8節 女神ラクシュミー(3)
建物の中にはケガをした人達が大勢いる。
死にそうになった多くの人達がラクシュミーの力で回復したのだ
「ラクシュミー、あなたはどうやってその素晴しい能力を修得したのですか?」
ヒロが訊ねると、ラクシュミーは穏やかな笑顔で答える。
「十日前に真っ赤に燃える塊が空から落ちてきて、地面に激突した時、この街は大混乱になったの。その時、私は人々とぶつかって転倒して気を失ったわ。そこで不思議な夢を見て一日後に目覚めたら、ケガをした人々を助けることができるようになっていたのよ」
「あー!あれは十日前のことだったのかー」
ケンが天井を見上げて大声をあげた。
放射能廃棄物を登載した飛行物体がモヘンジョダロの郊外に激突した時のことを思い出したのだ。
「どんな夢を見たんですか?神様か何かが夢に現れましたか?」
ミウは、ブラフマーの夢にはデウスが現れたことを思い出して質問した。
「この街の人々を救いたいと夢の中でゴータマ神にお願いしたけど、何も現れなかったわ。でも、大ケガをした人に私が触ると、ケガが治ってしまう夢を見たのよ」
ラクシュミー本人にも理解できない方法で、すごい能力が与えられたようだ。
「今度は私が質問する番よ。あなた達はどこから来たの?」
ラクシュミーが、ヒロ達三人だけに聞こえるよう小声で聞いた。
「信じてもらえないかもしれないけど、僕たちはヴィシュヌ神の時代からやって来ました」
ヒロが同じように小声で答えると、ラクシュミーは少し驚いた表情をみせた。
その時、焼けこげた服を着た一人の男が建物の中に入ってきた。顔も体も血だらけだ。
「ラ・・・、ラクシュミー・・・、市長と・・・副市長が・・・亡くなりました・・・」
そう言って、男は前に倒れ込んだ。
「えっ!おじいちゃんとお父さんが、死んじゃったのー?」
まっ先に叫んだのは、ヴァーチュだ。
ラクシュミーの顔が見る見る真っ白になっていく。
「ほ・・・ほんとですか?あなたもひどいケガですね。何があったんですか?」
ラクシュミーは気が動転していたが、倒れた男の肩に手を触れて語りかけた。
「オ・・・オレンジ色に光る大きい塊が落ちてきて・・・、市長も・・・副市長も・・・十人くらい・・・みんな吹き飛ばされました・・・。私は・・・遠くにいたので・・・、死なずに・・・すみました・・・」
男は、瀕死の重傷を負っていたが、ラクシュミーの力で話ができるようになった。
「ミウ・・・、ヴァーチュとヴィーナをお願い!ヒロとケンは、私と一緒に来てくださいな」
そう言って、ラクシュミーはヴァーチュとヴィーナを抱きしめた。
「今からお父さんとおじいちゃんの所に行ってくるから、ミウと一緒にここで待っていてね」
ラクシュミーが歩き出そうとしたが、ヴァーチュとヴィーナがすがりついて離さない。
「ヴァーチュも・・・お父さんとおじいちゃんのところに行きたーい!」
「ヴィーナも…行きたーい!」
「ラクシュミー・・・、あなたの奇跡の力でケガが治りました。私がこの若者たちと一緒に市長や副市長が倒れている場所に行ってきますから、あなたはここに残って街のみんなを助けてください」
男が立ち上がり体中をさすって、ケガが治ったことをラクシュミーに見せた。
ラクシュミーが何か言おうとしたが、ケンがさえぎってヴァーチュとヴィーナの頭をなでた。
「ヴァーチュ、ヴィーナ、いい子だからお母さんと一緒に待っていろよ」
「ミウ、また何か落ちてくるかもしれないから・・・、ラクシュミーと子供たちを頼んだぞ」
ヒロは飛行物体がまた激突してくることを心配していた。
男が歩き出し、ケンとヒロが後に続いた。
「私はボサツという者で、十日前に空から光る塊が激突した場所を復興するため、市長について行きました・・・」
ボサツと名乗る男は涙を流しながら、市長や副市長たちに襲いかかった大惨事の様子を話した。
「あの時の衝撃波はすさまじかったから、激突した場所の近くにいた人たちは、みんな遠くまで吹き飛ばされました。地面から岩石や土が噴き上がって、私のいたところまで熱風が襲ってきました」
涙が止まらないボサツを両側からヒロとケンが抱えて走り出した。
「しっかり僕たちにつかまって!」
ヒロがボサツに声をかけると、ケンが気合を入れた。
「さあっ、地面を蹴って!」
ヒロとケンに抱えられて、ボサツも空を飛んだ。
「ああー・・・、空を飛んでいる・・・」
ボサツがビックリしていると、ケンが皆の体をゆらしながら話しかける。
「市長や副市長が倒れている所へ、しっかり案内してくださいよー」