遺跡を思い出した。


「そうだね。でも、この街もアンコクの魂に攻撃されるかもしれないから、もっと田舎の方に行こう。タリュウ、安全な田舎に行ってくれよ」


ヒロは、ボサツに抱かれているヴァーチュとヴィーナの命を守りたかった。


*** あそこにきれいな川と小さな村が見える。降りてみようか?・・・

タリュウがヒロに問いかける。


「村人を驚かさないように、村から離れたあそこの岩の陰に降りよう」

ヒロが村の向こうを指差すと、タリュウが影宇宙から顔を出し、ヒロとケンを岩の陰に降ろした。


続いてミウとカゲマル、サスケとコタロウ、最後にヴァーチュとヴィーナを抱いたボサツが岩の陰に降り立った。


「この村がアンコクに攻撃されることはないと思います。ヴァーチュとヴィーナを守って育ててください」


ヒロがボサツの両手、そしてヴァーチュとヴィーナの頭にそっと手を触れた。


「ありがとう、ヒロ、ケン、ミウ。あなた達は命の恩人だ。ラクシュミーの子ども達は、私が立派に育てます・・・」


ボサツは、目を覚ましたヴァーチュとヴィーナを地面に降ろして、ヒロの両手をしっかりと握った。

続いて、ケンとミウの両手を強く握った。


「ヴァーチュ、ヴィーナ、これからはボサツさんの言うことをよく聞くのよ」

そう言って、ミウはヴァーチュとヴィーナを抱きしめた。


「元気を出せよ、ヴァーチュ、ヴィーナ」

ケンが、二人の肩を優しくたたく。


「お母さんはラクシュミーという女神になって、君たちを見守っているからね」

ヒロが天を指差すと、二人は目に涙を溜めて空を見上げた。


*** ヒロ、影宇宙に戻ってサーヤを探しに行こう・・・

タリュウが影宇宙から顔を出した。


みんなはボサツ、ヴァーチュ、ヴィーナに別れを告げ、竜の子ども達に乗って影宇宙に戻った。


「この後、成長したヴァーチュとヴィーナは、ボサツに連れられて古代インドの山岳地帯に移ることになる。ヴァーチュとヴィーナのずーっと先の子孫は、さらに東へ移動する。その地で、二千年後の子孫の一族としてブッダが生まれる。さらにその子孫がヒマラヤの山岳地帯へ移住して、ヒロの母さんの先祖になるんだよ」


遠くから父さんの声が聞こえた。

その声の方に向かって、タリュウが影宇宙の中を下降する。


「今度こそ、サーヤの所に行けるんだね」

そう確信して、ヒロが父さんに語りかけた。

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