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8節 女神ラクシュミー(4)

ボサツが指差す方向に飛んでいくと、地面が大きく窪んでいるのが見える。


近づくと、畑や草地だった場所が黒く焼けただれ、異様な臭いがしている。

窪んだ地面の真ん中には大きな穴があいて、中から煙が出ている。


「放射能があるかもしれないから、大きな穴には近づかないようにしよう」

危険を感じたヒロが誘導して、窪んだ地面の外側に降りた。


「あっちに市長たちが倒れています!」

ボサツに続いてヒロとケンも駆け出した。


「うわー・・・、こりゃあ・・・ひどすぎる・・・」

ケンはヒロの肩に手をおいて、うなった。


「市長・・・市長・・・。副市長・・・副市長・・・。あっ・・・ああっ・・・」


ボサツは、うつぶせに倒れたままの市長と仰向けに倒れている副市長の遺体にすがって泣き出した。


付近には市役所の職員が十人死んでいた。

どの遺体も黒く焼け焦げている。


「ううー・・・とにかく・・・市長と副市長の遺体をラクシュミーのいる所に運ぼう・・・」


あまりの悲惨さに気を失いかけたヒロが、気力を振り絞って副市長の遺体をかつぎ上げようとする。


*** ヒロ、おいらが手伝うよ。一人じゃ無理だろう?副市長はおいらが口にくわえて運ぶから、ヒロはおいらの背中に乗って・・・


タリュウが空から顔を出して、ヒロにささやいた。

驚いたヒロは、副市長の遺体を抱いたまま地面にしゃがみこんでしまった。


「あー・・・、タリュウ!おどかすなよー。ジリュウ達も無事だったかい?」


*** ああ、おいらもサブリュウも大丈夫だよ。市長はおいらが運ぶよ、ケン・・・

ジリュウが空から顔を出し、ヒロとケンに向かって片目をつぶってみせた。


「おー、それはありがたい。頼むぞ、ジリュウ」


*** じゃあ、ケンとボサツは、おいらの背中に乗りなよ・・・

サブリュウが空から顔を出して、驚いているボサツにウィンクした。


タリュウの背中に乗ったヒロが、タリュウに何か伝えた。

タリュウは、街の中で待っているミウとラクシュミーの心に話しかけた。


*** タリュウだよ。今、市長と副市長の遺体を街に運んでいるよ。二人を丘の上の神殿の近くに埋めて、街を見守ってもらおうって、ヒロが言ってるよ・・・


ラクシュミーは驚いて空を見たり周囲を見ていたが、ミウは落ち着いてタリュウのことをラクシュミーに説明した。


「タリュウ!それがいいと思うわ。すぐに子供たちを連れて、丘の上に行くって、ヒロに伝えて」

事情を理解したラクシュミーが、空に向かって静かに答えた。


丘の上の神殿は崩れ落ちていた。

空から顔を出したタリュウが、口にくわえていた副市長の遺体を静かに地面に置いた。


ヒロがタリュウの背中から降りると、ジリュウが空から顔を出し、口にくわえていた市長の遺体をそっと地面に置いた。


続いて、ケンとボサツがサブリュウの背中から降りた。

「おっ、ミウとラクシュミーたちが登って来たぞ」


ヒロとケンが駆け寄って、それぞれヴァーチュとヴィーナを抱きかかえて戻って来た。

その後からミウとラクシュミーが丘の上に現れた。


涙をこらえて立っているボサツのそばに、ラクシュミーの夫と父親の遺体が横たわっている。


「ああーっ、あなた・・・、ああ・・・、お父様もこんな姿に・・・」

ラクシュミーは、夫と父親を同時に失った悲しみに耐えきれず、地面に両手をついて泣き崩れた。


ヴァーチュとヴィーナが、泣きながら駆け寄った。

「お父さーん・・・、おじいちゃーん・・・、お返事してよおー・・・」


ヴァーチュとヴィーナが、交互に副市長と市長の肩を触って返事を催促している。


しばらくして、ヒロがラクシュミーの手を取って話しかけた。

「早すぎるかもしれないけど、二人の遺体を埋めていいですか?」


「はい・・・、神殿のすぐ近くに埋めてください・・・」

ラクシュミーは、涙に濡れた顔を上げて答えた。


ケンとボサツが神殿のすぐ近くに穴を掘り、二人の遺体を静かに横たえた。


「市長と副市長の姿を見たい・・・」

ラクシュミーに命を救われた大勢の人々が丘に登ってきた。


横たわっている市長と副市長の姿を見た人々は、声をあげて泣いた。


「この街の平和を守ってくれた市長が、光のかたまりに殺されるなんて・・・」

「我々はみんな、賢くて優しい副市長が大好きだったのに・・・」


泣きながらヴァーチュとヴィーナの頭をなでる人や、ラクシュミーの手を握る人もいた。


「我々の大好きな市長と副市長のために、ここに記念碑を建てよう!」

ボサツが涙に濡れた顔を上げて、みんなを見渡した。


「おおー、そうだ、そうしよう!」

人々は、亡くなった二人の功績をたたえ、丘の上に記念碑を建てることにした。

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