8節 女神ラクシュミー(2)
「ううー、痛い・・・、ううー、ラクシュミー、助けてくれ・・・」
あちらこちらの倒れた建物の壁際から、ラクシュミーと呼ばれる女性に助けを求める声がする。
ラクシュミーは、ケガをした人々の頭や肩に触れるだけで、ケガを治していった。
「お母さん、ヴィーナのケガがひどいの!すごい血が出てるよ」
がれきの隙間から小さな女の子がラクシュミーに訴えると、ラクシュミーが駆け寄った。
「あっ、ヴァーチュ!あなたもケガをしているじゃないの!ヴィーナ、もう大丈夫よ」
ラクシュミーは、右手でヴァーチュという小さな女の子の頭に触り、左手でヴィーナという幼い女の子の肩を優しく撫でた。
ヴァーチュとヴィーナはラクシュミーの娘達で、ヴァーチュが姉だ。
「あっ、ヴィーナの血が止まった。良かったね、ヴィーナ!」
ヴァーチュが妹のヴィーナを抱き起こすと、ヴィーナはラクシュミーとヴァーチュにほほ笑んだ。
「ヴァーチュ、ここでヴィーナと一緒に待っていてね。私はみんなのケガを治して来るから」
ラクシュミーが優しく言うと、娘達は不安げな表情になったが、こっくりと頷いた。
街中のほとんどの人が大ケガをしていた。
死んだ人も大勢いる。
「ケガした人達を早く治療しないと、死んでしまう・・・」
あちらこちらから助けを求める声がするので、ラクシュミーはケガをした人達に次々と触れていった。
「私達が持っている薬を使って、お手伝いしましょう」
ミウがラクシュミーの後から声を掛けた。
ラクシュミーが振り向くと、サスケが顔を見上げていた。
その先にヒロ、ミウ、ケンがラクシュミーを見つめて立っていた。
「あなた達はどこから来たのかしら。でも、今はそんなことより、少しでも手伝ってもらえるとうれしいわ」
ラクシュミーが、ひどいケガをした人を先に治していくと、ミウがケガの軽い人に薬を塗っていった。
「あなたが治療した人達を建物の中に運びますよ」
ヒロとケンは、被害の少なかった建物の中にケガ人を運んで休ませた。
「ケガをした人が多すぎて、いつまでたっても終わらないよ!忍術を使って俺たちを十人ずつに増やそうぜ」
ケンがくるくるっと回ると、ケンが十人になった。
「じゃあ、ぼくもそうしよう」
「わたしも十人になるよ」
ヒロとミウもくるくるっと回って、それぞれ十人になった。
「すごい!三人が三十人になるなんて!」
ラクシュミーが驚きの声をあげて、大勢になったミウ達を見た.
十倍の人数になったミウ、ヒロ、ケンの働きで、大勢のケガ人が治療を受けて建物の中で休むことができた。
もちろん、瀕死の重傷を負ったケガ人はラクシュミーの奇跡の力で回復した。
「なんとか、ケガをした人達みんなが建物の中に入ることができたわ。もう夜になったから、あなた達は休みなさい」
ラクシュミーがヒロ、ミウ、ケンに声をかけて、ヴァーチュとヴィーナを迎えに建物から出て行った。
「十人になると、十倍疲れるなあ」
ケンが腰をさすりながら座り込む。
「十倍働いたからね。それはそうと、ラクシュミーの能力はすごいね!」
ミウはヒロがどう思っているのか、知りたかった。
「ラクシュミーならマリを救えるかも知れない」
ヒロが目を輝かせてミウとケンの手を握った。
そこへラクシュミーがヴァーチュの手を引き、ヴィーナを片手で抱いて戻ってきた。
「ヴァーチュ、この人たちが手伝ってくれたから、ケガをした人達みんなが建物の中に入れたのよ」
「やあ、ヴァーチュ、俺は力持ちのケンだよ。このサルはペットのコタロウ。よろしく!」
「わたしは、優しくて賢いミウよ。この猫はカゲマル。よろしくね、ヴァーチュ!」
「僕は、空を飛べるヒロだよ。この犬は賢いサスケ・・・」
ヒロが言い終わらないうちに、ヴァーチュがサスケの首に抱きついた。
「わあー、かわいい!サスケ、わたしはヴァーチュっていうのよ」